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2012/11/04(日) NO.741号 

障害者の生きる権利と尊厳を守る

 少し長い独り言になるが、お許しいただきたい。

 昨年11月、松山市のある障害者団体の会長さんから、彼が親しい障害者施設の施設長が、厚労省の通知によって入所中の障害者がかかりつけ医など、ニーズに応じた医療を受けづらく、困っているので、是非話を聞いてほしいとの要請があった。

 その施設長さんから内容をお聞きしてからほぼ一年。度重なる厚労省と私達とのやり取りの結果、先週の11月1日付け厚労省保険局医療課からの「事務連絡」通達が各都道府県の国民健康保険担当課などに送られ、漸く障害者の生きる権利と尊厳が守られる解釈が示された。

(通達本文)
http://www.y-shiozaki.or.jp/contribution/pdf/20121104162055_kxTk.pdf

 障害者入所施設には、「配置医師」という制度の下、契約した医師が2週間に一度くらいのペースで定期的に施設を訪れ、必要な診療を行うとともに、緊急時対応などをしてくれている。そのコストは、施設への補助金の中に組み込まれている形となっている。

 しかし、体温調節障害など様々な、複雑な障害を持つ入所者は、症状に応じて、子供の時からのかかりつけ医などの専門的医師でないとなかなか診断ができないなど、施設内の「配置医師」以外の医師に診てもらいたい、とのニーズが強い。ところが、例えば、平成22年3月30日付けの「『特別養護老人ホーム等における療養の給付の取り扱いについて』の一部改正について」との通達には、こう書いてある。

「保険医が、配置医師でない場合については、緊急の場合または患者の傷病が当該配置医師の専門外にわたるものであるため、特に診療を必要とする場合を除き、それぞれの施設に入所している患者に対してみだりに診療をしてはならない。」

 一言でいえば、配置医師以外の医師は、施設入所障害者への診療を軽々にしてはならない、とのお達し、なのだ。なぜならば、配置医師を契約する補助金が措置されているのに、保険医療を受けて他の被保険者の負担となることはおかしい、というのだ。

 さらに、障害者関係者から指摘されて、なるほど、と思ったのは、そもそも障害者の問題が、特養ホームなどの高齢者の扱いに関する通達の中に含まれてしまっており、「ついで」のような扱いだ。これでは障害者の人間としての尊厳が守られず、障害者の権利が認められていない。障害者と高齢者は、別々の体系の下での扱いをし、通達も当然別にすべきだ、というもっともな指摘だった。

 自宅に住んでいる限り、自分の判断でかかりつけ医を含む、どのお医者さんにでも診てもらえるのに、諸般の事情で障害者施設に入所せざるを得なくなった途端に、施設が契約した医師にしか診てもらえず、具合が悪くなって、急いでかかりつけ医に駆けつけても、「みだり診療」として医療保険の対象にならないおそれから、診てもらえないケースが多発し、施設長さんなどが困っていたのだ。

 早速私はこの実態を厚労省に伝え、こういうケースは本当に起きているのかと質問したが、厚労省からは「そのような問題は、聞いたことがない」との答えだった。私はそんなことはない、と言って、地元の障害者施設に電話をし、施設長さんと議員会館自室で、厚労省の担当官も交えての電話会議も開き、実態を聞いてもらうなど、以来、件の通達をどう変えるかを繰り返し議論してきた。

 議論は一進一退だったが、半年くらい経ったある日、厚労省の担当者が、「他地域からも同趣旨の照会があった。同じ様な問題が全国に存在することが良く分かった。ついてはこういう返答を考えてみることとしたので、この内容でよいか」と、Q&Aの文案の提示が突然あった。

 しかし、その際の厚労省の文案では、(1)症状が悪化した場合だけを想定し、悪化する以前の処置や予防など、障害特性に応じた受診を考慮していない、(2)患者本人が配置医師に対し、「他の医師に診て欲しい」と求めなければならない、など現実離れした提案であった。

 さらに議論を重ねた結果、ここにきてようやく、(1)症状の悪化だけでなく、その手前での障害の特性に応じた受診にも配慮すること、(2)とりわけ、患者個々人の病歴を知っていたり、特別の症状を示すことを知っているが故に診断できることがあることを配置医が考慮すること、(3)入所者本人からの求めだけでなく、施設長や施設の常勤看護師、家族の求めにも応じること、などの考えに立脚した、「みだり診療」条項によって障害者が差別されたり、不自由な目に合わないで済む通知文を厚労省と合意することとなった。少し長いが、あえて該当部分を以下に記したい。

「医師配置のある障害者支援施設の入所者の症状の悪化や障害の特性に応じた受診に伴い、例えば、配置医が内科である場合であって、当該入所者の障害の特性に応じて、内科の特定の医師やその他の科の医師による患者個々人の病歴や状態に応じた専門的な診療が必要となる場合も想定されるため、当該診療の必要性を配置医が認める場合において、当該入所者からの求め(入所者のニーズを踏まえた家族や施設側からの求めによる場合を含む。)に応じて外部の医師が診療することは、『みだり診療』には該当しない。」

 この通知により、施設にいる障害者の方々も、自宅で暮らす障害者の方々同様、ニーズと症状に応じた医師を選ぶことができるようになった。結論が出るまでに約一年と、時間がかかったが、障害者の生きる権利と尊厳が守られ、良かった。

 しかし、行政にはこうした生活実態や障害者ニーズからかけ離れた問題がまだまだ沢山あるはずだ。とりわけ弱い立場の障害者などは、泣き寝入りをしてしまっていることが多いのではないか。だが、今回の事例のように、松山発の声が全国の制度を改善することができる。今後とも、現場の声にさらに耳を傾け、一層努力していきたい。

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