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週刊ダイヤモンド-2008年08月09・16日合併特大号掲載記事

洞爺湖サミット終了で残された時間は500日
"ポスト京都議定書"の枠組みはこうなる!【特別鼎談】

桜井正光 経済同友会代表幹事 リコー会長執行役員
鶴岡公二 外務省国際法局長 前地球規模課題審議官
塩崎恭久 衆議院議員 元内閣官房長官


7月7〜9日に開催された洞爺湖サミット(G8、主要国首脳会議)では、「2050年までに全世界の温室効果ガスの排出を少なくとも半減する目標を世界各国が共有する」ことを採択した。だが、京都議定書後の新しい枠組みについて合意すべきタイムリミットが09年末に迫っていることを鑑みれば、玉虫色の決着と言わざるをえない。日本政府の交渉メンバーとして臨んだ外務省前地球規模課題審議官の鶴岡公二国際法局長、昨年のハイリゲンダムサミットに阿倍晋三首相を送り出した元内閣官房長官の塩崎恭久衆議院議員、温暖化対策に積極的姿勢を貫く経済同友会代表幹事の桜井正光・リコー会長が、"ポスト京都"の展望と課題について、忌憚ない意見を交わした。(週刊ダイヤモンド・遠藤典子)


― 今回のG8の首脳宣言および議長総括には、長期目標として、2050年までに温室効果ガス排出量を少なくとも半減する目標を世界各国で共有し、国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)の加盟国が採択するよう要請すること、中期目標として、G8は野心的な国別総量目標を設定することが盛り込まれた。どう評価するか。

鶴岡●昨年のハイリゲンダムのG8では、50年までに温室効果ガスの半減を目指すことについて真剣に検討することで合意したが、じつは、米国がUNFCCCの交渉に復帰するかどうかという点で大きな課題が残っていた、だが、昨年12月のバリのUNFCCC会合において、米国の交渉復帰が確定、その後初めて開かれたG8という意味で、大変重要な政治的意思の表明であった。
 加えて、米国がハイリゲンダム後に立ち上げた主要経済国会合(MEM)も同時に開かれ、中国、インドなど8ヵ国を加えた16ヵ国の首脳のあいだで議論が交わされた意義は大きい。MEMの第二回首脳会議が来年のイタリアG8の際に開かれることも決まった。
 今回はG8とMEMの両方で、長期目標について合意文書で言及した。G8においては、前日の深夜に至るまで福田康夫首相の指示を得ながらギリギリの調整が続いたが、ハイリゲンダムで自らに課した検討課題について合意を得ただけでなく、これが実現に向けて動き出すためには、UNFCCCの交渉に参加している主要経済国がこの目標を共有することをG8として求めていくということが明確になった。
 中期目標についても、排出量の絶対的な削減を達成するために、G8は野心的な中期の国別総量目標を実施することに合意したが、米国がこの合意に参加したのは、今回が初めてだ。じつはこれこそ非常に大きな成果であった。

塩崎●今回のG8に国内外のマスメディアは「合意は玉虫色」と前向きな評価を下さなかったが、もともとそんなに簡単に答えが出るような問題ではない。
 昨年5月、阿倍晋三前首相が「クールアース50」を提言、そのなかで京都議定書後の新しい枠組みのあるべき姿について、いわゆる阿倍三原則を示した。一つ目は全主要排出国が参加し、京都議定書よりも有効なものであること。二つ目はそれぞれの国の多様性を反映した柔軟なものであること。三つ目は経済成長と温暖化対策とを両立させるべく、技術を活用すること。これらを掲げ、「50年までに半減」を提案し、ハイリゲンダムに乗り込んだ。ハイリゲンダムでは、本格的な交渉以前の、腹の探り合いのようなものだったが、今回は、G8が一つのチームになって、バリの会議でポスト京都の合意期限として約束した09年末に向けて交渉をするのだという結束ができた。なにより、米国が中・長期の目標などについて、事実上のコミットを行なった。手堅く歩みを進めたといっていい。
 もっとも、これまで同様、今後の交渉はなんどとなく暗礁に乗り上げるだろう。そのときは、阿倍三原則に立ち返ればいい。

桜井●私の考えは少々異なる。今回のG8に非常に期待したのは、各国の利害関係が激突するなかで、米国だけではなく、主要排出国である新興国をいかに新しい枠組みの中に加えるか、そのための手応えを得ることだった。
 とりわけ中期目標については、G8は先進国の責任として、「野心的な」ではなく「具体的な」削減目標を明示すべきであった。新しい枠組みに途上国、特に新興国の目標を持った参加を意識づけるためにも。また、長期目標についても、先進国は50%を超える具体的な削減目標を明示すべきだった。共有する、などというあいまいな表現はやめたほうがいい。
残された交渉期間は、わずか1年と数ヶ月しかない。

塩崎●これは連立方程式であって、欧米、途上国、新興国が同時に納得する答えにたどり着かなければならない。今、桜井さんから話があったように、確かに遅いと感じないわけではない。交渉役であった鶴岡さんも、官房長官時代の私同様実感されたはずだが、中国やインドはなかなか動かない。まずは米国を引き入れることを、今回のG8は最優先したのだろう。
 まだ、統計は固まっていないが、中国はすでに、米国を抜いて世界最大の排出国となっているだろう。中国が入らない穴の開いた枠組みに、インド、ブラジルなど他の主要排出国が加わるわけがない。桜井さんが言うように、今後はかなりペースアップして、具体的な議論に踏み込んでいかなければ、タイムリミットに間に合わない。

― 途上国や新興国を巻き込むうえで、MEMは有効ではないか。参加16ヵ国で世界の排出量の約80%をカバーしている。

鶴岡●温暖化問題は典型的な地球規模の課題であり、G8だけで解決することはできない。当然、この合意が特に主要経済国のあいだで共有されていくことが今後の解決のために不可欠な要素である。
 今回のMEMでは、今後、UNFCCCの交渉のなかで、世界全体の長期目標の採択が望ましいということについては、16ヵ国が合意した。だが、具体的な数値を明記することはできなかった。
 G8の翌日に開かれたこともあり、G8の各国が昨日の「50年に50%削減」の長期目標の共有を呼びかけた。インドネシア、韓国、オーストラリアからは同意する、支持するという発言を相次いで得られたが、中国、インド、南アフリカ共和国、ブラジル、メキシコの5ヵ国からは得られなかった。
 中期目標については、「途上主要経済国の削減については、対策を取らないシナリオの下での排出量からの離脱を達成するために、緩和の行動を行なう」という表現で合意している。つまり、これまでどおり、いわば野放図なかたちで、温室効果ガスを問題にせず開発を続けていくということではなく、可能な限りの削減を実施しながら今後の経済成長を目指すことが、途上国が行なうべき努力として明記されているわけだ。
 これまで中期目標について、途上国、とりわけ新興国の排出について、あるべき方向性を設けようとしても、もともと、途上国の削減については議論しないというのが非常に強い途上国側の主張だった。その点では、壁を一つ乗り越えることができたと思う。
 今回、ブラジル、中国、インド、メキシコ、南アフリカの5ヵ国は洞爺湖に入る前日、札幌で5ヵ国首脳会合を開催した。そこで採択した政治宣言が公表されたが、そこには先進国についての「歴史的責任」という表現がある。しかも、5ヵ国が採択したにもかかわらず、主語は先進国で、20年までに1990年対比で少なくとも25〜40%の排出を削減し、50年までに80〜95%を削減することが義務としてつづられている。
 加えて資金面については、GDP比で0.5%を温暖化対策にかかわるODAに充てよ、と主張している。ちなみに日本人の全ODAはGDPの0.16%だから、その三倍相当を温暖化対策のためだけに追加的に拠出しろと、言っているわけだ。私は0.5%という数字には驚いたが、そのほかの彼らの主張については、さして驚いてはいない。これからしばらくは、そうした主張を強力に打ち出してくると思われる。
 それはつまり、ポスト京都合意に向けて、具体的な国際交渉が動き出したということを彼らは非常に明確に認識しており、ここで強い立場を強調しないことには、一気に先進国ペースで押し切られてしまうという危機感の表明だ。大きな成果につなげていくために通らなければならない重要な通過点を迎えていることを実感している。

― 今回のG8では、日本、とりわけ経済界が常々有効性を主張してきたセクター別アプローチの有効性が認められた。

塩崎●先日、国際的な超党派の議員連盟であるグローブ・インターナショナルの会合が持たれたのだが、そこでも中国の代表は机をたたいて先進国の責任を糾弾していた。交渉の当事者ではないにもかかわらず徹底した先進国責任論で、これではなかなか前進するまいと感じた。セクター別アプローチは中国、インドを巻き込む道具立てとしては有効なものになりうるのではないか。
 重要なのは、そのとき、日本がどれだけのリーダーシップを発揮できるか、である。京都議定書からの反省を受け、欧米に主導権を奪われて、指をくわえて見ているだけとなってはならない。地球益を考えるとともに、国益、国民益を考えたうえで、世界のルールづくりを日本が果たすためには、そろそろ具体策を提示しなければならない時期にきている。だが、それが見えない。道具が揃わないと切れ味もなにもわからない。

桜井●私も同感だ。日本はこれまでエネルギー効率の向上、あるいは脱化石燃料化を積極的に推進してきた。そうとうな高いレベルの技術ノウハウ、プロセスを持っており、国益を考えれば、それを有効活用するほかない。ただし過去からの蓄積だけをいっているのではない。これからもトップランナーとして技術革新を進めていく。それこそ、中、長期の高い削減目標に有効な手段となるはずだ。
 これまでの、また今回のG8のセクター別アプローチに対する認識は、今まで一生懸命積み上げた資産を大いに使おうということで、終わってしまっている。非常に残念だ。日本のスタンスは全世界で50の年半減にとどまらず、すでに掲げている60%や80%削減の高い目標への挑戦だ。さらなる技術革新やプロセス革新が必要だ。
 セクター別アプローチには二つの有効性があると考える。一つは公平性を担保する目標設定の方法として、もう一つはトップランナーの水準まで全体を引き上げるための技術移転の方法としてだ。
 ただし、前者については問題もある。日本が提案しているセクター別アプローチはエネルギー効率改善目標の積み上げに終わってしまっているからだ。それだけで、排出量のピークアウトさえ10年後、15年後に迎えられるのか。まして50年の半減、さらにもっと高いレベルの削減は可能なのかという点では、疑問が残る。しかも、エネルギー効率はアップしても、生産量が増えれば、結果的に排出量が増えてしまう。
 こうした問題は、やはりトップダウン型の排出量制限をもって解決するほかないのではないか。その2つをセットにすることが、削減目標に近づく、より現実的な解だと考える。経済界の一部には、削減義務をあてがわれることに、強い抵抗感があるが、必要となる高い目標へのチャレンジが、高い企業力、産業力、国力をつけることにつながると信じている。

― 製鉄、電力、セメントなど一部経済界には排出削減割り当てを前提とした排出権取引(キャップ・アンド・トレード)に強い抵抗感がある。

桜井●まず、日本のエネルギー多消費型産業は、これまでも省エネ、省資源、汚染防止に技術革新やプロセス革新をもって挑み、大きな成果を上げてきた。しかし、それには巨額の投資が必要であり、その回収サイクルは長く、リスクが非常に大きかったし、これからもそうだろう。これ以上の努力に抵抗感があるのは理解できる。
 他の産業、企業については、厳しいことに変わりはないが、考え方はいろいろある。だが、声が小さい。したがって、エネルギー多消費型産業の主張だけが、経済界の声として取り上げられてしまっている。業務的目標設定にしても、排出権取引や環境税にしても、産業界にも賛成派はいる。反対派も賛成派もそれぞれの主張を繰り返すだけで、建設的な議論にならないのは残念だ。制度に問題があるのなら、改良型に仕立てるための議論を深めなければならない。

塩崎●温暖化対策は、新しく持続的世界経済発展モデルをつくり替える作業である。このとき、日本がリーダーシップを取ることは大変重要であって、そうした意味においては、現在の経済界の一部の動きを見ると、内向きになり過ぎていないかと非常に心配になる。
 また、排出権取引市場には投機資金が舞い込んでいるという批判があるが、少し投機恐怖症のようなものがあるようだ。投機は市場に付き物であって、それがダメだというのならば、原油も市場取引をやめるのか、という話になる。先日のグローブの会合でのスピーチで、英国のブレア前首相はキャップ・アンド・トレードのいちばんの目的は投資へのインセンティブだと話した。きわめて明快だ。

鶴岡●今後日本がリーダーシップを発揮するために不可欠なことは、桜井さんが言われたように経済成長と温暖化対策とが両立すること、つまり、経済が成長しているのに排出量が減るということを、具体的な行動で示すことだ。
 しかし、現状はそうなっていない。京都議定書では90年比で6%の削減義務を負ったが、排出量は約13%も増えてしまった。途上国や新興国からすれば、日本ほど優れた技術と国民を持つ国でも、経済成長は排出量を増やさないとできないだろう、1日1ドル以下で働く国民をあまた抱えるわが国が、どうしてできるというのか、ということになる。ここが日本の説得力に欠ける部分である。

塩崎●現在、低炭素社会形成推進基本法という議員立法を行なうべく動いている。そこには、企業の有価証券報告書に自社の二酸化炭素排出量を表示することを義務づける、という項目を入れた。排出者責任の原則にのっとった負担という意味では、環境税に近い発想も入れた。こうした仕組みを確率しなければ、6%削減は難しく、次の枠組みの交渉での弱点となる。

鶴岡●桜井さんが指摘されたとおり、日本の産業界は削減努力を積み上げ、すでに「乾いたぞうきん」のような状況にある。排出削減をどのように国全体に広げていくかが、目の前の大きな課題だ。たとえば排出権取引制度によって、今は削減目標を持たない企業も参加できる道を開いたり、環境税もしくは炭素税導入で、炭素に価格を付けたりすることによって、国民全員が排出削減を、それぞれの経済活動のなかで実施することにつながるのだ。塩崎さんの提起も、経済活動が全体低炭素化に進んでいく仕組みを内在させるという点で大変重要だと考える。

― ポスト京都の新しい枠組みは、どのようなものになるか。

鶴岡●まず、50年半減の長期目標について、具体的な前進がなくてはならない。先進国については、京都議定書の目標以上に踏み込んだ削減を先進国の総量として約束しなければならない。次に、新興国の巨大な排出についての手当てを新たに設けなければならない。新興国は自らの経済成長に悪影響が及ぶことに恐怖を抱いており、大変難しい課題だが、資金的、技術的協力などの仕組みを組み合わせながら、しかし新興国についても責任を果たすような方向性を示すことは不可欠だろう。先進国とまったく同じことを新興国に求めるのは現実的でないが、次の枠組みでは新興国について、必ず一歩は踏み出さなければならない。
 後者が実現しなければ、米国が新たな枠組みに参加することはないと考える。米国が参加しない枠組みが機能しないことは、すでに京都議定書が示している。

塩崎●安倍三原則にのっとった新しい枠組みをつくればいいということに尽きる。主要排出国すべてが加わらなければならず、かつ、京都議定書よりも効果があるものにするには、まず先進国が今の京都の枠組みよりもさらに野心的目標に挑まなければならない。日本は交渉に差し障るという理由で、いまだに具体的な中期目標を掲げていないが、ビジョンは示さなければならない。そこは政治的決断だ。

桜井●地球全体の気温と二酸化炭素濃度の上昇を止めるには、ここ10年、20年が大変重要な時期になる。残された時間は長くない。したがって、50年半減は全世界で当然合意し、中期目標についても、最悪でも主要排出国それぞれが具体的な数字を盛り込んだ合意が行われるべきである。
 洞爺湖G8が終わったからといって、温暖化防止に対する意思と熱意を冷ましてはならない。