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やすひさの独り言 Yasuhisa's Soliloquy 今一番伝えたい考えや想いをお伝えいたします

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2021/03/07(日) NO.857号 

「官民ゲノム解析チーム」立ち上げを急げ

一昨日、首都圏1都3県の緊急事態宣言が2週間再延長された。「2週間」の科学的根拠が求められるが、7月以降のオリンピック・パラリンピックを、全豪オープンテニス並みの万全の体制で開催することを確実にするためにも、今こそ国民の行動変容に頼る「待ちの姿勢」から、今こそ「有事」に不可欠な「攻めの戦略・戦術」を本格展開する路線に大きく転換する好機としてはどうか。政府のコロナ本部でも一部示唆されているが、無症状者を含めた「いつでも、誰でも、どこでも、何度でも、無料のPCR等検査の徹底」や、私達の提案する「官民合同ゲノム解析チーム組成による変異株抑え込み」など、強力かつ広範な「攻めの政策」を「総力戦」で実行し、一日も早く心おきなく経済活動を可能とすべきではないか。

政府のコロナ本部会合とほぼ同時刻の金曜日の夜、私はテレビ生出演があり、変異株問題について尾崎東京都医師会長や若手研究者などと議論をした。来週から本格的に始まる自民党コロナ本部・科学技術・イノベーション調査会・データヘルス特命委合同での変異株対策チームでの政策提言作りを前に、その準備打ち合わせも一昨日の午後に行われたところだ。

今回の緊急事態宣言の2週間再延長決定の重要な考慮要素のひとつが「変異株問題」だ。変異株で最も多い英国型の感染力について、イギリス政府は、従来のウイルスに比べて感染力が70%強いとみられ、実効再生産数を0.4またはそれ以上上昇させる可能性があるとしている。日本の現在の実効再生産数が、感染研監修のもとでNHKが算出している3月4日現在の0.99とすれば、0.99 X 1.7=1.68となり、仮に全てのウイルスがそのような変異株に入れ替わってしまえば、再び感染者が一気に急増する恐れがあるといえる。東京都の新規感染者数が微増傾向に転じたが、対策効果による感染者減少を打ち消す原因の一つに変異株が入っていないとも限らない。だから一日も早くゲノム解析体制を官民の総力を挙げて作ることが喫緊の課題なのだ。

ところが今の政府の態勢では、「専門家の意見を聞いた上で、対応策を政府のコロナ本部で決定する」とされながら、その本部の「分科会」にも、また厚労省の「アドバイザリーボード」にも、本格的なゲノム解析の理論と実践に精通する専門家はいない。強いて言えば、アドバイザリーボード座長のウイルス学の専門家である脇田感染研所長がおり、感染研にゲノム解析専門部署がありはするが、個人の資格で参加する専門家会議であり、これだけ変異株が問題視されている限り、本格的なゲノム解析の専門家が政府の専門家会議には必ずいるべきだ。早急に然るべき専門家を複数加えることを提案する。

先週金曜日のネットニュースや、土曜日のNHKニュース、今朝の全国紙に報道されているが、先日データヘルス特命委においで頂いた慶応大学の小崎健次郎教授のチームの研究により、感染研がGISAIDという国際的ゲノム解析情報公開サイトにアップしたデータと慶応チームのデータと比較解析し、昨年8月と12月のデータから、海外からの流入ではなく、日本国内で独自にE484Kと呼ばれる変異が起きていたことが判明した、という。たまたまそのウイルスは今のところその後のまん延がないようだが、データの積極開示がなされていたがゆえに、民間の英知が官が見出していない事実を分析、発見し、公表した好事例だと思う。

ウィルス変異は世界中どこでも起きるのであり、日本国内で、英国型のような感染力の強い変異が単独で起きたり、ワクチンの効果を減衰させる変異が起きた場合にはワクチンをそれに合うように作り替えなくなるなど、深刻な事態となるリスクが十分あり得る。わが国には、国内メーカー製のワクチンもなく、海外メーカー製のワクチンを作り直すライセンスと能力があるかどうかが問われる事態となる訳だ。

一日も早く「官民のゲノム解析チーム」を立ち上げ、「平時」の発想のまま感染研1か所でのデータの独占的管理や解析に委ねるのではなく、感染研を中心とする「疫学研究」と大学、民間研究機関等を中心とする「臨床研究」の有機的一体化を図りつつ、日本国内はもとより、世界の英知と能力も総動員して変異株問題へ対処すべきことを重ねて提案する。