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現代ビジネス-2013年3月15日掲載記事

原子力規制委員会が国民の「信頼と信認」を得るためにすべきこと(現代ビジネス)

 東日本大震災から丸2年が過ぎた。亡くなられた多くの方々のご冥福を改めてお祈りしたい。また、今もまだ避難生活を余儀なくされている方々には心からお見舞い申し上げたい。

 震災によって引き起こされた東京電力福島第一原子力発電所事故は今もまだ終わっていない。私たちはこの事故の教訓を真摯に学び、今後の安全対策に生かしていく責務を負っている。原発再稼働に向けた原子力規制委員会による新安全基準の策定と、活断層調査が関心を集めているが、失われた国民の信頼と信認を原子力規制組織が取り戻すのはそう簡単なことではない。

 原子力規制委員会が信頼と信認を取り戻すための、極めて重要な問題をここで指摘しておきたい。独立行政法人「原子力安全基盤機構」(JNES)の統合問題だ。

「規制の虜」状態の克服

今回の福島原発事故の教訓の一つに、原子力に関する知見と経験の分断があった。かつての原子力安全・保安院は、他の省庁と同様、役所特有の人事ローテーションが適用されていたため、原子力安全についての高度な専門性を持つ人材を継続的に育成できる環境になかった。

 歴代の保安院長を見ても、その前のポストは資源エネルギー庁資源・燃料部長であったり、電力・ガス事業部長であったりと、原子力とは無関係のポストから、保安院長や次長になる人事が多くみられた。

 そのため、原子力安全・保安院が、規制対象である事業者よりも劣位にあることが常態化していた。特に博士号取得者などを中心に真の専門家集団として原子力規制行政の実体を担ってきた傘下独立行政法人であるJNESが創設されて以後は、技術的な専門性は完全にJNES任せとなり、保安院とJNESとの間で技術知見の乖離が益々広がる結果となった

 それが福島原発事故後の対応でも大きく影を落とした。事故の収束に当たった関係者によると、事故対応の際に、JNESが原子力安全・保安院に、事故の対処法や対策に関して100の情報を伝えても、原子力安全・保安院は10しか理解できないケースがままあったという。専門能力の欠如の結果だ。

 更にそこから情報を首相官邸に上げる頃には、情報量はわずか1に減ってしまっていた、と言うのだ。この3者のバラバラが、福島事故の対応と収束を更に困難にさせたというのが、大きな教訓の1つだ。

 このことは、「規制の虜」という表現で、国会に設置された東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(国会事故調)の報告書でも指摘されている。二度と福島原発事故のような惨事を繰り返さないためには、原子力規制組織が「高度な専門知識を持つプロ集団」に進化し、科学的知見をベースにした独立した判断が下せる体制を、一日も早く創設しなければならない。

 そこで我々は、新たに創設される原子力規制委員会に、このJNESを統合・合体させることにより、規制機関の専門性の欠如、すなわち「規制の虜」状態を克服することとしたのだった。

JNES統合は法律事項

 法律においても、JNESの統合を明文化している。それは「原子力規制委員会設置法」附則第6条4項にはっきりと記されている。


【原子力規制委員会設置法 附則 第六条 4】
政府は、独立行政法人原子力安全基盤機構が行う業務を原子力規制委員会に行わせるため、可能な限り速やかに独立行政法人原子力安全基盤機構を廃止するものとし、独立行政法人原子力安全基盤機構の職員である者が原子力規制庁の相当の職員となることを含め、このために必要となる法制上の措置を速やかに講ずるものとする。


 ところがである。2月19日に開催した自民党原子力規制PTで、内閣官房原子力規制組織等改革推進室の室長にその進捗状況を聞いたところ、耳を疑う報告が上がってきた。

「約500人いるJNESの規制委員会への統合は、定数管理上、きわめて難しい情勢」

「国家公務員の定数確保が難しいことや、独立行政法人の廃止には立法措置が必要であることから、通常国会での法案提出は不可能」

「課題を克服する具体案がない」

「JNESの原子力規制委員会への統合は、早くても夏以降になるだろう」等々。

 法律を平気で無視する厚顔無恥の態度に唖然としたが、このままでは福島原発事故の教訓はないがしろにされ、国会事故調の報告書の指摘も完全に無視されることになる。霞が関の、国民の安全無視の抵抗をどこまで政治力で突破できるか。我々の力量が試されている。

 そもそも官僚たちが金科玉条のように連呼し、抵抗の要にしている「定数管理」についても、統合に必要とされる新たな定数は政治決断で行い、少なくとも専門人材の規制委員会への移転を先行実施し、独法廃止の法的処理のような事務的処理は後で措置すればよいだけのはずだ。

 日本の原子力規制に関わる人員は、原子力規制委員会とJNES、そして保障措置等を担当する文科省の部局を合わせると、約1000人。それに対しアメリカの原子力規制委員会(NRC)の職員数は約3800人で、日本の4倍弱だ。

 一方、原子炉の数は、日本の場合福島第一、第二を含めて54基であるのに対し、米国はせいぜい倍の104基に過ぎない。原子炉1基当たりの単純比較で、アメリカは日本の倍の人員が原子力規制に携わっているのだ。このことからも、いかに日本の安全文化が衰えていたかが伺える。

 それを知りながら、今回のJNES統合の法律規定に堂々と抵抗し、反対してくるとは、霞が関では、相変わらず「世界の常識は日本の非常識」なのである。

「信頼と信認」の確保

 2012年4月、イギリスのキャメロン首相一行が来日した際、イギリス大使館で英首相も参加した様々な会合が開かれたが、その中の一つに、「原子力サミット」というものがあった。日本からは当時の枝野経済産業大臣と細野原発担当大臣が出席し、私もお招きにあずかった。

 その席上のスピーチで、英国原子力規制庁のマイク・ウェイトマン長官は、繰り返し「Trust & Confidence」という言葉を使っていた。つまり、原子力稼働において最も大切なのは「信頼と信認」であると説いたのである。私はこの言葉に強い感銘を受け、事あるごとにこの言葉を引き合いに出している。

 原子力規制組織に対する国民の「信頼と信認(trust and confidence)」を確保することこそが、政治家としての私に与えられた使命だ。我々政治家が、「定員が」「これまでの例では」という口上を繰り返す霞が関官僚の抵抗を覆せないようにであれば、いつまで経っても国民の「信頼と信認」は得られないだろう。

 私が座長を務める自民党原子力規制PTは、自民党が霞が関の非常識を政治の力で正すことができるかどうか、試されている主戦場の一つだ。福島県の被災者の方々の苦難を帳消しにはできないが、再び同じような悲劇を生みださないために、私にできることは何かを今一度噛み締め、このJNES統合問題の進展に全力を尽くしたい。


http://gendai.ismedia.jp/articles/-/35151