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週刊金融財政事情 2014年4月28日(春季合併号)掲載記事

銀行のガバナンス強化と株式保有「原則禁止」の実現を 銀行が「モノいわぬ株主」になるべきではない

それぞれのコーポレートガパナンス論

自民党政務調査会長代理
衆議院議員 塩崎恭久

銀行のガバナンス強化と株式保有「原則禁止」の実現を
銀行が「モノいわぬ株主」になるべきではない

自民党の日本経済再生本部が4月下旬〜5月上旬に政策提言をとりまとめる。昨年の「中間提言」に盛り込まれた「地域金融機関の再編促進」は大きな反響を呼び、ほかにも独立社外取締役の確実な導入やGPlFの運営見直し、PFl推進など多くの提言がその後の政策や政府の成長戦略に反映された。今回の政策提言で大きなテーマとなりそうなのがコーポレートガパナンス。政策提言とりまとめの中心となる塩崎恭久政調会長代理は、銀行の株式保有の原則禁止と銀行自身のガパナンス強化を強く発信していく構えだ(編集部)。


社外取締役の設置は事実上の義務化

Q 今回の政策提言では、どのようなことを大きなテーマとして発信していくのか

A 大きなテーマの一つがコーポレートガパナンスだ。昨年5月にまとめた政策提言でも主要テーマの一つとしてコーポレートガバナンス強化を掲げ、「独立社外取締役の確実な導入」を求めた。これを受けて政府は今国会で成立するであろう改正会社法で、社外取締役を置いていない上場企業には総会参考資料のなかで「置くことが相当でない理由」を記載させることとし、定時株主総会でもその理由を口頭説明することを義務付けた。改正会社法の附則には、施行から2年後をメドに義務化を含めて再度検討することも盛り込まれている。東京証券取引所の上場規則も改正され、独立した社外取締役を1名以上置く努力をすることが義務付けられた。
メディアは「社外取締役の設置義務化を先送り」と報じたが、そうではない。今年1月泊日の国会答弁でも、私の質問に対して谷垣禎一法務大臣は「事実上の義務化である」という認識を示している。
日本は社外取締役の設置について、欧州が採用している「Comply or Explainルール」を取り入れたわけだが、同様のルールをもつ英・独・仏のような国々では、そのルール自体がコーポレートガバナンス・コード(企業統治のさまざまな要素、あるべき姿について具体的に定めている行動原則)に定められているが、わが国にはいまだに導入されていない。機関投資家の行動原則であるスチュワードシップ・コードがあっても、企業側を律する行動原則がなければコーポレートガバナンスは十分に機能しない。コーポレートガバナンス・コードは、コーポレートガバナンス体制や役員の知識・資質などを確立できるようにするものであり、役員に対する教育内容や役員候補者に対する研修実績の情報開示なども含まれる。また、株主の役割についても定めるものであり、日本企業のコーポレートガバナンスの強化を図るうえできわめて重要だ。自民党日本経済再生本部は、これまで日本では導入が困難だったコーポレートガバナンス・コードの策定・導入を成長戦略の大きな柱として掲げていく。

Q 銀行のコーポレートガバナンスに関しては、金融庁が2月下旬に監督指針を改正して独立社外取締役の確保を促している。これでは不十分か

A 金融庁が監督指針を改正したことで、上場銀行および上場銀行持株会社については、金融庁が「独立性の高い社外取締役が確保されているか」を検証することになった。ただし、地方の銀行では、上場していても社外取締役を置いていないところがいまだに多い。これまでの自民党内の議論では、「銀行法を改正して銀行に社外取締役の設置を義務付けるべき」という声が大勢を占めている。なぜかといえば、銀行はコーポレートガバナンスの模範を示す立場にあり、地方経済の牽引役になるべき立場にあるからだ。その銀行が率先して自らのコーポレートガバナンスの強化に取り組まなければ説得力がなく、地元企業はついてこない。銀行が引き締まったコーポレートガバナンスを実践していけば、借手企業もそれを見習おうとするし、収益力、競争力の向上に確実につながるはずだ。

銀行の株式保有が借手企業のガバナンスを阻害

Q 日本企業のコーポレートガバナンスは、どこに問題点があるのか

A 一つは「モノいわぬ株主」の存在だ。企業が株式を持ち合うことでモノいわぬ株主となったり、「保有すれどもモノいわぬ株主」に徹する安定株主がいまだ結構おり、その結果、コーポレートガパナンスが機能不全に陥りがちになっている。
アメリカにおける昨年の特許取得数の多い企業を上から10社並べてみると、日本企業は4社も入っている。日本の企業人材は間違いなく優秀なのだ。ところが、そのROEはいずれもきわめて低い水準で、他のトップ10企業のIBMやサムスンなどに大きく水をあけられている。
これは能力があるにもかかわらず、それを生かしていない経営をしている証左だろう。独立取締役の不足等、内部ガバナンスの弱さに加え、低いROEにもかかわらず株主が黙っているために企業の経営革新や競争力強化が進まない。
われわれは昨年の政策提言で、株式持合い解消と「モノいわぬ株主」の中心的存在である銀行の株式保有について、原則禁止を含めて制限強化を検討することを求めた。その後、銀行業界からヒアリングを行ったところ、「原則禁止」に反対する声はなく、むしろ実施について前向きな声が多かった。今日の銀行経営における最大の収益変動リスクの要因が政策保有株を含む株式保有にあるためだ。
さらに、国際会計基準が導入されると、益出ししても当期利益に含まれなくなる。高いリスクを抱える一方で、収益的メリットが薄れることになってしまう。また、バーゼル?では、株式評価益を普通株式等Tier1資本に算入できるが、株価が上がって自己資本比率がかさ上げされたとしても、市場はそのかさ上げ分を除いた実態を重視するので、実質的に自己資本の強化にはならない。なによりも銀行が貸手の立場と、株主という二つの立場に立つことで利益相反の懸念が生じうる。
借手企業側においても、銀行が株式を保有してモノいわぬ株主となると緊張感が薄れ、コーポレートガバナンスが働かなくなってしまう。これにより、借手企業の収益向上が図られず、従業員の賃金上昇にもつながらない。銀行の貸出も伸びないことになる。現在の「議決権の5%以内」という銀行による株式保有上限規制は、「原則禁止」とすべきだ。

株式売却の受け皿に銀行等保有株式取得機構を活用

Q 銀行が一斉に保有株式を手放すとなると、株式市場に大きな影響を及ぼしかねない

A もちろん株式市場に与える影響については十分に配慮しなければならない。現在、「銀行等保有株式取得機構」による銀行等が保有している株式の買取り業務は、2017年3月末までの時限措置として運営されている。銀行が機構を通じて株式を売却するとその株式は市場には出回らず、機構も処分時期を分散したり、ETF化するなどして株式市場に与える影響を極力回避しながら処分するはずだ。場合によっては、新たな株式買取り目的規定を加える法改正を行い、買取期限も延長し、一定の期間内に保有株式を機構に売却できる措置をとれば、株式市場に影響を与えることなく一定暫定期間後からは「原則禁止」にできるはずだ。
日本と同じように株式持合いの慣行があったドイツでは、当時のG・シュレーダー首相(1998〜2005年)がコーポレlトガパナンス強化の一環として、02〜05年に企業が株式を売却した際の譲渡益を非課税扱いにした。これにより、ドイツでは銀行を中心に株式売却が進み、持合いが解消されてモノいわぬ株主が減少。「ぬるま湯」経営から脱却したことでドイツ企業の収益力が大きく改善し、それまで「欧州の病人」といわれていたドイツがいまでは欧州経済の牽引役になっている。昨年12月に日本で聞かれたシュレーダー氏の講演会でも、株式持合いを解消した意義をとうとうと強調していた。ドイツ銀行などは株式の譲渡益課税を再開したあとも、株式保有残高を大きく減らし続けている。以前のドイツのように銀行が株式持合い構造の中心的存在となっている日本は、ドイツのシュレーダー改革に学ぶ点が多いはずだ。なにより、銀行自体がもはや株式をもちたくないと、至極まっとうな考えとなっていることに応えることが、日本の銀行と経済を強くする近道であることに一日も早く気づき、その方向に向って行動すべきだ。
(聞き手・本誌 北山 桂)

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