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2021/02/14(日) NO.855号 

官民の「ゲノム解析チーム」を立ち上げよ

2月7日付の「独り言」において、日本が中途半端な「平時」モードから、本格的「有事」モードへ覚悟も新たに大転換することの必要性を訴えた。

「有事」には国家資源を総動員しなければ敵に勝てないということは言うまでもなく、前回は自宅療養中の死者続出問題を取り上げ、「公衆衛生と地域医療の有機的一体化」など、国家資源の有効活用・総動員を唱えた。

同様に「平時」の発想により敵との闘いになっていないのが、新型コロナウィルスの「ゲノム解析」だ。「変異株」の発見やその治療法開発、創薬などにつながるゲノム解析を通じた政策研究は、厚労省の組織の一部である国立感染症研究所(以下、感染研)一か所に独占させた「平時体制」のままだ。

例えば、現在わが国の「変異株」の発見は、感染研が全国の検体を一手に東京に集め、ゲノム解析して探し出すこととなっている。しかし、未知の病の新型コロナウィルスを解明し、確実に予防、治療ができるようにすることこそが至上命題であるときに、なぜ、ゲノム解析・医療に長けている大学などの研究室とアライアンスを組んで、皆の知恵を結集して世界に先駆けたコロナ克服法を打ち立てることをしないのか。ここまで来て、まだ「平時モード」のまま、ひたすら感染研の発表を待つ、という国民は、不幸ではないか。加えて、感染研がゲノム解析分野において、日本や世界をリードしている、との話は聞いたことがない。また、情報公開が余りに少ないがゆえに、日本のこの分野の研究論文数は、世界の中でも大きく後れを取っている。

大学の医学部や研究所、附属病院の研究能力などゲノム解析能力を有する組織は全国に沢山あるが、それらの英知と能力を結集して問題解決しようとする姿勢が厚労省には窺われない。官民を問わない総力の結集がなされないまま、未知の病の科学的真相解明が遅々として進まない。

英国ではこうしたゲノム解析のネットワークがかねてより発達しており、「英国型」、「南ア型」などを早々に発見している。オーストラリアも英国の仕組みを参考に全国ネットワークが完成しており、成果を上げてきているという。ドイツでも、ゲノム解析データの政府への提供に対し償還金が用意されている。

「有事」にあっては、「変異株」対策も、国が独占するのではなく、国が司令塔機能を発揮しながら、ウィルスとゲノム情報は国で一元管理し、官民を問わず日本中の英知を結集して「国家レベルのゲノム解析チーム」を作ることを提案したい。そのチームでは、大学等の知見をフル活用し、地域ごとにゲノム解析可能とするとともに、解析結果は地域に還元しながら新たな治療法やワクチンを含む予防法の開発をする体制へ直ちに移行すべきと思う。

感染研の独占体制は徹底されていて、昨年、大学等の研究機関が新型コロナの「生ウィルス」の分与を感染研に求めてもなかなか出してもらえず、配布を始めても感染研OBがいる研究機関優先、やっと配布が行われた頃には、時すでに遅く、感染拡大によって全国どこでもウィルスが入手可能となっていたという。実は、「変異株の生ウィルス」に関しても昨年同様の事が起きつつあるとも聞いており、民間研究者の士気の低下につながっているようだ。

「変異株」は、ワクチンの有効性との関係からも、国民の大きな関心事だ。しかし、「変異株」特定に必要なゲノム解析の感染研による情報公開は、一般人には極めて不親切かつ不定期。これまで私は、自民党コロナ対策本部の平場で、感染研がどのような体制でゲノム解析に臨んでいるのか分からないため、せめて毎日、都道府県ごとの解析実績だけでも毎日公表すべきだ、それが国民の安心の元のひとつとなる、と何度となく主張して来たが、いまだにその程度の情報すら公開されていない。また、国際的にも、ゲノム解析結果の国際的専門公開サイト(GISAID)への情報公開が、遅く、不定期過ぎると指摘されている。

そもそも日本では、政府もメディアも、英国型、南ア型、ブラジル型の3種類しか「変異株」は世の中に存在しないかのような報道振りだが、実は11日、慶応大学を中心とする研究チームが、昨年夏に、重症化しにくい「国内変異型」が起きていたことを突き止めた、との民放報道があった。ウィルスの「変異」は洋の東西を問わず、一定の頻度で起き、人間の体内では、平均2週間に一回は変異が起きており、毒性や感染力が増減いずれの方向にも変異することがあり得るという。裏返せば、強毒性、感染力の増した「日本型変異」が、いつ起きてもおかしくない、ということだ。となれば、そうしたウィルス変異をいかに早くとらえるかが重要であり、感染研一か所の解析でウィルスとの闘いに勝てるはずはない。

慶応大学の場合は、関東圏の病院が慶応大学病院を中心にチームを組んで医療現場から検体を集め、慶応大学医学部でゲノム解析後、解析結果を元の医療現場に情報を還元し、治療等に役立てる、ということをやってきているという。

上記研究の中心的研究者である慶応大学医学部の小崎先生には、私が委員長を務める自民党「データヘルス特命委員会」の「がんゲノム・AI等ワーキンググループ」(主査:丸川珠代参議院議員)においで頂くよう、依頼中だ。

厚労省は、国会答弁等において「陽性ケース全体の1割程度をゲノム解析している」と称しているが、厚労省に確認をしたところ、PCR検査能力の約一割を地方衛生研究所(以下、地衛研)・保健所が有している」というだけで、厚労省からの地衛研への依頼は、「できるだけ多くの検体を送って欲しい」とのことで、実は全数を感染研に送られているわけでもなく、一説には、東京都、大阪府などは中々提出してくれない、との話すら聞く。また、行政検査の中の大半を占める民間検査会社を通す検体の解析はこれからだし、町の民間検査所の検体に至っては、全く手つかずであり、全体として、「変異株」を絶対逃さない、との行政の決意は感じられない大雑把な体制である。

「国民の命を守り切る」との考えからの脇の締まった、考え抜かれた計画性のあるゲノム解析体制の確立が急務ではないか。

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