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NIKKEI NET 特別コラム「ザ・フロントランナー今週の視点」第13回-2002/10/21 号

高校生の交換留学は国家百年の計

わが家は「AFS一家」かもしれない。妻と私、二人の息子、妻の妹、姉夫婦がそれぞれ高校時代、 AFS生としてホームステイを経験した。また、わが家などで、米国、オーストラリア、モンゴルから AFS 生を受け入れてもきた。

第一次、第二次世界大戦の傷病兵看護などの奉仕活動に起源があるAFS(American Field Service)は、ホームステイを主体とした高校生の交換留学制度である。かつての米国を中心とする二国間留学制度から、今では50カ国以上の多国間での枠組みが確立されている。例えばAFS日本協会ではアジア、欧州、中南米諸国などとの間での交換留学を加速しており、延べ人数は二万人を超えた。

ホームステイによる交換留学は、多感な高校生時代に経験することに大きな意義がある。私も、家庭不和や授業内容の悩みから、ホストファミリーに隠れて地域の相談員やスクールカウンセラーにこっそり相談したものだ。そのような体験こそがその国の文化や価値観の機微と奥行きを教えてくれる。単なる「英語を学ぶ留学」を超える鍵は、ここにある。
一年間のホームステイを通じて異なる国の人々の家族を知り、その国の裏側まで体感した者は、その国のファンになる。そうならずとも、その国をおろそかにすることはない。歴史認識でいつまでももつれる中国や韓国との関係改善には、肌の触れ合う相互理解が最も近道だ。ODA削減が行なわれようとしている今、アジア諸国などと日本双方での人づくりに重点を一層置くことは、大切な国益にかなう。

それゆえ、長い目で見た日本の生き残りのためには、高校生の交換留学を早急に、しかも飛躍的に増やすべきだ。わが国には「留学生受入れ10万人計画」との方針があるが、現状では、留学に際して一年間ほどを日本語習得に費やさなければならない煩わしさが、アジアの多くの若者を米国、オーストラリアなど英語圏の大学などに向かわせてしまっている。日本語を高校時代に習得し、精神的な壁もなくなれば、日本ファンとして再び大学以降で日本に留学する可能性は遥かに高くなろう。

ところが、最近の予算方針を見る限り、わが国政府は正反対を向いている。しかも留学生戦略を一元的に企画、実行する司令塔もないようだ。文部科学省、外務省、NGOなどがバラバラに動いているのが実態だ。

外務省ではODA予算削減を理由に、AFS日本協会に委託してきた短期、長期合わせて3種類あった「日・ASEAN高校生交流プログラム」の来年度予算の全面カットを一旦決めた。70名ずつの派遣、受け入れを行う一ヶ月プログラムのみ目下復活が検討されていると聞くが、カンボディア、ミャンマーを含めたASEAN10ヶ国から40名の高校生を一年間受け入れるプログラムは、わずか二年で終わってしまう。

また、文科省では、「使える英語」習得のため、と称し、高校生千人の英語圏三ヶ月留学のために一人一律40万円支給すると共に、英語教員百人の留学支援のため、合計5億円を予算申請する一方で、YFU日本国際交流財団とAFS日本協会が補助事業として実施してきたアジア・太平洋諸国からの高校生短期受入れや、日本人高校生の派遣予算を全面カットした。英語を使えることだけが国際人の条件ではないはずだ。

人づくりには時間がかかる。高校生を受入れ、派遣しても本当にその成果が上がるのは20年も30年も先の話だ。従って、この分野での努力は忍耐強く行わねばならないし、性急な判断で国家百年の計を決して見失ってはならない。必要なのは国家としての戦略的な視点である。

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