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現代ビジネス-2012年5月8日掲載記事

全原発停止。再稼働を急ぐ前に独立性の高い規制機関を。野党側対案の本格審議を急げ。(現代ビジネス)

 5月5日深夜、国内の原子力発電所で唯一稼働していた北海道電力泊原発3号機が、定期点検に入るため、発電を停止した。これで国内にある50基(廃止になった福島第一の4基を除く)すべての稼働が止まったことになる。きちんとした議論もないまま、なし崩し的に原発ゼロとなったのは極めて異常な事態と言っていいだろう。
 政府は定期点検を終えた原発の再稼働を急いでいたが、今後の日本のエネルギー政策をどうするのか、基本計画すらまとまっていない。また、安全基準は万全だといくら言ってみたところで、原発の安全規制への国民の信頼を取り戻していない現状では、誰もそれを信じないだろう。まずは、東日本大震災後の東京電力福島第一原発事故を反省し、その教訓を活かすことから始めなければならない。
 その第一歩が原子力規制のあり方を一新することだ。新しい規制組織のあり方として、政府は原子力規制庁法案を国会に提出している。これに対して自民党など野党はこぞって、より独立性が高い組織が必要だと判断している。4月末に自公で対案を国会に提出したが、その審議がいよいよ本格的に始まろうとしている。
 今までの原子力規制組織の問題点は独立性欠如、一元化の不徹底、専門性の欠如、など3点ほどあったが、何と言っても最大の問題は独立性の欠如だ。すなわち、原子力の推進役と規制役が同じ組織の中にあって利益相反状態になっていたことだ。安全に徹すべき人が推進側に配慮することになり、極めて不十分な安全規制となってしまったいた。
 同じ経済産業省の中に産業所管部局と資源エネルギー庁、原子力安全・保安院があった。資源エネルギー庁は原発の推進役だ。それに対して原子力安全・保安院は規制役。これが同じ組織の中にあり、エネ庁の論理が勝ってきた。
 例えば、国際原子力機関(IAEA)が原発防災計画を作るべきだと提唱したことがあった。2002年のことで、日本ではJCOの臨界事故があった後になる。原子力安全委員会もそれを受けて、原発防災計画の検討を開始した。しかし、保安院はこの原発防災計画の検討を「寝た子を起こすようなことになる」と危惧し、原子力安全委員会に原発防災計画を検討しないよう働きかけ、検討自体を封殺してしまった。
 規制役の保安院が、原発推進に支障がありそうなものを率先して排除する形になった。その結果、今回の福島第一原発のような苛酷事故が起きた際の計画を、決めておくことができなかった。その反省に立てば、推進役と規制役は決して一緒にしてはいけないのである。
 ところが政府が出している「原子力規制庁」法案は、いままで経産省の下に保安院がぶら下がっていたのを、環境省にぶら下げて規制庁という組織にしようというだけになっている。一見、推進役の経産省から規制役が独立したかのように見えるが、規制庁の長官以下の人事はすべて環境相が決めることになる。長官人事も総理を始めとする内閣が選ぶ。
 また、規制庁長官の罷免権も、環境相ひいては内閣が握ることになる。すると、内閣が原発を再稼働させたいと考えていた場合、安全かどうかという規制庁の判断に、内閣の「再稼働」という意思が影響を与えることになりかねない。
 仮に、内閣が再稼働に向けて安全だと判断したものを、規制庁が「安全性に問題がある」としたらどうなるか。言うことを聞かなければ罷免するぞ、ということになる。つまり、独立性がない中では、安全に徹することができる組織はできないのだ。
 今回、我々がまとめた対案は、何よりもIAEAの安全基準を遵守する事を旨とした。その結果、組織形態としてはすべての役所から独立している、公正取引委員会のような、いわゆる3条委員会にするというものになった。規制内容はもちろん、予算も人事も自分で決めることができる。政治からも、他の行政組織からも影響をまったく受けず、自ら政府のどこに対しても勧告ができるようにする。環境省も除染や放射能の影響が残る瓦礫の処理に携わるが、その安全基準も原子力規制委員会が作り、環境省に勧告を出すことになる。
 細野豪志環境相は「危機が起きた時こそ、政治家が出ていかなくてどうするのか」と国会答弁で発言していた。われわれはそれを「菅直人リスク」と呼んでいる。政治家が専門的知識がないままに重要な決断を行ない、問題の解決を更に遅らせてしまうリスクだ。しかし、緊急時に原子炉の扱いをどうするか、つまり問題が起きてメルトダウンしそうな原子炉をどう抑えこんでいくかという専門技術的なことは、事前に選ばれた専門家が行うべきではないか。
 菅前首相は「ベントをやれ」「海水注入をやめろ」と官邸から指示をしていたと言われている。また、浜岡原発停止も法的権限、科学的根拠共に不明だった。ストレステストも唐突に、デュープロセスなく導入が決定された。政治家が訳もわからないのに「右に行け、左に行け」ということを言うのはまずい。瀕死の患者を診ようとしている医者に、「国民の命を預っているのは俺だ。だから診断、治療は俺がやる」と首相が言ったら、家族は皆「やめてくれ」と言うだろう。やはり専門の医師に見て欲しいと言うはずではないか。
 独立した専門知識を有した規制機関が科学的知見から判断し、「放水が必要だ」という時は首相に依頼し、首相が自衛隊に放水せよと命令する流れが本来あるべき危機対応のあり方だ。規制機関と首相ら政治家が非常に緊密な連携をすべきなのは当然だが、だからといって、素人が専門的な領域の判断にまで介入することはあり得ない、というのがIAEAのルールでもあり、世界の常識だ。この点に関する日本の混同ぶりは、昨年6月のIAEA調査報告書であからさまに指摘された。
 福島の教訓は、原発は一度事故を起こすと取り返しのつかない甚大な被害を国民に与えるということだ。そのリスクを持った原発を今後も使い続けるにせよ、脱原発の道を選ぶにせよ、廃炉にすら30〜40年はかかる事を考えなければならない。さらには、原発の増設を図る中国など近隣諸国における原発事故から国民を守ることを考えれば、安全を第一に考える独立性の高い、高度に専門的な原子力規制組織がなくてはならない。
 国会審議が始まってもいない今、アンダーテーブルで「実務者協議」を行っているかのような発言が与党幹部から出ている。だが、ここは民主主義の基本に基づき、オープンな国会審議を行うべきだ。政府案のどこがIAEAの安全基準に反し、事故の教訓を無視して間違っているのか、野党案のどこが優れ、二度と同じ間違いを繰り返さないために何が重要なのか、国民の前に明らかにしなければならない。それによって原子力規制への国民の理解と信頼が深まる事になる。国会審議を通じて国民の理解を得たうえで、我々の対案である3条委員会方式を政府が納得して受け入れ、一刻も早く新生規制機関を設置することを求めていきたい。

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