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NIKKEI NET 特別コラム「ザ・フロントランナー今週の視点」第9回-2002/05/08 号

まず司令塔作りより始めよ

大型連休中、米国のボストン、ワシントン、ニューヨークを回ってきた。講演やパネルディスカッション後の質疑応答、政権の要人との面会や会食、下院議員との肚を割っての議論など、全てを通じて感じたことは、日本に対する失望感だ。いや、人によっては失望感を通り過ぎ、国家としての統治能力や政治家の決意の欠如に関するほとんど諦めにも近い感情すら抱いていた。ある学者グループからは「日本を愛するがゆえに、また日本に国際社会や日米関係における相応の役割を果たしてもらいたいがゆえに、勇気付けの意味も込めて、日本のあるべき姿について声明文を出そうと思うが、どうだ」との内々の相談さえ受けた。

一年前の小泉内閣の誕生によって、構造改革の推進、とりわけその一丁目一番地である不良債権の最終処理と、企業・産業再生への期待が高まった。しかし、そのラストチャンスと皆が考えていた銀行の「特別検査」の結果は、政府への不信感を増大させただけだった。今、政府は循環的な在庫好転に目を奪われ、肝心の不良債権問題から関心を失っている。そして政権中枢からは「まだまだ日本は捨てたものではない」という実態を覆い隠すようなメッセージしか出てこない。税制にしても、経済特区などにしても、王道から外れた枝葉の議論に終始している。

4月のG7やIMFCのコミュニケ等を見ても、日本の構造問題について、わが国は何らの説得力ある答えを出していないと考えられている。それどころか、日本の政府は、ペイオフ解禁という節目でも問題の先送りを再び行なったと見られていることが今回の訪米ではっきりわかった。

不良債権問題とは、日産自動車の再建に端的に見られるように、単なるバブル崩壊に伴う銀行だけの問題ではない。古い枠組みに縛られて新陳代謝を怠った経済システム、非製造業を中心とした供給過剰体制、そして製造業を含めて低収益性を許すコーポレートガバナンスなど、さまざまな相互補完的な問題の解決に向けての突破口として捉えるべきだ。したがってわが国の政策対応としても、個別の不良債権対策だけでは不十分であり、雇用と資本の移動、都市と地方の再設計、教育の増強など、産業競争力強化につながる幅広い総合戦略が不可欠である。しかし、現実はといえば、首相主導の経済再生本部のような司令塔の構築も忘れられている。それどころか、「不良債権問題を解決するためにもまずデフレ対策だ」などという、原因と結果が逆立ちした論理が2月の「デフレ対策」として政府自身によって唱えられている。

多少問題を真剣に考えている者であれば、構造改革の結果が出てくるのに時間がかかることは十分に心得ている。相互補完的な制度や慣習を大きく変えることになるからだ。今、諦めにも近い失望感が世界中に広がっているのは、その時間のかかる構造改革への確実な第一歩である不良債権問題への力強い踏み込みが示されないまま一年が過ぎ去ってしまったからだ。まさに、正鵠を得た政治の強力なリーダーシップが欠如したままで、本質的な変化の兆候すら見られないとの判断が広がりつつある。

もはや、政策決定プロセスの大転換、すなわち、首相を中心とする司令塔作りから始めるしかない。この政治システムの再構築なくして、漂流を続ける日本の再生はない。

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