2021/09/21(火) NO.870号
「第三臨調」により「令和の大改革」を断行せよ
自民党総裁選の政策論争が続いている。今回は男性2人、女性2人と、自民党では初めて多様性に富んだフルスペック総裁選だ。
しかし、その政策論争の中身を見ていると、日本の未来が極めて不安だ。
そもそも、コロナ禍以前から日本は深刻な危機に瀕してきた。少子高齢化が進み、放置すれば人口減少は今後さらに進行していく。経済の活力は失われ、平成30年間にわたり成長率は低迷し、潜在成長率は低迷を続けてきた。「失われた30年」だ。主要先進国との差は開き、一方で、隣国の中国は、5Gやドローン等をはじめとする先端技術を含め、世界のデファクト・スタンダードを獲得しながら、力強く成長し続け、米国を凌駕せんばかりの勢いで巨大な経済圏を築きつつある。
アベノミクスで経済は間違いなく息を吹き返した。しかし残念ながら、「第三の矢」の改革が不十分だった。コーポレートガバナンス改革などは一部前進したが、多くのその他の改革が道半ばだ。
例をあげれば、労働市場改革は最重要課題の一つだ。日本経済の活力を高めるには、人材が最大限能力を発揮できる環境が欠かせない。年功序列や長期雇用などの日本型雇用システムはその制約になっている。第四次産業革命で大変革競争がなされている中で、成長分野へのスピーディな投資と人材移動を阻んでしまう。このため、私は安倍内閣の厚労大臣として、同一労働同一賃金、解雇規制改革などの取り組みを始めてきたが、今に至っても全く中途半端のままだ。
優れた外国人の受け入れも課題だ。単純労働に近い「特定技能制度」は創設されたが、導入を急ぐあまり、日本の労働市場の質と社会の安定を守るには、数々制度上の未熟な点が残されている上に、それ以外の労働市場の国際的な開放は、ほとんど手つかずだ。今や、中国、韓国等の先駆的企業においては、外国人材は国内人材と同じ目線で選考、採用され、英語を共通言語として使いながら人種や国籍を問わない企業経営によって国際展開を行っているのが当たり前だが、日本の殆どの企業では、相変わらず、日本人だけが日本語で企業を動かしている。海外ではもはや見られない、世界の流れに背を向けた光景だ。となれば、世界に伍していくためには、日本の経済社会でも活躍、貢献できる幅広い外国人材を積極的に受入れ、その人たちが日本での暮らしをエンジョイできることができる制度や企業や社会のインフラ、そして、何よりも日本人のマインドセットを本格的に整備し直さなければならない。
大学改革も重要だ。教育は成長の基盤。また、大学はイノベ―ションの中核でもある。残念ながら現状では、日本のトップレベルの大学が世界では二流・三流扱いの上、地盤沈下が止まらない。文科省支配を脱し、大学の独自経営力を高め、教育・研究に十分な資金を投入できるようにしなければならない。このため、安倍内閣で大学のガバナンス改革に取り組んできたが、これもまだ全く道半ばだ。「10兆円ファンド構想」のように「人参」をぶら下げるだけでは、これまでと何も変わらない。
そのほかにも、農地の企業所有、電波割当の改革、ライドシェアの実現など長年懸案とされてきた課題があるが、いずれも解決されていない。
そして、根底にある最大の問題が、政策運営を担う官僚機構の劣化だ。霞が関の官庁では民間企業以上に年功序列が強く、いくら頑張っても報われない。しかも深夜に及ぶ国会対応など非生産的な業務に追われる。そんな職場環境に優秀な人材が入ってこなくなるのは当然だ。結果として政策が劣化している。権限を持った政府がなくなることはない。そして、優秀でない政府の下で、優秀な民間経済はあり得ない。だから、公務員制度改革は焦眉の急なのだ。基準が明確かつフェアな評価の下の能力実績主義の徹底、官民出入り自由などの改革に10年以上前から取り組んできたが、殆ど前に進まないままだ。霞が関の抵抗勢力と政治の無理解が日本の可能性を自ら潰している格好だ。
今回の総裁選では、こうした長年の懸案の包括的解決を唱える候補者が見当たらない。これでは、日本の未来は全く危うい。
そこで、今こそ「第三臨調」の立ち上げを提唱したい。
「臨調」というと「土光臨調(第二臨調)」が有名だ。土光敏夫氏のもとで、1980年代に国鉄民営化、電電公社民営化などをはじめ、日本の経済社会の難題に取り組んだ。その前に1960年代に「第一臨調」があった。また、2000年頃には、「臨調」という名称ではなかったが、橋本龍太郎内閣のもとで「行政改革会議」が設置され、その後の小泉改革への道筋を作った。振り返れば、おおよそ20年に一度、こうした国家の大改革に取り組んできたことになる。「第三臨調」については、昨今、国の行く末を憂うる一部識者から声が上がり始めている。
2020年代の今、「令和の大改革」を進めなければならない。新型コロナ感染症パンデミックを経た世界では、変化のスピードが大幅に加速されているだけに、わが国の変化が今のように極めて遅いままでは、早晩、前を走るトップランナーの背中が遂に見えなくなるだろう。
かつての「土光臨調」のように、時の政権主導の下、経済界・学界・言論界の人材を結集できないか。そして、4人の自民党総裁候補の中で、誰がこのような総合的、包括的、かつ抜本的な「令和の大改革」に踏み切る覚悟があるのか、知りたい。是非、この総裁選中に声を上げて欲しいものだ。そして、今の機会を逃せば、日本の未来はないだろう。
私は、まずは自民党国会議員の中でかかる問題意識を共有する仲間を募るとともに、在野に移った後には、志ある方々とともに課題整理を急ぎたいと考えている。
しかし、その政策論争の中身を見ていると、日本の未来が極めて不安だ。
そもそも、コロナ禍以前から日本は深刻な危機に瀕してきた。少子高齢化が進み、放置すれば人口減少は今後さらに進行していく。経済の活力は失われ、平成30年間にわたり成長率は低迷し、潜在成長率は低迷を続けてきた。「失われた30年」だ。主要先進国との差は開き、一方で、隣国の中国は、5Gやドローン等をはじめとする先端技術を含め、世界のデファクト・スタンダードを獲得しながら、力強く成長し続け、米国を凌駕せんばかりの勢いで巨大な経済圏を築きつつある。
アベノミクスで経済は間違いなく息を吹き返した。しかし残念ながら、「第三の矢」の改革が不十分だった。コーポレートガバナンス改革などは一部前進したが、多くのその他の改革が道半ばだ。
例をあげれば、労働市場改革は最重要課題の一つだ。日本経済の活力を高めるには、人材が最大限能力を発揮できる環境が欠かせない。年功序列や長期雇用などの日本型雇用システムはその制約になっている。第四次産業革命で大変革競争がなされている中で、成長分野へのスピーディな投資と人材移動を阻んでしまう。このため、私は安倍内閣の厚労大臣として、同一労働同一賃金、解雇規制改革などの取り組みを始めてきたが、今に至っても全く中途半端のままだ。
優れた外国人の受け入れも課題だ。単純労働に近い「特定技能制度」は創設されたが、導入を急ぐあまり、日本の労働市場の質と社会の安定を守るには、数々制度上の未熟な点が残されている上に、それ以外の労働市場の国際的な開放は、ほとんど手つかずだ。今や、中国、韓国等の先駆的企業においては、外国人材は国内人材と同じ目線で選考、採用され、英語を共通言語として使いながら人種や国籍を問わない企業経営によって国際展開を行っているのが当たり前だが、日本の殆どの企業では、相変わらず、日本人だけが日本語で企業を動かしている。海外ではもはや見られない、世界の流れに背を向けた光景だ。となれば、世界に伍していくためには、日本の経済社会でも活躍、貢献できる幅広い外国人材を積極的に受入れ、その人たちが日本での暮らしをエンジョイできることができる制度や企業や社会のインフラ、そして、何よりも日本人のマインドセットを本格的に整備し直さなければならない。
大学改革も重要だ。教育は成長の基盤。また、大学はイノベ―ションの中核でもある。残念ながら現状では、日本のトップレベルの大学が世界では二流・三流扱いの上、地盤沈下が止まらない。文科省支配を脱し、大学の独自経営力を高め、教育・研究に十分な資金を投入できるようにしなければならない。このため、安倍内閣で大学のガバナンス改革に取り組んできたが、これもまだ全く道半ばだ。「10兆円ファンド構想」のように「人参」をぶら下げるだけでは、これまでと何も変わらない。
そのほかにも、農地の企業所有、電波割当の改革、ライドシェアの実現など長年懸案とされてきた課題があるが、いずれも解決されていない。
そして、根底にある最大の問題が、政策運営を担う官僚機構の劣化だ。霞が関の官庁では民間企業以上に年功序列が強く、いくら頑張っても報われない。しかも深夜に及ぶ国会対応など非生産的な業務に追われる。そんな職場環境に優秀な人材が入ってこなくなるのは当然だ。結果として政策が劣化している。権限を持った政府がなくなることはない。そして、優秀でない政府の下で、優秀な民間経済はあり得ない。だから、公務員制度改革は焦眉の急なのだ。基準が明確かつフェアな評価の下の能力実績主義の徹底、官民出入り自由などの改革に10年以上前から取り組んできたが、殆ど前に進まないままだ。霞が関の抵抗勢力と政治の無理解が日本の可能性を自ら潰している格好だ。
今回の総裁選では、こうした長年の懸案の包括的解決を唱える候補者が見当たらない。これでは、日本の未来は全く危うい。
そこで、今こそ「第三臨調」の立ち上げを提唱したい。
「臨調」というと「土光臨調(第二臨調)」が有名だ。土光敏夫氏のもとで、1980年代に国鉄民営化、電電公社民営化などをはじめ、日本の経済社会の難題に取り組んだ。その前に1960年代に「第一臨調」があった。また、2000年頃には、「臨調」という名称ではなかったが、橋本龍太郎内閣のもとで「行政改革会議」が設置され、その後の小泉改革への道筋を作った。振り返れば、おおよそ20年に一度、こうした国家の大改革に取り組んできたことになる。「第三臨調」については、昨今、国の行く末を憂うる一部識者から声が上がり始めている。
2020年代の今、「令和の大改革」を進めなければならない。新型コロナ感染症パンデミックを経た世界では、変化のスピードが大幅に加速されているだけに、わが国の変化が今のように極めて遅いままでは、早晩、前を走るトップランナーの背中が遂に見えなくなるだろう。
かつての「土光臨調」のように、時の政権主導の下、経済界・学界・言論界の人材を結集できないか。そして、4人の自民党総裁候補の中で、誰がこのような総合的、包括的、かつ抜本的な「令和の大改革」に踏み切る覚悟があるのか、知りたい。是非、この総裁選中に声を上げて欲しいものだ。そして、今の機会を逃せば、日本の未来はないだろう。
私は、まずは自民党国会議員の中でかかる問題意識を共有する仲間を募るとともに、在野に移った後には、志ある方々とともに課題整理を急ぎたいと考えている。
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