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やすひさの独り言 Yasuhisa's Soliloquy 今一番伝えたい考えや想いをお伝えいたします

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2004/07/21(水) NO.356号 

真っ青な空の下、ポルトガルの司法制度から学ぶ

 ベルリンとはうって変わった気候と景色に心が洗われる気分。真っ青な空、それも青さが深い。乾燥しきった空気の透明度は高い。濃い紫など、さまざまな花も色鮮やか。さらに、白、ベージュ、淡い黄色など家の壁、葉の濃い緑など、あらゆる風景での色のコントラストが何とも言えない。つい先日まで行われていたサッカー大会の名残で、住宅などそこここで旗めくポルトガルの国旗も美しい色合いのままだ。

 まず、サウヴァード司法警察長官を訪問する。検察と裁判所判事の双方を経験している、という、日本ではまずない経歴の長官だ。主な論点は、捜査手続きの透明性、参審制の評価、犯罪被害者の刑事手続き参加。

 警察の捜査・取り調べにおける被疑者の人権保護、透明性確保・可視化を聞くと、警察段階での弁護士立ち会いは日本同様なく、裁判所での尋問の際のみのようだ。取り調べ状況を録音したり、ビデオ録画する制度もなさそう。

 参審制による裁判形式は、20世紀初頭に王制から共和制に移行した際、一旦採用されたがうまくいかず廃止され、数十年のブランクの後、1987年に再び導入された。裁判官3人に参審員4人で、8年以上の刑が科される犯罪が対象で、検察、弁護士、被告人のいずれかの要求が必要という「選択制」をとっている。利用実績は、対象犯罪のわずか1〜2%しかないという。それでも、長官は「参審制に参加した国民は皆、裁判とは何かを知り、人を裁くとはどういう事かという意識が増し、この制度が国民の義務であることを理解してくれ、有意義な制度だ。これまで裁判に参加する、との文化がなかったので選択制にしているが、これを強制するかは次世代の受け止め次第だろう」と、前向きの意見だった。

 犯罪被害者の刑事手続き参加は、「 assistente 」制度という仕組みが、1929年という 欧州でも最も早期に導入されている、という。欧州でも唯一の制度、だそうだ。法廷で意見陳述や証拠の提出もでき、検察とは別に告訴も可能、とのこと。興味深いが今ひとつ仕組みが明確ではない。

 次にモウラ共和国検事総長と面談。私と同じ歳だ。

 まず、参審制に関しては、政治決断で導入されたが、未だ一般的には受け入れられてはおらず、昨年の実績も約8700件の対象犯罪の中で、たった9件だったそうだ。検察、弁護士、被告人のいずれかが要求すれば採用しないといけない「選択制」だが、こうした実績なのは、「三者のいずれも、もし参審制を要求すると、参審制でないと勝てない、と取られ、自らの立場が弱くなるからだ」との興味深い説明だった。導入するなら強制適用しかない、ということだろう。

 参審員の選考は18歳以上の選挙人名簿から無作為抽出された100人から、回答が義務づけられているアンケート内容を弁護士などが吟味し、正規の4人と補欠の4人に絞り込むそうだ。かつては、参審員となった母親が息子の葬儀に参加できないほど個人的事情を無視した義務であったそうだが、今は個人的な都合をかなり聞いてくれているようだ。総長以下面談した3人の検事とも、「参審員の経験をした市民は、裁判に対する考えが一変し、人を裁くことの意味を理解する、素晴らしい制度」と、利用実績が貧弱にも拘わらず高く評価していたのは司法警察長官と同様で、このことが意味するところを考えさせられる。

 犯罪被害者の刑事手続きへの参加制度である「 assistente 」の名称のそもそもの由来は、「検察への『協力者』」であり、本来両者は同じ側に立つが、両者の言い分が異なった場合、検察とは別個に裁判を起こす権利は確保されているという。日本での制度導入に際し、「検察への協力者」との位置づけでは意味があるまい。

 なお、興味深かったのは、汚職など、国家に対する犯罪の場合、その事実を知った国民は誰でもこの制度により検察とは別個に告発ができる、という制度になっていることだった。

 両者の話を聞いて感じたことのひとつは、日本における裁判員制度の5年後の導入に向けて、国民の意識高揚はもちろん、検事、裁判官の考え方の整理、並びに国民が裁判員を引き受けることの負担軽減の工夫など、相当な努力が要りそうだ。制度がうまく機能するまでの道のりが予想通りかなり険しそうであることを感じた面談だった。

 委員会視察はこのあとイタリア、フランス、と続くが、私は講演などのため、残念ながら、明日、パリ経由で帰国しなければならない。たった5日間であったが、視察を共にした法務委員同士や同行してくれた法務調査室、法務省メンバーとの心の絆が深まったことが何よりも嬉しい。

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