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日本経済新聞-1999年9月14日

急がれる日本の会計制度の信頼回復

 日本版ビッグ・バンの一環として、近年、日本の会計基準は大きな変革を遂げた。企業会計審議会は、連結会計中心の会計制度への転換を決め、連結対象も実質基準を採用して飛躍的に拡大した。退職金に関する会計基準や税効果会計基準も導入され、金融商品に関する時価会計も来年4月以降に開始する会計年度からの導入が決まった。これに対応する商法改正はこの8月に国会で成立し、商法上も時価会計が認められることになった。
 このように日本の会計制度は革命的な変化を遂げているが、にもかかわらず日本の会計制度への世界の信頼は地に落ちたままである。ビッグ・ファイブの強行姿勢に折れて、日本の監査法人は日本企業の英文監査報告書に「日本企業の財務諸表が日本以外の国で一般に通用する基準に従ったものとは異なる」旨の警告文(レジェンド)を今年から監査報告書か決算書に注記することになった。しかし、このようなレジェンドは、韓国やインドネシアなど経済危機に見舞われたアジアの数カ国語だけが受け入れているに過ぎないといわれる。
 国外で起こっている日本の会計制度への信頼失墜を回復しなければ、日本企業の国際競争力の回復はおぼつかない。このような危機感が深刻化するなかで自民党の金融問題調査会は「企業会計に関する小委員会」(委員長・塩崎恭久参議院議員)を設置した。日本の会計制度の信頼回復のために何をすべきか。塩崎議員に東京大学教授の神田秀樹氏がインタビューした。

会計・監査制度見直す
独立性高い基準に 会計士の役割を明確化

神田
 新しい小委員会の狙いは何ですか。
塩崎
 失墜したままの日本の会計・監査制度の信頼を取り戻すことです。そのために会計・監査制度のあり方を幅広く議論しようと考えています。私は以前から会計基準や監査制度の重要性を主張してきました。
 政治の分野で会計基準や監査制度について本格的に議論するのは初めてだと思います。
神田
 日本の会計・監査制度が国際的な信頼を失っている一番の原因はどこにあるのでしょうか。
塩崎
 だれもがこれまで会計基準や監査制度について責任をもって真剣に考えてこのかったのではないでしょうか。
 会計基準を設定してきた企業会計審議会には常勤の委員はいないし、昭和23年に制定された公認会計士法には、目的規定もなく、日本の公認会計士はだれのために働くかがはっきりしていません。
神田
小委員会では、どのような点が議論の焦点になるのでしょうか。
塩崎
 三つの柱を立てています。第一は、会計基準を作る主体の拡充・強化。第二は、会計基準の執行体制の強化。現在、会計基準は大蔵省の企業会計審議会が制定し、その執行は大蔵省と証券取引等監視委員会が担当しており、来年からは金融庁がこれを引き継ぐことになりますが、果たしてこれでいいのでしょうか。国の中でだれが責任をもって会計基準を考えるべきかについて検討したいと考えています。日本の会計基準は商法との関係もあり、独立性の高い機関が担当しないと国際的な信頼回復はできないのではないか。少なくとも会計基準の設定は独立性の高い民間の専門家を中心とした常設機関とすべきではないでしょうか。
 第三は、公認会計士の役割と責任の明確化です。これはコーポレート・ガバナンスとも表裏にある重要問題です。
 最近、金融機関の破綻(はたん)などを契機としてようやく監査の重要性が認識されるようになってきました。公認会計士はだれのために働くかを明確にすることが必要です。

企業経営への影響は
経営者の意識改革 護送船団方式抜け出せ

神田
 日本の会計・監査制度の信頼回復のためには、抜本改革が必要だということですが、そのような改革は、日本の企業経営にどのような変化を求めることになるのでしょうか。
塩崎
 大企業のマネジメント(経営者)の意識改革が求めれます。従来は、飛ばしのようなことも会計上許されるというので外国のインベストメントバンクの商売の種になってきたわけです。
 そのようなことを容認していた会計基準や監査体制も問題ですが、そのようなことをして財務諸表対策をしてきたマネジメントの意識改革が必要だと思います。日本の会計・監査制度が信頼を回復すれば、日本企業の国際競争力も飛躍的に高まるはずです。
神田
 要は、株主利益重視の経営という、世界ではあたりまえのことと言ってよいでしょうか。
塩崎
 はい。コーポレート・ガバナンスの観点からも、日本の会計・監査への信頼を回復することが急務だと思います。
神田
 どうも日本は問題ばかりのようですが、日本発で世界に貢献できることは何もないのでしょうか。
塩崎
 公認会計士も個々には能力のある人がたくさんいるし、金融技術などの面では世界で活躍している日本人も少なくありません。
 能力の面ではいくらも世界に貢献できることがあると思います。要は、大企業のマネジメントの意識や姿勢が戦後の高度成長期の体質のままで新しい時代に転換していないことが問題なんです。
 会計基準の設定や監査体制にしても戦後の護送船団方式の時代のままでは、どうにもなりません。会計・監査制度の改革が是非とも必要な理由はここにあります。

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