トップ > やすひさの独り言

やすひさの独り言 Yasuhisa's Soliloquy 今一番伝えたい考えや想いをお伝えいたします

  • メールマガジン登録・解除
  • 全タイトル一覧
  • バックナンバー
2021/05/30(日) NO.867号 

DXにより自宅療養で亡くならない国を作る

一昨日の金曜日、私が委員長を務める自民党データヘスル推進特命委を開催、「骨太の方針2021」を見据え、これまでの議論を政策提言と改革工程表として取りまとめ、議論の上、委員長一任を頂いた。文言調整の上、来週火曜日に自民党政策審議会でご承認を頂ければ、関係大臣へ申し入れの予定だ。

今年の提言には、新型コロナ感染症のまん延と、デジタル庁設置に象徴されるように、政府としてのデジタル・トランスフォメーションの強力推進の大きな流れができ、データヘルス改革は格段に加速すべき、との認識の下の重要な提言が多い。詳細は「提言」(注1)並びに、昨年の「骨太の方針2020」において昨年末が期限であったものの、特命委との合意ができない政策がいくつか残り、ようやく一昨日の午前中に文言を含めやっと合意にこぎつけた「改革工程表」(注2)をご一読頂きたいが、重要な点をいくつかご紹介したい。

改革工程表づくりがここまで半年近くも遅れた最大の原因は、昨年6月の自民党行革推進本部提言での改革3本柱のひとつである、「『公衆衛生』と『地域医療』の有機的一体化」、のデータヘルス改革上の位置づけについて、中々合意に至らなかったことだった。

昨日のテレビニュースでも報道されていたが、自宅療養中のコロナ陽性患者が人知れずご自宅で亡くなるケースが後を絶たない。これだけ平均的医療の質が高水準の国でありながら、なぜ第三波でも第四波でも、多くの方がご自宅で孤独の中、亡くなっていくのか。

理由は明白だ。いつも診て頂くかかりつけ医が存在しながら、PCR検査で陽性と判明した途端に、そのかかりつけ医との関係が、殆どの場合、遮断されてしまうのだ。そして、その陽性患者が自宅療養する場合、保健所の「健康観察」の下に入り、かかりつけ医の下で診て頂く事にはならなくなってしまうのだ。社会的にはここに疑問はあまり呈せられてこなかったため、マスコミもこの原因に関し余り報道してこなかった。

一日2回ほどの電話連絡が保健所の担当者からあり、容体をチェックしてもらうが、担当する職員の殆どが医師ではないため、医療職による「医療観察」ではなく、保健所職員は真摯に業務はこなされて来たものの、急変リスクがあり得るかの判断を非医療職が電話による聞き取りでできるべくもない。結果、何人もの方々がご自宅で亡くなっているのだ。決まり通りの事をいくら誠実に実行されても、結果が現状のようなことでは、決まりがおかしい、と考えるのが普通だろう。

私達の主張は、そもそも、本来、無症状であろうとも、感染者は全て隔離し、医療の監視の下に位置付け、家庭内感染を排することと適切な医療を提供することが感染症防護の基本であり、野戦病院型で良いから、感染の恐れがなくなるまで隔離し、容体悪化の際には直ちに入院させることを可能にする基本方針の転換を図るべきと思っている。

その上で、現状認められている自宅療養者には、検査陽性となって自宅療養が決まった段階で、かかりつけ医や保健所契約医などにその事実の情報の伝達することにより、確実に全員を医療に繋ぎ、往診、オンライン診療なりで常時監視・診断をし、不測の事態を回避すべき、ということだ。そのためには感染症法に、感染症有事に限っては、厚労大臣、知事にこのような体制を確保する権限と義務を規定し、厚労大臣や知事が関係者と連携して必要な対応を採ることができる法改正を行うべき、と考えている。

当初、厚労省の医系の幹部は、「行政情報は出せません」と強く拒否し、「急変リスクは不可避だ」とまで断言され、厚労行政、保健所を中心とする「公衆衛生」における命の軽さを痛感した。

途中から、「保健所による健康観察」において、保健所が必要と判断した場合には地域医療機関等に医療監視の委託ができる、ということで良いではないか、との厚労省の主張に替わったが、私は、「それではあくまでも医療に繋ぐかどうかを保健所の非医療職職員に判断させるもので、全国的にもばらつきが出るため、受け入れられない」、と再反論、以来長らく平行線であった。

しかし、一昨昨日の木曜日になって、「自宅療養者に確実に診療が提供されるよう、仕組みを構築する」というところまで降り来た。これで、感染者全員が医療観察下に入ることとなった。しかし、それでも、それは法改正を通じてしか実現できないため、「法改正」という表現を入れないと実現ができないのでダメだ、と私たちはさらに主張、依然、平行線だったが、一昨日、特命委開催当日の午前になって、「必要な法改正を含め検討」との表現を入れることで、やっと決着した。

厚労省の決断が、本物であることを祈るばかりだ。これが実現するならば、画期的だ。理由は、これまで明治30年の伝染病予防法制定以来120年余り続いてきた、「保健所中心の公衆衛生」が上位、「かかりつけ医など地域医療」が下位、との上下関係が、自宅療養に関する「情報の共有」によって、「横の対等な連携協力関係」と変化し、感染者の医療へのアクセスを、全員につき確実に確保することとなるからだ。勿論、新型コロナ以外の感染症についても、同様の仕組みを来年度には検討、構築することとなった。

因みに、上記のように自宅療養者等に対する医療の確実な確保を実現するための感染症法の改正案文を参考までにお示しする(注3)。

残念ながら、検査体制、病床確保、変異株対策、ワクチン接種、など殆どの領域で、わが国は先進国中、デジタル化に止まらず、最低レベルに近いとの評価となっている
。この結果、東京五輪の開催について、国内世論からはもとより海外からも不安の声が上がっている。過去を反省して、抜本的かつスピーディな改革があらゆる面で必要だ。その際の最優先事項が、公衆衛生の深化でなく、感染者一人一人の健康を大切にする基本方針への転換だ。これこそ政治が今すぐやるべき仕事ではないか。躊躇している暇はない。
今回の提言の中で、上記以外の重要な意味を持つ改革の中には、いくつもの特記すべきものがあるが、ここは2つだけ紹介したい。
まず、電子カルテシステムと介護記録支援システム(電子カルテのような、個人の介護状態や介護内容の記録)の標準化、という、「究極のベンダーロックイン」から脱する仕組みをいつまでにどうするかを、それぞれ2年かけて結論付けることも、初めての事で大きい意味があると思う。電子カルテは10数種類あり相互互換性なし、介護記録に至っては、少なくとも300種類以上はあり、これも相互互換性がないし、介護事業所同士も、介護と医療の間の共有も全くできず、要介護高齢者が、介護サービス事業者を転居理由等で移動する場合も情報はついてこない。
さらに、ウィルスゲノムと患者のヒトゲノム解析を臨床で行う「データバンク事業」という内閣府の研究事業がありますが、データ等の感染研と国際医療研究センター(NCGM)への一極集中を狙っているのでは、と大学等では受け止められている。むしろ、未知の病の解明という有事に際しては、むしろ逆に全国の研究所、大学の英知を結集すべき、との政府のスタンスと異なる重要な主張も展開している。


(注1)「データヘルス推進特命委員会提言(案)」(令和3年5月28日)

(注2)「データヘルスに関する工程表(案)」(令和3年5月28日)

(注3)「自宅待機者等に対する確実な医療の確保」(令和3年5月30日)