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りぶる 7月号(400号)特集 掲載記事

塩崎恭久 厚生労働大臣に聞く「児童虐待を防ぐために」

全国の児童相談所で対応した児童虐待の相談件数が年々増加しています。
児童虐待の現状や虐待を受けた子供たちへのケア、
必要な支援や法制度の改善等について、塩崎恭久厚生労働大臣にうかがいました。
 

深刻化する児童虐待 相談件数は過去最高に
 
― 児童虐待の現状について教えください。
 
塩崎 今から30年以上前になるでしょうか。アメリカに留学した時に見た、幼児が虐待されるショッキングな映像を今でも鮮明に覚えています。こうしたチャイルド・アビューズ(児童虐待)はアメリカだけではなく、いまや日本でも深刻な問題になっています。
 平成25年度に、全国の児童相談所で対応した児童虐待に関する相談件数は、過去最高の7万3802件。児童虐待防止法(児童虐待の防止等に関する法律)が施行される前の平成11年度に比べ、6・3倍以上に膨れ上がっているのです。
 日本の未来を支える子供たちのため、児童虐待防止に努めなければなりません。
 
― 児童虐待には、どのようなケースがありますか。
 
塩崎 児童虐待は、保護者が子供の心や体の健やかな成長を阻害する、以下の4種類に分類できます。一つめは、殴る、蹴る、叩くなどの身体的虐待。二つめは、子供への性的行為などによる性的虐待。三つめは、子供に食事を与えなかったり、極端に不潔な環境の中で生活をさせたりするネグレクト。四つめは、脅迫や無視、子供の前で配偶者に暴力を振るうなどの心理的虐待です。
 これらは単独で起こることもあれば、いくつかが複雑に絡みあって起こることもあります。
 
― その中でも近年、増えているのは。
 
塩崎 心理的虐待です。平成25年度の相談件数は2万8348件で、平成11年度に比べ約17倍に増加しています。
 では、虐待をされているのはどの年代の子供が多く、誰が虐待をしているかといいますと、虐待を受けているのは小学生が35・3%と最も多く、次いで3歳から学齢前児童が23・7%、0歳から3歳未満が18・9%です。その加害者、つまり虐待しているのは実母が54・3%、実父が31・9%となっています。
 中には虐待がエスカレートし、尊い命が失われる悲劇も起こっています。虐待により死亡に至る事例は、毎年100件前後で推移し、その加害者はやはり実母が最も多くなっています。
 
― こうした現状を、どのようにお考えですか。
 
塩崎 大変重く受け止めています。そのため厚生労働省(以下、厚労省)では、社会保障審議会児童部会の下に「児童虐待等要保護事例の検証に関する専門委員会」を設置し、虐待による死亡事例の検証を行っています。その結果、加害者は地域から孤立している方が多いことが分かっています。
 

出産や子育てに不安 ?心の病?が子供にシワ寄せ

― 児童虐待の背景には、どのような問題点があるのでしょうか。

塩崎 大人の?心の病?が、子供にシワ寄せされているのではないかと考えています。
 虐待は、愛しているはずの子供を大人が傷つけ、中には死に至らしめるという、本来、常識では考えられない行為です。にもかかわらず、虐待に至ってしまう理由としては、先ほど述べましたように地域から孤立し、出産や子育ての負担や不安を一人で抱え込んでいるといったこともあるのではないでしょうか。
 また?虐待の連鎖?という問題もあります。幼児期に虐待を受けた子供は、親から大切にされた体験がありません。そのため、自分が親になった時に子供が何を求めているのか分からず、無意識のまま自分の親と同じことを繰り返してしまうこともあるのではないでしょうか。
 こうして見ていくと、虐待が起こる背景には様々な要素がありますが、親と子供との絆が何よりも重要なのは明らかです。
 

妊娠から出産・子育てまで 切れ目のない支援を
 
― 児童虐待を防ぐには、何が必要ですか。
 
塩崎 妊娠から出産・子育てに至る、女性への切れ目ない支援です。とはいえ、家庭環境や経済状況は人それぞれです。シングルマザーの方もいらっしゃれば、望まない妊娠をされる方もいます。こうした女性一人ひとりに、きめ細
やかに手を差しのべていかねばなりません。
 例えば、出産後、自分で育てることができなければ、特別養子縁組や里親、児童養護施設に預けてもよいでしょ
う。こうした選択肢があることを発信していくのも我々の務めと考えています。
 厚労省では、今年度から新たにワンストップ拠点(子育て世代包括支援センター)を150市町村に立ち上げます。これによって、医療機関や保健所、児童相談所、子育て支援機関等でそれぞれ実施していた支援が、ワンストップ(一カ所)で継続的に受けられるようになります。こうした施設を活用いただくことで、地域における子育て世帯の安心感を醸成していきたいと思っています。
 また、全国に601ある児童養護施設は、かつては戦災孤児や親の病気が入所理由の大半でした。しかし、いまや入居する約6割が児童虐待を受けた子供たちです。こうした子供たちを家庭的な環境で育てていこうと、様々な取り組みを始めています。
 
―具体的には何でしょうか。
 
塩崎 一つが、施設のケア単位の小規模化です。これまで、例えば就学児童5・5人に職員1人だった体制を、今年度から4人に1人に改善しました。また、地域の家庭的な環境の中で養育するファミリーホーム(小規模住居型児童養育事業)や、里親に委託する家庭養護も積極的に推進しています。
 私は全国各地の乳児院や児童養護施設などの社会的養護施設をよく視察しますが、職員の皆さんは熱意にあふれ、本当に頑張っています。近年は、専門職と呼ばれる心理担当職員などのいる施設も多く、虐待により心に傷を負った子供たちの精神的ケアにも力を注いでいます。
 一方で、同じ保育士資格を持ちながらも、社会的養護施設で働く保育士と、保育所で働く保育士には処遇に差があるなど、課題は山積みです。日本の未来を支える子供たちのため、引き続き全力で臨んでいきます。
 
― 児童相談所の役割については、いかがお考えですか。
 
塩崎 児童相談所は現在、全国に207カ所あります。児童虐待に関する相談件数の増加に伴い、それらの問題解決に的確に対応できる、より高い専門性が求められています。
 しかし現在、夜間・休日を含め24時間365日、相談担当職員が電話を受けているのは全体の約7割にすぎません。この体制をすべての児童相談所に構築するのが喫緊の課題です。
 

子供に関する相談は 「189 いちはやく」へダイヤル
 
―7月から児童相談所の全国共通ダイヤルが3桁になりますね。 
 
塩崎 189番です。「いち・はや・く」と覚えてください。
 これまでの10桁から、覚えやすくダイヤルしやすい3桁の番号にしました。子供のSOSをいち早く通報、相談してほしい、そうした願いを込めて、この番号にしました。
 
― 189番にダイヤルすると、どこにつながりますか。
 
塩崎 お近くの児童相談所です。固定電話はもちろん、携帯電話からもダイヤルできます※。ただし、一部のIP電話からは通話できませんので、ご注意ください。
 児童虐待に限らず、出産や子育てなど、子供に関することならどんな内容でも構いません。電話は匿名でもよく、個人情報やプライバシーなどは守られます。もし子育てや虐待でお悩みの方がいらっしゃれば、早急にご相談ください。
 また、虐待を受けているお子さんにも、ぜひ活用いただきたいと思います。
 虐待は、早期発見、早期対応がとても重要です。『りぶる』読者の皆さんの周りに、「あの子虐待を受けているのかな」「何か、様子がおかしいな」と気になる人がいれば、お電話ください。その通報がきっかけで、虐待を受けている子供に救いの手を差しのべることができるのです。
 
※通話料はかかります


4本柱でひとり親家庭を支援 子供の未来応援国民運動も始動
 
― 児童虐待防止を推進するための取り組みは。
 
塩崎 昨年8月から関係府省庁(内閣府、総務省、法務省、文科省、厚労省、警察庁)による児童虐待防止対策に関する副大臣等会議を開催しています。ここでは、児童虐待について速やかに支援すべき具体策や、居住実態が把握できない児童への対応について議論しています。

― そのような児童は、どれほどいるのですか。
 
塩崎 昨年10月20日現在、141人います。転出・転入の手続きをしていなかったり、乳幼児健診を受けていないことなどにより、行政との接点がなく、保護者とも連絡が取れないために実態を把握することが困難であるのが実情です。とはいえ、こうした子供は、支援が必要なケースも考えられることから、早急にその状況等の把握に努めていきます。
 
― ひとり親家庭や生活困窮者への支援を教えてください。
 
塩崎 今年4月2日、安倍晋三総理は官邸で「子供の未来応援国民運動」発起人集会を開きました。子供の未来は、家庭の環境や経済事情によって左右されてはならない。そのために、社会を挙げて応援していこうという国民運動です。
 厚労省はこれまでに「子育て・生活支援策」「就業支援策」「養育費の確保策」「経済的支援策」の4本柱で、ひとり親家庭を支援してきました。また、今年4月からは生活困窮者自立支援法が施行され、働きたくても働けない、住むところがない生活困窮者の支援にも乗り出しています。
 これらの支援の実態や課題等も踏まえながら、子供の明るい未来の実現に向けた施策の方向性を夏頃までにまとめていきます。そして、年内を目途に、財源確保策を含めた政策パッケージを策定していく予定です。
 
― 必要な法制度については、いかがですか。
 
塩崎 現行の児童福祉法は昭和22年(1947)、児童虐待防止法は平成12年(2000)に施行され、これまでも幾度の見直しを行ってきています。しかし、現在の制度が子供たちが直面する様々な課題に対して的確に対応できているのかという観点から再点検し、子供の気持ちに寄り添った制度や支援のあり方を検討していきたいと思います。
 

親子のスキンシップが大切 虐待のない、明るい未来を
 
― 女性局では7月1日から7日の「児童虐待防止推進週間」に、全国一斉街頭を展開します。期待されることは。
 
塩崎 女性局はこれまでにハッピーオレンジ運動をはじめ、様々な取り組みで児童虐待の防止を訴えてきました。
 7月からは「189 いちはやく」の運用も始まりますので、その広報にもご協力いただきたいと思います。
 また、児童虐待の対策は?待ったなし?にもかかわらず、その実態については、あまりご存じでない方が多いのも事実です。地域で民生委員(児童委員)として活動している方に話を聞いても、一人暮らしの高齢者の対応に手一杯だったり、事件が起こって初めて虐待を知ることもあると言います。虐待を防ぐには、地域全体で理解を深め、見守る体制づくりが不可欠です。それを実現するための啓発活動への取り組みにも期待しています。
 
― 児童虐待を防ぐために、私たちにできることはありますか。
 
塩崎 私も胸につけていますが、オレンジリボンのピンバッジを着用するのはどうでしょう。このオレンジ色のリボンには、児童虐待を防ぐというメッセージが込められています。個人サポーターになって応援したり、虐待を受けた子供たちの自立を支援する輪に参加するのもよいのではないでしょうか。
 また、子育て中の親子が地域で孤立しないように、地域で助け合ってほしいと思います。ご近所や外出先で出会ったら赤ちゃんに温かい声をかけたり、階段でベビーカーの持ち運びを手伝ったり。そんな些細な皆さんの行動が、子育て中の親子にとっては心の支えになります。
 乳幼児期には、生涯にわたる人間形成の基礎が培われます。この極めて重要な時期に「自分は愛されている」と感じることが、心身の発達を助長させ、健やかな成長を促します。そのため、子供のいらっしゃる方は、親子のスキンシップを大切にしてほしい。そして、家庭でしっかりと躾しつけをしていただきたいと思います。
 さらに、周りの子供にも関心を持っていただきたい。急に学校に来なくなった子供はいないか、身体に痣や傷などができていないか、など。SOSのサインを見逃さず、異常が見られた時は、その子供の親や学校の先生に伝えることも大切です。また、「189 いちはやく」へのダイヤルもご活用ください。
 児童虐待のない、明るい未来に向け、『りぶる』読者のご協力をお願いします。