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やすひさの独り言 Yasuhisa's Soliloquy 今一番伝えたい考えや想いをお伝えいたします

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2020/06/06(土) NO.835号 

誰一人取り残さないために

私が5月2日及び10日の「独り言」で問題提起してきた、「持続化給付金」のNPOへの給付の際の算定基準を、現在の「事業収益」から「経常収益」への変更が、問題指摘から一か月ほど経つ今日に至るまで実現していない。この制度を所管する経産省・中小企業庁の危機感に問題があるのではないか。私のウェブ等での公開提案、そしてNPO法人制度所管官庁である内閣府を通じた提案に対し、昨日、初めて説明があり、結論的には制度変更は困難、だという。

この制度は、企業であれば、ひと月の売上が前年比で半分以下に減れば、その差額の12倍額と前年の総売上とのキャップ額を給付(法人は200万円、個人事業者は100万円が上限)するものだ。問題は、NPOの際の「売上」に相当するものに何を充てるかだが、中小企業庁は、この制度の4月スタート時の給付要件設定に際し、NPO活動の本質を踏まえず、「収入」の定義にあたり、「寄付金、補助金、助成金、金利等を除き、法人の事業活動によって得られた収入のみ」と定義、具体的には「事業収入」のみを算定基準としてしまったのだ。

つまり、「寄付金、補助金、助成金」、というNPO法人にとって決定的に重要な勘定科目が算定根拠からすっぽり抜け、骨髄バンク、がんサポート、子ども食堂、障がい者支援、動物愛護、国際緊急人道支援など、寄付金や助成金などの収入割合が極めて高い、そして決して財政基盤も強くない非営利活動法人が持続化給付金の対象とならない可能性が高くなってしまったのだ。これを解決するには、算定基準として、「事業収益」ではなく、それに「寄付金、助成金等」を加えた「経常収益」とすることが必要だ。

昨日、中小企業庁の幹部らから「そもそもこの制度は中小企業基本法に基づく企業や個人事業主を対象とするのが基本だ」と聞き、驚いた。なぜならば、4月20日の「緊急経済対策」には、「幅広い業種・事業形態の中堅・中小・小規模事業者、フリーランスを含む個人事業主に対して、万全のセーフティネットを構築すべく、事業の継続を支え、事業全般に広く使える、再起の糧」のための給付金制度創設と明記されており、中小企業基本法の対象企業、あるいは、企業に限定、とは書かれていない。そもそも、中小企業庁自身、制度スタート時からNPO法人等公益法人も給付の対象としており、この段に至って企業だけのつもりだった、と言っていること自体、理解しがたい。NPOも家賃や人件費等固定費はかかる事業体だ。

また、中小企業庁の主張は、本制度において、財・サービスの「対価」としての収入、すなわち「売上」に注目し、その減少を補填することを通じて企業の持続性を支えて経済社会を守るものだ、とのことだった。彼らの今回の主張の本質的なよりどころは、この「対価性」にあるようだ。

しかし、彼らは、大事な本質を捉えていないように見える。すなわち、NPO活動の本質は、そもそも「対価性がない」という活動を担うからこその存在意義があるのだ。

すなわち、会費、寄付金、助成金、補助金などを元手に、困難な状況にある人たちから対価をもらわない活動を通じて円滑な社会運営を支えることが大事なNPO活動であり、寄付金、助成金等をカウントしないということになれば、NPO活動そのものを否定することにならないか。なぜ、認定NPO制度の下で、パブリックサポート・テストによって、幅広い寄付等によって支えられているNPO法人に対して寄付金税制優遇を与えているかを考えてみれば、その意味は容易に理解できよう。

もちろん、NPOも多種多様で、中には事業収入が99%を占める、というような強い、そしてその収入が数10億円から100億円超の大規模NPO法人も存在する。しかし、地域社会で、訴える声が小さくとも重要なニーズに応えることを通じて、全体として円滑な地域社会づくりに貢献しているNPOは、全国津々浦々に数多くある。今、新型コロナ危機に際し、そうした活動の持続性こそ、国の責任において支えていくことが重要ではないか。

昨日中小企業庁幹部が持参した対応ペーパーを見ていささか失望した。そこでは、上記の経常収益に変更することに関し、他の全ての公益法人の了承を得ることを内閣府に求めているのだ。内閣府はNPO法人、公益財団・社団法人制度所管官庁の責任において、既に、「経常収益」への基準変更を正式に提案している。社会福祉法人であれば厚労省、学校法人であれば文科省と折衝するのは、給付金制度所管する経産省であり、内閣府ではない。責任転嫁は避けるべきだ。

さらに、最後に私に対し「既に給付申請をしている約4000のNPOを待たせているので、急ぎ結論を出してほしい」との発言があった。今既に申請のあるNPOには今の条件で支給するのは当然であり、私は何度も、制度変更をした場合でも、十分な周知期間確保と不利益遡及をしないことが大切であることを伝えてきている。私は、「その言葉はそのまま皆さんにそっくり返したい。なぜならば、今日まで決断をできずにこの問題をひと月も棚ざらしにしてきたのは、皆さんの方だからだ」と返さざるを得なかった。