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2022/04/04(月) NO.872号 

自律機能なくして発展なし

2019年の夏、私が本部長を務めていた自民党行革推進本部は、公益法人改革の提言をまとめた。その中で、イノベーション創出の源である学校法人のガバナンス改革に関し、踏み込んだ提言を行った。私学に対しては、単に助成金が国等から投入されるだけでなく、学校法人としての公益性を認められれば、他の公益法人同様に手厚い税制優遇が与えられる。いわば、納税者の血税が補助金が入る以前に固定資産税等の大幅免除の形で「税金支出(tax expenditure)」が行われる特別の存在なのだ。となれば、納税者たる国民に対し、税金免除する分、意思決定プロセスの透明化と利益相反排除等のガバナンス強化、そして確たる説明責任の明確化等が求められ、我々は至極当然な提言を行ったまでだ。

創業者が自ら無税で私財を投じて創設し、税制優遇を受けながらも、創業者等は思うようにその学校法人を運営したいとの思いが強いと聞く。本当に好き勝手をしたいならば、会社組織のように、税制優遇を受けず、納税義務を果たした上で、自由に経営すべきだろう。

その年の「骨太の方針2019」では、私と柴山文科大臣(当時)との合意に基づき、「公益法人としての学校法人制度についても、社会福祉法人制度改革や公益社団・財団法人制度の改革を十分踏まえ、同等のガバナンス機能が発揮できる制度改正のため、速やかに検討を行う」とまで踏み込んだ。因みに、社会福祉法人法改正は、私が厚労大臣の間に行った。

昨年3月に文科省・有識者会議報告がまとめられたが、極めて不十分であったため、昨年7月から文科大臣直属の「学校法人ガバナンス改革会議」が立ちあがり、去る12月、閣議決定通り、概ね「他の公益法人と同等のガバナンス機能を備える」改革提言が行われた。法制化の上施行すれば、漸くわが国の私学における資源配分の効率性が格段に向上し、イノベーションを本格的に生み出すことが可能になる、との期待が膨らんだ。

ところが、改革会議提言後に文科省が自民党文科部会等での改革会議提言への批判を受けて立ち上げた「学校法人制度改革特別委員会」(以下、「特別委員会」)の「学校法人制度改革の具体的方策について」(以下、「具体的方策」)との新たな提言が先週3月29日に公表され、これに基づく法改正が行われると聞く。内容的は、理事と評議員の兼職禁止、評議員会による監事の選任、内部統制システム設置義務付け、会計監査人の設置など、公益法人としては当たり前ながらも、学校においては初めての前進が何箇所かあるが、肝心な点では本質的前進は見られない。

二言目には、「私立学校の特殊性」や「学校法人の多様性」を学校関係者は強調するが、「執行と監督の分離」等の「健全なガバナンス」と「特殊性、多様性重視」とは、全く次元の異なる問題だ。健全なガバナンスの仕組みが既に導入されて久しい公益財団法人や社会福祉法人において、法人固有の事業目的の特殊性や多様性が損なわれ、「金太郎飴状態」を強要されている、との悲鳴をかかる法人から聞いたことがない。また、誰しもが認める良き建学の精神の実現等のためならば、むしろその理想実現のために、ガバナンス強化こそが貢献する、という事ではないか。

そもそも、「具体的方策」の基本認識からして、「現状において問題がないとしても、私学のガバナンス改革が不必要であるとは言えない」などノー天気な指摘をしているが、今回の日大事件や2016年の明浄学院事件、2008年の東京福祉大学事件などいずれもワンマン理事長が逮捕されるようなケースが後を絶たない現状とその原因を、「特別委員会」や文科省は何と心得るのだろうか。

とりわけ、いかなる組織においても最も重要なガバナンスの基本である「執行と監督の分離」は、今次「具体的方策」では実現されていない。例えば、理事長の任免は理事会の権限に属することを法定せよとされ、現状と何も変わらず、ガバナンス強化には全くなっていない。また、その理事の任免権者に至っては、評議員会、理事会、役員選考会議、等どこであっても良いから「寄付行為」で各法人が定めるよう法定せよ、と言うだけだ。それでは理事長は引き続き「イエスマン」ばかり集め、今回の日大理事長のように裁量的運営を可能にするよう理事会で選べるようにできてしまう。

また、これまで私学法で積極的に認めて来た教職員の評議員兼務問題についても、上限数を設定するだけで、引き続き容認する。利益相反の典型だ。自分の雇い主に対し、核心に迫る批判をする従業員は、まずいない。

そもそも、これまでの学校法人の問題点は、多くの重要事項を各法人がそれぞれ裁量的に「寄付行為」で定め、結果理事長に権限が集中する仕組みの下で無秩序状態が許されてきてしまった点だ。今回は、それを各法人が、各々のガバナンスの仕組みをブラックボックスのまま法定せよと、いわば現状の機能不全のガバナンスの仕組みをそのまま法定化するに過ぎず、進歩が全くない。

イノベーションこそ日本の生き残りの最後の拠り所。その源が大学だ。国立大学改革も、文科省の呪縛から解放し、自律的戦略経営を可能とする新たな国と国立大学との間の法的契約関係を構築することなく、「10兆円ファンド」の人参だけをぶら下げて良しとすることで終わりそうだ。そして、私学の学校法人改革も、資源の有効配分を可能にする戦略的ガバナンス構造構築はこのままでは不可能だろう。結果、有為な人材の国外流出は、これまで以上に加速するのではと危惧の念を深めざるを得ない。

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