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やすひさの独り言 Yasuhisa's Soliloquy 今一番伝えたい考えや想いをお伝えいたします

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2021/03/21(日) NO.858号 

より踏み込んだコロナ戦略、戦術を

先週の木曜日、首都圏1都3県の緊急事態宣言を、本日21日をもって解除することが正式決定された。同時に、解除後の対応策として、飲食の感染対策、変異ウイルス対策の強化、検査など感染拡大防止策の強化、ワクチン接種の推進、医療提供体制の充実の5つの対策が示された。

オリンピック・パラリンピックをいよいよ目前にし、経済的にもぎりぎりまで来ているわが国としては、今回も、感染抑え込みに関し、踏み込み不足だ。国民の行動変容に頼り過ぎることなく、以下の3点に関し、政府がより能動的、積極的かつ強力なコロナ戦略、戦術を取ることが必要なのではないかと思う。

まず第1に、無症状者に焦点を当てた「モニタリング検査」によるPCR検査の増加を通じた感染拡大防止策強化は、「解除地域の繁華街・歓楽街等」などに限定せず、もっと全国的に面の広がりを持たせ、格段に広げるべきだと思う。感染症の流行・拡大の探知にとどまらず、無症状者に対するPCR検査を幅広く行い、感染を抑えることが急務である。

また、宣言が出されていた10都府県で高齢者施設の従事者等に対する集中的実施計画に基づく検査を4月から6月にかけてすることとされ、10都府県以外の自治体も感染状況に応じ検査を実施するとあるが、高齢者施設だけでなく、医療機関をはじめ、集団感染のリスクのある施設においては、定期的なスクリーニング検査を全国的に行うことが必要だろう。

第2に、変異株ウイルス対策は、もっと徹底すべきだ。変異株スクリーニング検査の抽出割合を、現在の「5〜10%」から「40%」に引き上げる、とされたが、今必要なことは、従来型に比べて感染力が強く、重症化し易く、ワクチンの有効性を引き下げるなどの可能性が疑われる、未知なことが多く、国内外の不安の元となっている脅威である変異株を、いかに限りなく漏れなく把握し、感染拡大を阻止するかだ。サンプリング調査で、1〜2週間程度をかけて陽性者中の変異株割合を知り、広がりや分布を把握する、という「平時の統計」の感覚では全く不十分だと思う。今は「有事」だ。一度の検査で変異株陽性まで判定できる検査も既に実用化されており、無症状者に対し広くPCR検査を行い、変異株まで同時に把握し、迅速に対策を講ずる「有事」の対策が必要なのだ。

第3に、ウイルスの変異は平均すると2週間に一度程度起きているという。従って、英国型、南ア型、ブラジル型の3種類だけ追いかけていても、人々の命は守り切れない。ゲノム解析の徹底しかないが、今次対策には、その数値目標がない。これまで私が主張してきたように、わが国も、週にゲノム解析を800件程度しかこなせない感染研や一部の地方衛生研究所だけに変異株の発見を任せていては、間に合わない。そもそも、日本発の新手の変異株の発生を絶えずウォッチしていないといけないのであり、そのためには、変異株陽性が確認された感染者の40%だけのゲノム解析をやれば済むのではなく、PCR陽性者を幅広く、可能ならば全数ゲノム解析を行うべきだ。コロナ流行後、世界は専門家をフル動員し、この領域でイノベーションを続々と起こしている。我が国も官民の力を合わせた合同ゲノム解析チームを組成し、感染研中心の変異株サーベイランスシステムを可及的速やかに強化するしかない。

3月17日、自民党のコロナ本部「ガバナンス小委」・「科学技術・イノベーション調査会」・「データヘルス推進特命委」は「新型コロナウィルスに係る変異株のモニタリング体制に関する緊急提言」を3者合同提言としてまとめた(注1)。

その中で、大学を中心とした複数の病院ネットワークを通じて得られるウイルスと臨床情報を集約し、ゲノム解析結果は即座に感染研に集中させるとともに、国際的なウイルスゲノム解析情報公開サイトであるGISAIDにも公開、広く研究に資するようにすることを提言している。新規感染者数が相対的に減っている今は、少なくとも変異株PCRの陽性のケースは全数ゲノム解析すべき、と提言した。

また、解析結果は各病院にフィードバックされ院内感染対策などに有効に活用するとともに、新たな治療法開発、創薬等にも資するはずだ。ウイルス検体の扱いに慣れている民間検査会社や、1日6000件の解析能力を有する大学発ベンチャーである解析受託会社、国内に10台以上ある1日3000件の解析能力を有する大型シークエンサーを持つ大学や企業などにフル参加して頂き、サーベイランスの「正規軍」たる感染研への変異株一次情報集約と臨床情報の提供により、感染対策の充実が可能となるなど、総力戦による公衆衛生の補完・補強が行われ、臨床医療も充実することとなり得ると思う。そのための民間プレイヤーの参加のイメージに関しては、参考資料としてポンチ絵を示している(注2)。

新型コロナ感染症対策も正念場。官民はもとより、人類の英知を結集し、何としてもこの深刻な感染症を克服しなければならない。

(注1)「新型コロナウイルスに係る変異株のモニタリング体制に関する緊急提言」


(注2)「自民党・変異株モニタリング体制緊急提言」

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