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週刊東洋経済「視点」-1999/12/04 号

求められる知的インフラ整備

「米国は自らの基準をグローバル・スタンダード化し、圧倒的影響力を行使しようとしている」とみる人が増えている。確かに、WTOの交渉の中味やインターネットがそのまま世界で使われている事実などを考えるとその戦略はしたたかだし、そのやり方を見ていると、国家戦略が透けて見える。ひるがえって日本では、明治維新や世界大国入りの歴史、あるいは戦後高度経済成長期には感じられた国家戦略をこしらえる司令塔の存在がいつのまにか不明確になっている。そしてもちろん、各国とも司令塔は「人」によって作り上げるものだ。

アメリカやEU主要国の場合、国家としての司令塔らしきものを形成する人たちに接するたびに感じるのは、その知的パワーだ。彼らがそうしたパワーを身につけるのは大学、大学院での教育だ。昨今、中国やASEAN各国の司令塔ないしはその予備軍に、米国の高等教育それも大学院のみならず、大学レベルでの教育を受けた人がかなり多くなっている。日本では、「大学は日本、大学院はアメリカ」とのケースが多い。自分の経験からすると、勉強の仕方や知的パワーの組み立て方を身につけるには、大学院では遅すぎる。

ホームページを通じ知的インフラのベースともいうべき大学の図書館の開館時間などを見ると、日本とアメリカとの差は歴然だ。アメリカの場合平日の「午前0時まで」は当たり前で「午前2時まで」という大学もかなりある。おまけに図書館の「スタディールーム(自習室)」や、コンピューター端末が自由に使える「情報棟」が24時間オープンなのはどこも共通なのに、日本では聞いたことがない。日本の大学では、国立、私立を問わず平日の夜は9時台に閉館となり、日曜に至っては深夜までの米国の大学図書館と異なり、夕方「5時閉館」または「終日閉館」が日本の常識だ。学生一人当たり年間図書貸出し冊数を見ると、ハーバード大93冊、スタンフォード大89冊に対し、東大はたったの4冊だ。

知的インフラで負けているのは図書館だけではもちろんない。まず第一に、ホームページを見れば、学部、学科、講義内容等々、世界どこにいようともアクセスできる「大学のディスクロージャー」が行われており、大学側も必然的にお互いに競い合って魅力を売り込み、世界の頭脳を集めようとしているのに、日本の大学は寂しい限りだ。情報化に関し米国では学生への連絡、履修届、授業の配布資料などもほとんど電子メールやホームページを通じて行われ、学生寮にもLANが張り巡らされており、学生は年間例えば100ドル弱の超低料金で高速情報通信を利用できる。

今日本では、国立大学の独立行政法人化が議論されているが、文部省は「自主性・自立性と自己責任」が担保されないのでは、として慎重だ。「中谷巌事件」を契機に、国立大学教官が限定的に民間企業役員との兼業を認める方途を考えているようだが、「特例措置を講じた、国家公務員型の独立行政法人」などと悠長なことを言わず、民営化まで一足飛びに考えるぐらいの発想の転換をし、脳みそと精神力に力こぶができるような、世界に通用する国家の司令塔になりうる「知的パワー人」を育てていきたいものだ。