2009/02/20(金) NO.513号
「かんぽの宿」売却価格は本当に安過ぎるか?(2月20日)
今日の夕方から日曜日の午前中にかけ、私が2001年から日本側座長を務める「日英21世紀委員会」の第25回合同会議が小田原で開催される。昨晩の飯倉公館での中曽根外相主催歓迎レセプション、今日の官邸での総理表敬などの後、会場の「ヒルトン小田原リゾート&スパ」に全員移動、16:30から第一セッション「日本および東アジアの現状と課題」が始まる。なお、明日以降、「英国および欧州の現状と課題」、「米国大統領選挙がグローバル・ガバナンスに及ぼす影響」、「世界的経済構造変化における金融危機への対応」、「エネルギーと環境問題への日英共通の課題」とのテーマで熱い議論が交わされる予定だ。
冒頭、司会の私から25周年を迎えるこの会議参加者への歓迎と感謝を改めて述べた。また、会場のホテルが、自民党行革推進本部の指摘を受け、官から民に運営が移された、象徴的な官業ビジネスの残滓である、との由来をひとこと付け加えさせてもらった。
東京ドーム5個分の広大な敷地内に超豪華ホテル、温泉、テニスコート、ボーリング場を有するこのホテル、元々は特殊法人「雇用促進事業団」(今の独立行政法人「雇用・能力開発機構)が98年に営業開始した「スパウザ小田原」という「勤労者福祉施設」だった。小田原市がみかん園の転換跡地利用のために誘致したものだが、雇用保険料から445億円もの巨額建設資金をかけて建設された。
96年から本格稼働し始めた自民党行革推進本部で、水野清本部長、柳沢事務局長の下で私は事務局次長を務め、最大課題の一つとして特殊法人改革に取り組んだ。各省をひとつずつ党本部に呼んでヒアリングを行い、膨大な資料を分析しながら特殊法人の見直し、廃止を行っていった。その中で、とんでもなくムダ遣いをしていたのが「雇用促進事業団」であり、その象徴的官業ビジネスがこの「スパウザ小田原」だった。写真週刊誌やテレビなどマスコミにも取り上げられ、伊豆の温泉街などからは、雇用保険料で賄われる勤労者福祉施設が安い宿泊料を設定する「官業の民業圧迫だ」、との批判が寄せられ、結局わずか8.5億円で小田原市に売却され、ヒルトンホテルが運営委託される事となったものだ。
良くここまで贅を尽くせるものだ、というほど豪華なホテルで、夕食会場で隣り合わせた英国側座長のカニンガム卿や、元エコノミスト編集長のビル・エモット氏などは、驚くほど高い天井や高級材を使った四方の壁、上下に動くという舞台、壁からせり出してくる観客席などがある事を知り、目を丸くしながら「面白い!」の連発だった。しかし、聞いてみればやはり採算が合わず、小田原市とヒルトンホテルの間で今後の運営方法について議論が続いているという。
今、「かんぽの宿」の売却問題で日本郵政が叩かれているが、こうした特殊法人の行状を見てきた私達からみれば、政府や与野党、マスコミがこぞって展開する根拠なき感情論には抵抗感を覚える。2400億円かけたものを投資資金の4.5%強にあたる109億円で売り飛ばすのは安過ぎてけしからん、という理屈だ。しかし、スパウザ小田原の場合は2%弱で小田原市へ売却されたが、それでも運営は行き詰まっている。要は、価値のないものに膨大な資金を投資したに過ぎないのだ。また、収益還元価格になっている帳簿上の不動産の「簿価」が「固定資産税評価額」の七分の一になっており、乖離が大きすぎるからおかしい、と騒ぎになっているが、むしろ課税評価額こそ実態を反映していない、とも言えるのだ。
雇用保険も簡易保険も、いずれも特別会計だった。「母屋でおかゆをすすりながら、離れではすき焼きを食べている」と塩川元財務相が絶妙な表現をしたように、特別会計は政治や国民から見えにくかった。そこを巧みに利用した沢山の税金や保険料のムダ遣いと天下りを、我々はえぐり出し、制度を改革してきた。これからもまだまだこうした問題を探し出し、改革を行わねばならないだろう。そんな今、表面的に極端に見える数字にだけに焦点を当てて魔女狩りのように糾弾するのは、返って事の本質を見失う事になる。
今回、日英21世紀委員会の会議で、偶然「官業ビジネス」の象徴の残滓と出会い、改めてこの国のかたちのあるべき行方を考えさせられた。
冒頭、司会の私から25周年を迎えるこの会議参加者への歓迎と感謝を改めて述べた。また、会場のホテルが、自民党行革推進本部の指摘を受け、官から民に運営が移された、象徴的な官業ビジネスの残滓である、との由来をひとこと付け加えさせてもらった。
東京ドーム5個分の広大な敷地内に超豪華ホテル、温泉、テニスコート、ボーリング場を有するこのホテル、元々は特殊法人「雇用促進事業団」(今の独立行政法人「雇用・能力開発機構)が98年に営業開始した「スパウザ小田原」という「勤労者福祉施設」だった。小田原市がみかん園の転換跡地利用のために誘致したものだが、雇用保険料から445億円もの巨額建設資金をかけて建設された。
96年から本格稼働し始めた自民党行革推進本部で、水野清本部長、柳沢事務局長の下で私は事務局次長を務め、最大課題の一つとして特殊法人改革に取り組んだ。各省をひとつずつ党本部に呼んでヒアリングを行い、膨大な資料を分析しながら特殊法人の見直し、廃止を行っていった。その中で、とんでもなくムダ遣いをしていたのが「雇用促進事業団」であり、その象徴的官業ビジネスがこの「スパウザ小田原」だった。写真週刊誌やテレビなどマスコミにも取り上げられ、伊豆の温泉街などからは、雇用保険料で賄われる勤労者福祉施設が安い宿泊料を設定する「官業の民業圧迫だ」、との批判が寄せられ、結局わずか8.5億円で小田原市に売却され、ヒルトンホテルが運営委託される事となったものだ。
良くここまで贅を尽くせるものだ、というほど豪華なホテルで、夕食会場で隣り合わせた英国側座長のカニンガム卿や、元エコノミスト編集長のビル・エモット氏などは、驚くほど高い天井や高級材を使った四方の壁、上下に動くという舞台、壁からせり出してくる観客席などがある事を知り、目を丸くしながら「面白い!」の連発だった。しかし、聞いてみればやはり採算が合わず、小田原市とヒルトンホテルの間で今後の運営方法について議論が続いているという。
今、「かんぽの宿」の売却問題で日本郵政が叩かれているが、こうした特殊法人の行状を見てきた私達からみれば、政府や与野党、マスコミがこぞって展開する根拠なき感情論には抵抗感を覚える。2400億円かけたものを投資資金の4.5%強にあたる109億円で売り飛ばすのは安過ぎてけしからん、という理屈だ。しかし、スパウザ小田原の場合は2%弱で小田原市へ売却されたが、それでも運営は行き詰まっている。要は、価値のないものに膨大な資金を投資したに過ぎないのだ。また、収益還元価格になっている帳簿上の不動産の「簿価」が「固定資産税評価額」の七分の一になっており、乖離が大きすぎるからおかしい、と騒ぎになっているが、むしろ課税評価額こそ実態を反映していない、とも言えるのだ。
雇用保険も簡易保険も、いずれも特別会計だった。「母屋でおかゆをすすりながら、離れではすき焼きを食べている」と塩川元財務相が絶妙な表現をしたように、特別会計は政治や国民から見えにくかった。そこを巧みに利用した沢山の税金や保険料のムダ遣いと天下りを、我々はえぐり出し、制度を改革してきた。これからもまだまだこうした問題を探し出し、改革を行わねばならないだろう。そんな今、表面的に極端に見える数字にだけに焦点を当てて魔女狩りのように糾弾するのは、返って事の本質を見失う事になる。
今回、日英21世紀委員会の会議で、偶然「官業ビジネス」の象徴の残滓と出会い、改めてこの国のかたちのあるべき行方を考えさせられた。
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