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金融財政事情-1999年9月27日

日本の資本市場、国家に対する信認の回復を目指す

会計基準設定主体、市場ルール執行者、会計監査の強化・拡充が必要

破綻金融機関の財務諸表や監査証明が実態とかけ離れたものであったり、飛ばしの横行などから、日本の会計制度に対する海外からの信認は決定的に失われてしまった。その弊害がさまざまな形で現われつつあるなかで、自由民主党・金融問題調査会は8月「企業会計に関する小委員会」を発足させた。信頼回復に向けた処方箋を同小委の委員長である塩崎恭久議員に聞いた。


会計制度への信認確保は国民的課題

―企業会計のあり方をテーマに据えたのはなぜか
 財務諸表の監査証明を受けているにもかかわらず、破綻する金融機関が相次いでいる。しかも、破綻前には大蔵省も債務超過であることを否定していたにもかかわらず、破綻後に資産内容を精査してみると大幅な債務超過であったことが判明するという信じられないような事態が発生している。

 これは銀行など企業の経営者が財務諸表をいかに軽視しているかを示しているのではないか。つまり財務諸表は真実のデータを示すものではなくてもよい前提に立って、決算の計数を操作してきたのではないかと思わざるをえない。

 当局の検査・監督の杜撰さについてはいわずもがなだ。株を買っている投資家も根拠のない会計データをもとに無謀な投資を行ってきたということになる。

 これでは資本市場におけるゲームは成り立ちようがない。こうした事態を放置してきたことによって、国家への信認までが大きく揺らいでしまっている。

 おそらく、最近摘発されたクレディ・スイス・ファースト・ボストン証券やクレスベール証券のような事例は氷山の一角なのだろう。私自身も8年ほど前に外資系金融機関のデリバティブ設計者から、事業会社の損失隠しを手助けしていると聞いたことがある。

 外資系金融機関は損失隠しを平気で行う日本企業の体質や、それを許す会計制度を見透かしているわけだ。そして、その責任の一端はわれわれの側にもある。

 一方、足元の課題として国際会計基準委員会の組織変更に伴い、日本も参加を求められている。ところが、日本の会計基準設定主体である企業会計審議会の地位が曖昧であるため、誰が参加したらいいのかわからない状態だ。

 世界第二位の経済大国が国際会計基準の設定に関して自己の主張を展開することさえできないのでは困る。ここにも日本が国家として、いかに会計基準を軽視していたかが現われているといえよう。

 日本企業の財務諸表への信認が失墜するとジャパンプレミアムなどが発生し、それが製品価格に跳ね返って最終的なコストは国民全体にかかることを忘れてはならない。そこで、以上の問題を解決するためには政治がマンデートを与える必要があると考えた。


基準設定主体は変化に対応する力量を

―具体的な対策は
 第一は、会計基準設定主体の強化・拡充である。めまぐるしく変化するグローバル経済のなかでは新しい取引の会計処理方法を創設する力をもつ会計基準設定主体が必要とされる。

 アフターケアや最先端取引のフォローを的確に遂行するためには、常勤の責任者とスタッフをもった常設の機関が必要である。しかも、その責任者やスタッフは企業実務に精通した民間人中心に構成されなければならないと思う。

 現在の大蔵省のスタッフは大変優秀な方々だと思うが、公認会計士の資格をもっているわけではないし、企業会計実務の経験もない。ここ数年の大蔵省、企業会計審議会の仕事は高く評価されなければならないが、専門部会は意見書をつくった段階で解散してしまう。これでは企業取引の変化をフォローすることはむずかしい。

 さらに、会計基準設定主体は行政や利害関係人からある程度独立性を保った機関であるべきだ。これまでのように税務行政や金融監督行政に影響されて財務諸表が歪められることは避けなければならない。一方で、企業や公認会計士の都合に影響されて甘い会計基準をつくるようでもいけない。具体的な独立性のあり方は今後の検討課題だ。

 第二は、企業に資本市場のルールを守らせるための執行機関の強化・拡充である。現在有価証券報告書の受付けは大蔵省の各財務局で行っているが(明年7月から金融庁に移行)、そこでは人手不足もあって形式審査になりがちだ。本来、この段階でまずスクリーニングを行い、有価証券報告書の記載内容をチェックできる体制を整えるべきだと思う。

 また、証券取引等監視委員会は資本市場における取引ルールの遵守状況を監視しているわけだが、現在は主務大臣に対して処分を勧告・建議する権限しかもたない。それで十分なのか、また、同委員会が有価証券報告書の届出審査も担当すべきなのかといった点を検証したい。

 第三は、公認会計士・監査法人の役割、責任の明確化と機能の充実である。公認会計士法は1948年に制定された法律で、現代社会にそぐわない内容になっている。

 同法は公認会計士の使命・目的すら規定していない法律であり、これでは公認会計士が誰のためにどういう監査をすべきかが明確ではないし、公認会計士がプライドをもって、よい仕事をするには不十分だろう。


会計監査は資本市場を支える

―行政機関と会計基準設定主体との関係をどうとらえればよいのか
 たとえば、アメリカのFASB(財務会計基準審議会)は民間機関だが、証券取引委員会(SEC)から権限を委譲されて会計基準設定主体となっている。しかしFASBのクレディビリティは高く、SECはFASBの活動に口を挟まない。FASBのクレディビリティを支える要因は委員やスタッフに有能な人材をそろえていることと、理事会の公開によって監視の目が行き届いていることだ。

 日本の会計基準設定主体は企業会計審議会だが、これは法律上大蔵大臣の諮問機関と位置付けられており、2000年7月の金融庁発足時に金融庁へ移管される予定だ。しかし、これは議論されていなかった点ではあるが、私自身は会計基準設定主体を金融庁の下におくことについては疑問をもっている。

 企業会計基準は直接的には証券取引法の問題だが、決算等の作成は「公正な会計慣行」に基づくべきだと定めた商法にもかかわる問題だ。商法は企業の業種や規模を問わず適用されるので、金融監督機関が責任をもつことが適当かについても議論がありうる。

―企業会計基準の細目は公認会計士協会の実務指針として定められているが、それも変革すべきか
 私自身は本来、企業会計基準設定主体が細目まで決める力量をもつべきだと思っている。ただ、組織論についてはさまざまな考え方がありうるから、いま断定的なことをいうことはできない。いずれにしても、実務に近い人がより能動的にルールづくりに参加できる体制をつくることが重要だと思う。

―有価証券報告書の届出審査を証券取引等監視委員会が行うことが検討課題になるのはなぜか
 有価証券報告書の受付けは証券取引法に基づく事務だから、金融庁自身が担ってもおかしくはないのだろう。しかし、金融・証券業者の監督と、資本市場のインフラである証券発行体のディスクロージャーの適正確保を同一の行政機関が担うことが適切かどうかは議論がありうる。むしろ、ディスクロージャーの適正確保は資本市場における取引監視と併せて同一機関が執行するほうがなじむのではないかとも思われる。

 いずれにしても、少なくとも証券取引等監視委員会のマンパワーの充実が重要だろう。現在の証券取引等監視委員会は証券会社による損失補填事件を契機に設立されたものなので、日本版ビッグバンの思想のなかで資本市場ルールの執行機関がどうあるべきかをあらため考えてみる必要がある。

―具体的に公認会計士法をどのように変えるべきか
 公認会計士の使命と責任を明確化し、その機能を充実させることが必要だ。公認会計士の会計監査は日本の資本市場と経済のクレディビリティを支える重要な役割を果たさなければならない。

 また、監査法人の代表社員が無限連帯責任を負う現行の制度についても検討する必要がある。公認会計士協会の自治をどこまで認めるかも重要な論点だろう。

―いつまでに結論を出すのか
 当初臨時国会までにと考えられていたが、問題が大きいので、方向を打ち出すにはもう少し時間がかかるだろう。法改正は政府提案が原則だろうが、それに明確なマンデートを与えるのがわれわれの仕事である。役所とは日本の将来のために、肩肘はらずに議論していくつもりだ。