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VOICE 2月号

マーケットが答えを出す日

―― 政治家の目で見て、日本の現状はどういう状況といえるのでしょうか。
塩崎 典型的な例は日産に見られるように、かなり問題含みだった企業でも改革、リストラが進んでいるところはあるし、産業再編も進展してきている。しかし、全体として見ると、とくに金融分野では、かなり危機的な状況がすでに現れてきている。銀行のバランスシートは、借入している債権者企業の問題の生き写しだから、ともにかなり危機的な状況に達しているのではないか。ペイオフ解禁寸前の3月を待たずしてマーケットが荒っぽい答えを出すようなことが起きてしまうのではないかと心配しています。

 先進国である以上、基幹的な企業や銀行などがマーケットで答えを出されるというようなことは政府の責任放棄に等しい。早め早めにコントロールされた構造改革の推進というものを、緻密な計画をもって、丁寧に、場合によっては隠密裏に準備し、やるときは大胆に実行するという時期がもうほとんど期限切れに近いぐらい迫ってきているのではないかという危機感をもっています。

 もちろん循環的にITバブルが弾けて下降局面にあったところに、さらにテロの影響によるアメリカ経済の減速がアジア経済にも悪影響を与え、日本の輸出減少をもたらした。そのうえ、日本では、この十年来正すことのできなかった不良債券問題が、人類歴史上稀に見るほどの規模で横たわっているということです。

―― そうなった原因は何ですか。
塩崎 一言でいうとやはり政治が決断をしてこなかったということであり、行政も真実を正直に語るということをしてこなかった。そして民間も政府頼みの部分が非常に強かった。

―― 政治として怠ってきたというのはどういうことですか。
塩崎 企業のバランスシートに穴が開いている。それを銀行に集約していくと、税金の投入は避けられない。それを役人に決断しろといってもなかなか難しいでしょう。やはり政治家がリーダーシップをとってやらなければ。とはいえ役人の国家的使命は、きちんとした現状分析と選択肢を正直に政治に提示することであるが、それをやってこなかったし、いまでも十分にやっているとは思えない。

 政治家の責任の典型的な例は、1998年の金融国会です。金融再生法の審議が終わって、早期健全化法と呼ばれている資本注入の根拠法を自民党原案として、私たちが提出した際、私たちが考えていた資本注入の際の銀行資産の評価基準が拒絶された。私たちは、正直に市場の価値で銀行の資産を評価しようとしていた。

 これは、政治がそこで正直に実態を見て、一気にあく抜きをしようという決断を避けたということです。せっかく98年春のトータルプランで政治主導のかたちで、私たちが役人の知恵も民間の知恵も海外の知恵も学者の知恵も糾合して、事の本質をだいたい突き止めていたにもかかわらず、だ。それで、あの時点で抜本的な解決を先送りし、「構造改革・リストラは景気がよくならなければできません」という景気優先路線に変わってしまった。しかし、その結果は国債発行残高が130兆円増えただけで、構造改革は進まないどころか、不良債券は相変わらず根深く残った。それについて経済情勢の変化を理由にする人がいるけれども、そうではない。やはり、借金を返すだけではなく、企業の体質改善、リストラをしっかり行わなければ、銀行の貸出資産の評価は改善しない。

 結局、不良債券は2002年3月末には、さらに増えているでしょう。3年間かけても、何も進歩がなかったということを海外に示してしまった。今回の国債の格下げはひとり債務の大きさだけに問題があるのではなく、コントローラビリティが低いというか、要するにガバナンス能力が国家として問われた結果と受け止めるべきです。国家統治能力が問われているというところが今回の格下げの最大の原因だと思う。たんに国の借金が増えたからというだけではない。つまり、事の本質にしっかりメスを入れて直すのだという国家的な意思が欠如しているということでしょう。

政治の意思としての構造改革

―― 構造改革が論じられているわけですが、それについてのご意見はどうですか。
塩崎 小泉さんがおっしゃっているように、小泉さん自らが「どんどん景気対策の財政拡大をやれ」といったら、もう歯止めがなくなってしまう。その意味では30兆円というキャップをかけるのもけっこうです。これが政治的に変えられない公約ならばこれを守ったらいい。財政を安易に悪化させないといういいアンカーになっていると思う。

 しかし、構造改革はまだ始まっていない。特殊法人問題で議論は見えてきたけれども、最大の構造改革は不良債券問題に象徴される経済の再生にほかならない。その部分はまだまったく始まっていない。国土交通省も経済産業省もいわゆる不良債券の固まっている産業を抱えているわけだから、それら関係閣僚の連携の下で、ここは一気呵成に経済界・銀行界に対して政治の意思として構造改革が進むようにプッシュをしていくということがきわめて大事だと思います。

―― では、経済問題に関する民間の責任として問うべきことは何ですか。
塩崎 昭和30年代、40年代に日本の企業、日本の経済が伸びてきたのは、その局面のビジネスモデルが世界情勢にも国内情勢にも適合していたからです。ところが、そのビジネスモデルを変えることを怠ってきた企業があまりにも多かった。

 市場の爆発が起きてボーダレス化、グローバル化が進んでいくなかで、中国までが市場経済のなかで機能していくという時代において、じつは国の役割も変わったのです。これまでの政治の役割は輸出振興と総需要管理が主だった。しかし、次第にグランドルールセッター、要するに市場での経済活動の土俵である市場整備へと政府の役割が変わっていった。ところが、政府はそれを果たしてこなかった。

 その最もたるものは資本市場をきちんと育てなかった点です。民間企業が自律的に成長するというメカニズムが存在しないままにきてしまった。会計制度も曖昧です。もちろん、企業にもコーポレート・ガバナンスの感覚が育っていない。しかし、問題の根本はやはり政治です。何よりも決断してきちんと実行することが先決です。

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