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週刊文春-2011年4月28日号掲載記事

自民論客 出血覚悟の「日本復興プラン」
元内閣官房長官 塩崎恭久&元法務副大臣 河野太郎

天災は歴史の大きな転換点だ
 今回の東日本大震災が日本国民に与えた試練は、単に、被災した地域を元の姿に戻すことではない。日本は、世界最悪の財政の借金を抱える人口減少社会である。今回の天災で、日本の衰退を加速させることが、絶対にあってはならない。
 壊滅した太平洋沿岸の町々に強固な堤防と安全な道路網を作り直す公共事業は当然必要だ。だが、それだけでは、この地域が自律的に再生できる保障はない。また、本当の復興とは、原状回復ではなく、新しい価値をつくる仕事なのだ。
 いま、震災と電力不足の余波を受けて、日本中で経済活動が猛烈に落ち込んでいる。このままでは、夏までに巨大な「経済大津波」が日本を襲う。今こそ、国民の英知で復興に向けたグランドデザインを描き、実行することが求められている。
 政府は復興のグランドデザインを描く役割を担う機関として「復興構想会議」を4月14日に発足させたが、第一次答申が6月末、最終答申が今年末としている。未曾有の危機に直面している中で、これではあまりにも悠長過ぎる。また、会合初日から復興税創設を検討するとの考えが示され、国内外から落胆と疑問が呈せられている。ここは、日本経済全体の落ち込み回避を含めたグランドデザインを早急にまとめ、内外に明らかにすることが必要だ。

原発のデューデリとストレステストを
 目下の最大の問題である東京電力福島第一原子力発電所の事故は、わが国原子力政策の課題を炙り出した。その原因、責任の所在などについては、強力な調査権限と政府等からの完全独立性を持つ調査委員会を発足させ、徹底検証を行い、結果を国内外に明らかにすべきだ。
 まず出発点は、全ての原発に対するデューデリジェンス徹底と、厳格なストレステストの実施である。福島原発事故を起こしたレベルの地震と20メートルを超える津波が押し寄せた場合、全国の原発でどうなるのか、というストレステストの結果を示さなければ、国民はもはや政府や電力会社の見解を信じることはないだろう。
 そして、デューデリ、ストレステストの結果を踏まえ、本格的かつ全面的なエネルギー政策の見直しを国民とともに議論しなければならない。

エネルギーの技術革新に大きく投資せよ
 まずやるべきは、高めの達成目標を設定することだ。再生可能エネルギー比率引き上げを前提に、10年後には原子力比率を現在の約3割から10~15%にまで引き下げることを目指す。また、15年後には、一旦全原発を停止させても国民生活、経済活動が安定的に維持できるような新たな電源構成を目指す。2050年の全原子炉廃炉も選択肢に入ってくるかもしれない。そうしたハードルを視野に、新たなエネルギー政策について徹底議論する事が大事で、否が応でもイノベーションへの期待と投資は大きくなる。
 電力供給量が不足する中で、原発の即時停止といった感情論だけでは問題は解決しない。原発を巡る議論をタブーにしないことが何よりも大切である。
 そのうえで、合理的な省エネの拡大はもちろん、太陽光や風力、地熱といった再生可能エネルギーの拡充に加えて、企業のコジェネレーションの積極的な拡大などを通じて、電力事業で民間活力を最大限に生かすべきだ。
 また、50ヘルツと60ヘルツに東西が分断されている電力グリッドの完全接続化(50Hz⇔60Hz)、220ボルト化などもこの際、計画的に、しかし一気に進めるべきだろう。
 それでも、このままでは電力供給量は、毎年夏に逼迫しかねない。そこで、国民の側でも工夫は必要だ。サマータイム導入、在宅勤務の一部義務化、夏季三週間バカンス導入、夏の甲子園等大規模イベントの秋季への延期等々、思い切って意識を変えてみるいいチャンスである。
 
東大などを福島に移転 未来都市を建設する
 東電福島第一原発の事故によって福島県の太平洋岸の30キロ圏内からの避難は長期化することが懸念されている。こうした避難を余儀なくされている人々に再び夢と希望を抱いてもらえるに十分な雇用の場、生活の場を提供することが急務である。
 そして福島、東北の人々に元気を取り戻してもらい、さらに原発問題は克服可能だし、日本は福島を大事にしていく、との政治の決意を国内外に強く発信するため、、国立組織・施設やナショナルセンターの多くを福島に移転してはどうだろうか。
 筆頭格は東京大学だろう。知の中心を福島に移す。また、昨年小惑星探査機「はやぶさ」で日本人の心を踊らせたJAXA(宇宙航空研究開発機構)、国立美術館、国立科学博物館などを福島に移し、新たな未来都市を建設する。
 さらには、東京ビッグサイトのような巨大イベント開催施設を新都市に造り、他地域に優先してイベントを官民がこぞって開催することで、若い世代をも巻き込んだ幅広い活性化が可能だ。
 こうすることで、先行き10年間の巨大な需要が生まれる。何よりも、大がかりな実験として、スマートグリッドなどエネルギー利用や、放射能防御を含む最新の防災技術を駆使して新たな未来都市の姿を創りあげる「新しい日本の夢」が生まれる。

東京一極集中の解消
 計画停電や原発事故の影響で、企業が東日本から退去する動きが相次いでいる。原発事故の状況にもよるが、こうした流れは今後も長期間にわたって続くことになるだろう。
 東日本の負担を減らす一方で、西日本のすべての生産活動の水準を、これまでよりも3割以上増大していくべきではないか。これは日本全体の経済活動の落ち込みを避けるために必要なことだ。また、リスク分散の観点から、第二本社を東京圏外に置くことも企業の課題になるだろう。製造業にとどまらず、金融、マスコミ他サービス業でも、西日本の能力増強は必須の課題だ。
 政府が率先して、主要機関を関西など西日本地域に移転させ、産業界を挙げての西日本における経済活動増強の動きをバックアップすべきだ。最高裁判所・法務省や公正取引委員会、特許庁、日本銀行など、必ずしも東京に中心を置く必要がなく、地方でも十分に機能を果たせる機関は多く存在する。

復興院に特区裁量権を与えよ
 被災地域の問題については、東北復興院を仙台におき、被災地域を特区とすることが基本である。東北各県や国の各省庁が持つ権限を復興院に委譲・一元化し、現場に近い復興院のリーダーシップにより行政判断していく体制とすればよい。復興院は、10年後の道州制導入を先取りして地方主導に徹し、そのまま東北州庁に移行したらよい。そこまでの未来を託せるリーダーをトップに選ばないといけない。
 高齢化が進む中で、これまで不便さが増していた街をコンパクトシティに作り変えるチャンスでもある。東北でまず再生可能エネルギー100%を実現し、スマートグリッドなど最新技術を駆使したエネルギー効率の高い都市にしよう。

増税は国民の理解を得て5年後から
 おおまかにみると、三陸地域での被災規模が25兆円、今後膨らむ東電国有化を含む原発事故関連費用が25兆円、そして東大などの福島移転と西日本地区のインフラ増強費用が25兆円、さらに、電力供給減少などにともなう経済活動の低下が長く続けば、名目GDPで25兆円分減少を見込む(5%に相当)。これらを全部足し合わせた復興関連需要を100兆円とすれば、このうち半分の50兆円(GDPの1割)は財政負担により賄うことが必要になるかもしれない。
 財源は、今後5年内については大規模な増税は行わず、国債発行により調達する。経済の体力が冷えた時期の増税は最悪の政策である。復興税を主張する向きもあるが、所得税や法人税に付加しても調達可能な財源は1兆円にもとどかないだろう。消費税増税をという声もあるが、経済が弱い時期に国民の懐を冷やす必要はない。そもそも、復興目的の増税直後に社会保障目的の再増税を決めることは不可能だろう。国債しか選択肢はないことは自明である。
 国債発行に当たっては、市場での消化を原則とするが、高齢化などによる貯蓄減少を背景として、民間金融機関による消化が困難になるおそれもある。その時には、日銀基金の増額などによる、思い切った買い取り策の必要性が出てくるかもしれない。
 金融セクターの強化も重要だ。郵貯銀行とメガバンクの再編や、公的資金を活用した地域金融の広域再編を行うことが必要になるだろう。国際競争に耐えられる資金量20〜50兆円規模の地域銀行群として道州内で集約しておかないと、弱い地域金融が東北経済の足を逆に引っ張ることになりかねない。
 もちろん、当面は国債発行で賄うにしても、将来の増税は避けられない。消費税率については、5年後以降に段階的に引き上げることを現在の段階からコミットしておくべきだ。これに国民の理解を得るには、ばら撒きを止め、徹底した行政部門の無駄を排除することが、まずもって重要だろう。われわれ政治家も議員定数の大幅な削減などを一刻も早く断行し、覚悟を示すことが必要だ。


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