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週刊東洋経済「視点」-1999/11/06 号

真のノーマライゼーション

「パパ、目の見えない人はどうやってミルクをこぼさずにコップに入れるか知ってる?」
ハーバードの大学院留学中の私は、キャンパス内の幼稚園に通い出して間もない息子からこう聞かれた。片方の手の指をコップの中に入れ、もう片方の手でミルクを注ぐ、言われてみればなるほどこれだけのことを、5歳の子供に教えられた驚きを記憶している。「ブラインド・ウイーク(盲人週間)」と称し、幼稚園で一週間、目の不自由な人と生活を共にしながら体験を通した教育の成果だった。

この近年、私は「障害者プラン(ノーマライゼーション7ヵ年戦略)」をはじめさまざまな障害者施策作りにかかわってきた。一貫したキーワードは「ノーマライゼーション」。「障害者プラン」とは、障害者にかかわる問題は「篤志」や「善意」に頼る特殊・特別なものではなく、今後は国家の社会政策として明確に位置づけよう、との「宣言」でもあったと思う。

最近、知的障害を持つ子供たちのお母さん方から、就学を中心に抱える問題を聞いているが、我が国は本格的なノーマライゼーションにはまだ程遠い、というのが実感だ。 そもそも「特殊教育」や「特殊学級」という表現自体に私は違和感を覚える。Special education の訳語だそうだが、なんと明治14年に文部省事務取扱規則で使われて以来そのままだ。少なくとも「特殊」は「ノーマル」とは対極にある概念であり、それに代わる適切な表現を考えるべきと思う。

また、「特殊」学級や養護学校がまだまだ不足し、通学の苦労を考えれば、地理的配置もいささかお粗末だ。障害のあるなしにかかわらず当たり前に普通に生活するためには、それぞれの地域に機会が確保されることが肝要で、そのためには学びの場はできるだけ各小中学校に置かれなければならない。もちろん、3割弱しかない「特殊」教育免許保有率に端的に表われているように教育のレベルアップも望まれる。

また、養護学校もできるだけ分校・分教室によって障害児の住む地域に近づけるべきだ。三重県や静岡県では小学校の空教室を活用して分校が設置され始めているという。少なくとも当面は、スクールバスを大いに活用し、小・中学生の知的障害児が親元を離れて寄宿舎に入らなければならないような事態や、一日2往復、合計例えば6時間もの送り迎えを親に強いるようなことは基本的に避けるべきだろう。ちなみに47都道府県でスクールバスが10台未満の県が10県もあり、たった1台しかない県すらある。

幼稚園や「児童クラブ」にも障害児枠がないし、知的障害者向けヘルパーやボランティア養成もほとんどなされていない。もちろん雇用環境は引き続き大変厳しい。

豊かな福祉社会実現には、すべての人々、なかんずく政治、行政に携わる者がまずノーマライゼーションの真意を理解することが必須だし、そのためにも子供のうちから障害を持った人たちと共に、日常的なかかわり合いのなかで「普通に」生活することを身につけることが大切なのではないだろうか。コップにミルクを注ぐたびに息子との昔の会話を思い出している。