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NIKKEI NET 特別コラム「ザ・フロントランナー今週の視点」第11回-2002/07/30 号

銀行合併はペイオフ解禁の答えではない

来年4月のペイオフ解禁を巡って、与党からは毎日のように、議員立法によってでも延期すべきだ、という声が聞こえる。民主党など野党からも延期論が出てきた。一方で、金融庁は、構造改革の一環だからペイオフは解禁すべきだという。私は、こうした議論は人々を混乱させるだけだと思う。金融システムが不安だから、ペイオフを延期するのか。金融システムは安心だから、ペイオフを解禁するのか。それはどちらでもない。

第一に、ペイオフは制度としては96年に一旦凍結されるまで、仕組みとしては25年の長きに亘って存在していた。大多数の国民が「銀行は潰れない」と漠然と信じていたため、不安を抱く人はいなかっただけだ。つまり、ペイオフ云々よりも金融システムの不安を取り除く措置をとることが先決である。

第二に、「ペイオフを延期すると、破綻した銀行の預金を全額保護するために、引き続き皆さんの税金を使うことになるが、それで良いのか」と言うと、多くの人々は「それはちょっと考え直さねば」となる。つまり、銀行破綻のコスト負担をいかに最小化するか、が問題の本質である。そして傷口を広げないためには、早く処理することが世界の常識である。

さる4月に海外の若手の政策担当者数十名に金融問題の講義を行ったとき、質問があった。「みずほグループのような大型合併が相次いでいるが、日本の銀行は何のために規模を拡大しているのか」。私はとっさに「率直に言えば、トゥー・ビッグ・トゥ・フェイル(大きすぎて潰せない)的な存在になるためではないか」と答えた。聴衆からため息が漏れるのがわかった。

私が恐れたとおり、勢いづくペイオフ延期論の中で金融庁は腰が据わらない。合併時の資本注入や、ペイオフ限度額を合併時に引き上げるなどのインセンティブで、銀行の合併再編を促すという。特別検査結果がまとまった3、4月に彼らが胸を張って「金融システムに不安なし」といった自信は、一体どこへいってしまったのか。

ペイオフ解禁前に出すべき答えは単なる銀行合併ではない。不良債権の処理なしに、合併や資本注入をしても、金融システム不安とは訣別できない。何よりこの事態を招いた経営の変化なくして出口はない。これは中小金融機関でも同様だ。銀行が、小さくても強くて魅力的な存在になることをやめて、ある地域で「大きくて潰せない」存在になることしか頭になくなれば、それは民間の経済主体としての誇りと資格を失っている。そのようなモラルハザードを犯す銀行は、まず国有化するのが王道である。

昨年来、この4月の定期性預金のペイオフ解禁までに、整理回収機構(RCC)などあらゆる手を尽くして銀行、とりわけ主要銀行のバランスシートから不良債権を切り離し、万全の体制で4月1日を迎えなければ、政府は「不作為の罪」に問われる、と主張してきた。しかし、鳴り物入りの「特別検査」は、要注意先債権が全体で約80兆円もある中で、わずか3.7 兆円の要注意先を破綻懸念先に格下げしただけで終わった。金融システム不安の原因の除去が先送りされたままでは、世界が日本経済に対し強い疑念を抱くのは当然である。円安と在庫調整一巡という外的要因によってもたらされた景気の底打ち感は、円高と米国のバブル崩壊と会計不信という流れの前に、むなしく揺らいでいる。

主要銀行の不良債権という根本的な原因を解決しない限り、ペイオフ如何にかかわらず、金融システム全体に対する信認は回復できない。巨大な不良債権に切り込まない限り、一度ペイオフを延期すれば、永遠に延期するしかない。ペイオフを延期すべきか否か、というのは、問いが間違っている。まずは、主要銀行の不良債権の処理と経営革命を断行するかどうかが、正しい答えに向けての正しい問いではないか。