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現代ビジネス-2012年9月25日掲載記事

民主党政府の「原発ゼロ」方針は戦略なき「思い付き」だ! 国民に信頼される原子力行政の確立のため、日本にも「廃炉庁」創設を!(現代ビジネス)

 政府のエネルギー・環境会議は「革新的エネルギー・環境戦略」を9月14日に決定した。2030年代までに原発をゼロにする、との重い決断が国民の印象には強く残ったはずだ。だが、民主党政権が本気で「原発ゼロ」を目指しているのかどうか、選挙を前に国民は不透明感を強くしていることだろう。

 なぜなら、「戦略」の詳細を読めば、まず矛盾だらけ。「原発ゼロ」と言う一方で、「核燃料サイクル」は継続するとしている。また、新設はしないと言いながら、この「戦略」を決定した翌日には、枝野幸男経済産業大臣が青森県の大間原発と島根原発3号機について、認可済みながら未完成の原発建設の継続を容認した。

 高速増殖炉の原型炉「もんじゅ」についても、「戦略」では「研究を終了する」と明記しているが、福井県を訪れた平野博文文部科学大臣は、「重要性は従来通り」と説明。これまでと同様の運用を続ける考えを県側に示した。一体民主党政府は何を考えているのか、さっぱり分からない。

 さらに驚くべきは、19日の閣議でこの「戦略」そのものを閣議決定すると思いきや、実際に決定されたのは、「『戦略』をふまえて、・・・柔軟性を持って不断の検証と見直しを行いながら遂行する」という、何を遂行するのか分からない、目的語なきたった5行の意味不明文書のみで、「戦略」自体は参考資料として閣議で配布されただけだ。それまでタウンミーティングでの賛否や討論型世論調査を通じて「脱原発」世論を作っておきながら、国家意志たる閣議決定からは「原発ゼロ」を外すという、極めて分かりにくい手法を採った。

原発ゼロと宣言して、誰が廃炉をするのか

 私がこれまで国会で原発事故原因究明のための独立した「国会事故調査委員会」の設置を主張し、実現させたのも、独立性の高い原子力規制委員会の設置に強くこだわったのも、今現実に日本国内に原発と、例えそれを廃止しても相当期間消えないリスクが厳然と存在するという事実を客観的に踏まえているからだ。

 原発依存体質からの脱却は、福島原発事故の深刻さを考えれば当然だ。だが、「原発ゼロ」と言ったところで、日本の原発や原発に伴う各種リスクが瞬時に消えて無くなるわけではない現実にも目を向けねばならない。

 また、原子力の安全規制等の技術水準の維持は、脱原発依存を進めていく過程での「廃炉」にも必要だ。原発ゼロと宣言して、誰が廃炉をするのか。電力会社任せにし、その裁量で決まるコストをそのまま電力料金にオンして国民が負担する訳にはいくまい。

 現在、日本の原子力発電所で廃炉が決まっているものは8基ある。そのうちの4つは大震災で被害を受けた福島第1原発の1号機から4号機までの4基。残りは、日本初の原発である東海発電所1号機、純国産技術で最初に開発された「ふげん」、そして中部電力の浜岡原発1号機と2号機だ。

 もともと原子炉の廃炉は数十年かかるとされている。運転停止後数年間は残留放射能の影響から容易に炉の近くに立ち入ることは出来ない。従ってロボットでの解体作業となるが、何十年も前の原発であれば設計図も現存しておらず、その作業も困難だという。

 更に福島原発の場合は炉心溶融という通常想定されて来なかったケースだ。廃炉費用も数兆円に上るとも言われている。東電は自力で賄うのが困難になった場合、新たな支援を政府に要請するとしているが、東電にその作業を任せきりにし、費用は丸々国民負担というのでは、国民の納得は得られないだろう。福島以外についても、廃炉コストは「原子力発電施設解体引当金」として総括原価方式を通じて電力料金に反映される。全て国民負担に直結しているのだ。

2005年、英国で誕生した「廃炉庁」

 実は、英国でも、原子炉を保有していたある事業者が債務超過に陥り、廃炉が適正に行われるか、そのコスト負担は公正、適正なのか、国民の重要関心事項となったことがある。そして、何十年もかかる廃炉に責任をもって当たる組織が必要だとの問題意識から、2001年11月、英国貿易産業省が白書「Managing the Nuclear Legacy ‐ A strategy for action」をまとめた。その中で、原子力債務の管理方法を根本的に変更する必要があるとの結論に至った。

 白書では、原子力の廃炉等の債務管理方法を根本的に変えるため、一元管理のための機関創設の必要性が謳われた。その機関は「原子力の負の遺産を、安全、確実かつ効率的に、環境に配慮した方法でクリーンアップ」するとされた。また、組織形態は、「非政府公共機関として設立し、政府の一組織ではないものの、政府が責任を負う」べきだと規定された。

 その後、機関創設のための法案の作成作業が開始され、2003年6月に公表された草案において、競争原理の導入と促進によって、英国内の原子力債務管理及び処理についての市場を拡大させるべし、との重要な指針が盛り込まれた。

 翌2004年には、それまでの議論の精神を継承した「2004年エネルギー法」が成立。その翌年の2005年に「原子力廃止措置機関」(NDA: Nuclear Decommissioning Authority)、通称「廃炉庁」が誕生したのである。

 「2004年エネルギー法」においては、(1)国民と環境の安全をまず第一に確保すべき旨や、(2)熟練し、かつ高度な専門能力を有する人材を確保・維持することの重要性、そして(3)廃炉市場の構築と、競争原理の導入・促進などについて規定している。

国民に信頼される原子力行政の確立を

 上記のような経緯を経て設立された英国廃炉庁は、現在19の原子炉を管轄しており、これらの原子炉の運営と廃炉事業について、国際入札を行なって選んだ管理会社「サイト・ライセンス・カンパニー」に委託することで、廃炉コストを圧縮、適正化する方式になっている。

 日本はこれまで国策として原発政策を進めてきた。しかし、国会事故調が見事に指摘したように、規制者としての政府自身が「規制の虜」となり、その結果今回の取り返しのつかない「人災」を招いた。

 情けないことに、自公案をベースに与野党合意でできた原子力規制委員会やその事務局を担う原子力規制庁における人事において、国会同意を得ようともしない国民軽視の姿勢や、専門性無視の人事では、原子力規制に最も大切な、国民からの信頼と信認(trust and confidence)は勝ち得ない。その上、これまで同様、廃炉も事業者任せ、では許されない。日本における制度改革、法制化においても、英国の「廃炉庁」は重要な参考となるだろう。

 国民に信頼される原子力行政の確立のため、私は日本にも「廃炉庁」を創設することを提案したい。

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/33617

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