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朝日新聞夕刊-2008年1月10日掲載記事

秋元康ナビゲート「夢中力」

 「さぁ、始めますか!」。エプロンのひもをキュッと締め、気合を入れる。テレビでのぞかせる冷静な代議士の顔とは、まるで別人だ。
 この日のメニューは牛タンのシチュー。どこで覚えたのか尋ねると「恭久オリジナルレシピだよ」とちょっと得意そうに答え、愛用の包丁でニンジンをザクザク切り始めた。
 塩こしょうした牛タンを表面にこんがり焦げ目がつくまでソテーし、ブランデーで香りづけ。それをタマネギ、ピーマン、ジャガイモ、セロリなどのたっぷりの野菜とともに、ブイヨンとまるまる1本の赤ワインでじっくり煮込んでいく。「安いワインでいいから、ケチらずたっぷり入れるのがおいしさの秘訣(ひけつ)」と解説を加えながら、ワインを少しグラスに注いで「ちょっと味見ね」。こんな一杯もキッチンに立つ楽しみのひとつのようだ。
 腕を上げたのは高校時代。父親の選挙で両親が不在がちになり、必要に迫られた。今では鶏ガラからスープを取って鍋を仕込んだり、ブルーチーズとハーブで自家製ドレッシングを作ったり。レパートリーの幅広さと、そのマメさに驚かされる。
分刻みの東京生活と違って、地元の松山市に戻ると、時間を見つけては朝市で魚や野菜を買い込んで家族のために腕を振るう。とはいえ「僕は、大きな鍋でどーんと煮込んだり、肉や魚を豪快に焼いたりする、派手な作業担当。味付けの仕上げや後片付けは家内にお任せなんです」と苦笑い。内閣官房長官として安倍前総理の「女房役」だった塩崎さんも、愛妻には頭が上がらない様子だ。
 さて、シチューもいよいよ完成間近。仕上げにレモン半分を思い切りぎゅっとしぼった。大胆な隠し味に驚いたが、全体の味が締まって、コクがあるのにさっぱりとした味わいに。「おいしい!」と試食したスタッフから上がる声に、してやったりの笑みを浮かべた。


★笑顔の中には本音が見える(秋元康)★
 塩崎恭久という政治家はインテリである。論理的に分析し、冷静に判断を下すイメージがある。小泉内閣で大衆の耳目を集めた劇場型の政治と比較されて、安倍内閣は地味に映った。官房長官だった彼も、メディアの前で過剰なパフォーマンスをすることなく、銀行マンのように淡々としていた。
 僕は、政治に関して、全くの門外漢なのだが、大衆を相手に仕事をしている立場から、「もう少しサービスしてもいいのに……」と思っていた。リップサービスというより「政治に興味を持ってもらう」という意味でのサービスだ。
 食事をしている時に、そのことを彼に話すと、彼は、その意見に充分(じゅうぶん)、理解を示しながらも、「政治家にとって、例え話と冗談は、誤解を招く要因なんだよね」と言った。なるほどと思った。政治を面白くする必要はないのだ。やるべきことを粛々とやり続けることが使命なのだから。
 趣味は、将棋とか碁のような沈思黙考するものかと思っていたが、食べることが好きな人だから、自分の好みのものを作ることに喜びを見いだしたのだろう。食材を選び、料理する作業に、特別なパフォーマンスはいらない。レシピ通りに粛々と作業を進めれば、おいしい料理ができる。
 その料理法を人がどう思おうといい。大切なのは、完成した料理の味である。まさに、彼の政治家としての生き方と同じだ。料理をする彼の笑顔がいい。どんな政治家も、笑顔だけは本音が見える。

朝日マリオン・コム:http://www.asahi-mullion.com/column/akimoto/80110index.html