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現代ビジネス-2013年4月12日掲載記事

公的年金に「Invest in Japan」の哲学を! アベノミクスの目指す成長戦略に不可欠なGPIFによる明日への投資(現代ビジネス)

 日本経済を再生へと導くために矢つぎ早に手を打っている安倍政権のアベノミクス。市場の期待は大きく円安株高の流れが続いているが、この基調を持続し、再び日本経済を成長軌道に乗せるには、アベノミクスの3番目の矢である「成長戦略」の成功こそ鍵になる。

 将来に向けた成長戦略という視点に立てば、ベンチャー企業など、日本経済の新しいエネルギーをどう生み出し育成していくか、また再生可能な企業を強い企業として再生できるかが、今後100年の日本の運命を左右すると言っても過言ではないだろう。

「リスクマネー」の供給

 ベンチャー企業は、イノベーションと雇用を創出する存在として、日本経済の将来に欠かせない重要な役割を担っている。革新的な技術や独創的なビジネスモデルを生み出し、新産業の創出や産業活性化、雇用の拡大に大きく寄与する。

 ところが他の国々に比べて、わが国のベンチャー育成の現状はいまだ途上段階である。米国は言うに及ばず、ベンチャー企業が国の経済成長やイノベーションに大きな役割を果たしている国は多い。わが国の現状は、韓国にも後れを取っている。

 ベンチャー育成のカギのひとつは、リスクの高い事業に挑戦する企業に、いかに十分なマネーを供給するかだ。わが国のベンチャー・キャピタル(VC)の資金規模はおよそ1兆円と言われているが、欧米における規模は軒並み数十兆円規模に達している。ベンチャー市場に成長マネーを呼び込むべく経済産業省もここ20〜30年間音頭をとってきたが、未だ芳しい成果は上がっていない。

 アベノミクスの目指す成長戦略を成功させようと考えれば、VCや、企業再生ファンドなどプライベート・エクイティ(PE、非公開企業投資)の育成を政策の柱にしなければならないだろう。国内の民間・独立系PEの爆発的発展が必要だ。

 その原動力となる1つの大きな政策が、公的年金資金等の運用規制の見直しである。つまり、公的年金積立金や他の年金資金、大学等、準公的資金による「リスクマネー」の供給だ。

 現状では年金資産等は国債を中心とする内国債に圧倒的に片寄った投資が行なわれており、後は国内外の株式へのインデックス投資に回る程度で、代替的投資であるVCや再生ファンド等PEを通じた成長にはまったく寄与していない。結果、年金資金等のチャンネルを通じた日本経済全体の産業育成・再生を促進する投資は進まず、経済の循環が成立していない。

 米国においては、インフラファンドやVC、および再生ファンドなどのPEへの投資流入額の50%前後が年金基金からのものとなっており、年金資産は産業育成・再編・再生をバックアップする重要な存在となっている。

受益者の為の価値の最大化

 つまり、米国など先進国では、年金積立金の資産がマクロ経済の発展に大きく貢献しているため、年金資産の運用は極めて重要なテーマになっている。ところが日本ではまだまだその認識が不十分だ。日本の年金運用は「安全運用」の名の下に、圧倒的に国債に資金が偏重してきた。国債に投資することが最もリスクが低いと信じられてきたわけだ。

 もちろん、デフレ経済が続き、金利が低下する社会では、結果として国債を持ち続けるリスクは小さかったのも事実だ。だが、アベノミクスによってデフレからの脱却が進み、緩やかなインフレになっていくとすれば、国債を持ち続けるだけでは国民の資産を守ることができなくなる。

 わが国において年金資産の運用に関する議論の中で不足しているのは、年金資産の保有者である国民、すなわち「受益者の為の価値の最大化」を目指すという基本的な哲学だ。

 中でも、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、110兆円以上の「国民の財産」を預かっている世界最大級の「機関投資家」だ。その膨大な年金資金運用の成否は受益者である国民の資産を増減させるばかりでなく、日本の将来の経済・社会、そして個々人の生活を大きく左右する、国家の重要なステークホールダーとして、継続的・客観的に国の発展に貢献するのだという自覚が必要だろう。

 アメリカで企業年金制度が創設された際、当時GMの社長で後に国防長官となったチャールズ・E・ウィルソンは、以下のように語ったという。

「大規模な年金は、アメリカ経済そのもの、すなわちアメリカの生産と成長の能力に投資しなければならない」

「年金は生産手段に対する貸付ではなく、生産手段に対する所有権に基礎を置かなければならない。その所有権は、特定の企業の所有権ではなくアメリカという国全体の生産能力の所有権でなければならない」

 この考え方は"Invest in America"という哲学として、今なお米国の運用指針として根付いている、という。

オルタナティブ投資は本当にリスキーか?

 GPIFのウェブページを見ると、「分散投資の意義」という項目で、「債券や株式のように、特性の異なる複数の資産に分散して投資を行うことにより、長期的にリスク(収益率の変動幅)水準を抑制できることが、これまでの国内外の経験則や投資理論で明らかにされています」と記載されている。投資の基本姿勢として分散投資が重要だという認識は持っていることが伺える。

 しかし、その後続く文言は、「分散投資を行うこととしており、これにより、国内債券で全額運用する場合と同程度のリスク水準で、期待収益率を引き上げたものとなっています」となっている。要するに、全額国債で持っているのが一番リスクが低いが、分散投資でもそれほどリスクは上がっていない、と言っているように受け取れるのだ。

 GPIFが運用する資産は110兆円を超えるが、そのおよその内訳は国内債券70%弱、国内株式10%強、外国債券と外国株式が各々10%弱、短期資産約5%程度だ。国内債券というが、要は国債の割合が圧倒的に高いのである。

 日本の銀行が大量の国債を保有していることこそが、国債相場暴落時等のリスクを圧倒的に高め、日本の金融システムの不安定性の原因になっていることは、誰しもが知っている。だとすれば、GPIFが7割近くも国内債券で運用し、そのうちの大半を国債で持っていることのリスクが如何に大きいか、容易に理解できよう。

 ポートフォリオの7割を国内債に割いている公的年金基金は日本以外にない。GPIFのウェブページにある「国内債券で全額運用する場合と同程度のリスク水準」という表現には、言わば信仰に近い「国債安全神話」が伺える。

 本当にそうだろうか。世界にも類を見ないほど国債を抱え込んでいることが、本当にリスクを最低にしているのだろうか。私には、この神話は資産運用の基本を外す、運用責任者すなわち年金制度責任者の単なる責任逃れとしか映らない。「国債を買ってさえおけば、少なくとも批判はされない」という無責任さすら感じる。

 民主党の長妻昭・元厚生労働大臣は、中期計画・中期目標を定める際、GPIFの投資先の分散化について、「国民の貴重な財産をリスクに晒せない」という趣旨の発言をしたとのことだが、それは逆だろう。役人の国債安全神話に乗って、政治家でありながら責任から逃避し、むしろ国民資産を金利変動リスクなどに晒す結果になっているのではないか。

「国家を育てる」年金運用にするには

 今大事なことは、市場に回るべき貴重なマネーを国債漬けにすることではなく、例えば冒頭にあげたような日本の企業再生ビジネスや、民間VCによる起業促進へと資金を回すことだ。

 そのためには、今のGPIFとその監督者である厚労省の考え方を抜本的に見直し、主務官庁による硬直的な管理を排除するとともに、GPIFのあり方やその運用体制、そして何よりも厚労省を含めた運用方針全体などを、より真に受益者のためになり、かつ日本経済全体の発展に資するという方向に、大きく変えなければならない。

 国民の財産である年金積立金については、その運用について法律上の規定がある。

【厚生年金保険法 第七十九条の二】
年金特別会計の厚生年金勘定の積立金(以下この章において「積立金」という。)の運用は、積立金が厚生年金保険の被保険者から徴収された保険料の一部であり、かつ、将来の保険給付の貴重な財源となるものであることに特に留意し、専ら厚生年金保険の被保険者の利益のために、長期的な観点から、安全かつ効率的に行うことにより、将来にわたつて、厚生年金保険事業の運営の安定に資することを目的として行うものとする。

 法律上、年金積立金は「将来の保険給付の貴重な財源」であり、「長期的な観点から、安全かつ効率的に行う」ことで、「厚生年金保険事業の運営の安定」を確保することを目的とすることが明記されている。

 しかし、もっと重要なことは、同じ条文の中で、「専ら厚生年金保険の被保険者の利益のため」と書かれていることだろう。「被保険者の利益」を本当に考えるのであれば、現在の運用のあり方のままで良いか、考え直さなければならない。

 その守りの構えの根源を変えるには、やはり年金受給者に対する最終的な責任は政治がとる、との明確な姿勢が政治的に明らかになることが必要だ。そして分散投資に関し、具体的に投資の理論的哲学に則った新たなポートフォリオの数値目標を、政治がバックアップする形で新たに構築し、それを義務付けることが必要だろう。

 実はこれらのためには法改正は必要ない。GPIFの運用指針を定めているのは、厚労大臣が定める「年金積立金管理運用独立行政法人中期目標」と厚労大臣が認可する「年金積立金管理運用独立行政法人中期計画」の2つだ。要は厚生労働大臣の指導力と認可によって、公的年金の投資はPEなどを通じて経済成長に直接つながる新しい分野に対して貢献可能となるのだ。

 具体的には、中期計画に定められた基本ポートフォリオの資産内訳に「再生ファンドやVC、インフラファンド等PE」の欄を設け、そこに適正な割合を規定すれば、GPIFはそれに従った運用をできることとなるのだ。例え合計で総資産の1%であっても、GPIFの資産総額は110兆円なので1兆円になる。VC市場だけでも単純計算で2倍に膨れ上がるわけだ。

 これまで資金がなくて、アイデアだけで市場に挑戦できなかった、もしくは市場から退場させられた無数のベンチャー企業などに資金が回ることで、日本のFacebook、日本のグーグルを生むことも可能になるのだ。

 もちろん、ここ数年のベンチャー投資のパフォーマンスは決して好調ではなく、むしろ短期的にはマイナスであろう。しかし、第1次安倍内閣の後半の日経平均株価は18,000円を超える水準であったこと、そして民主党野田内閣後半には9,000円近くにまで下落していたことを考えれば、日本株への投資もここ数年ではマイナスのパフォーマンスが続いていたはずだ。

「目利き力」を考慮し、ベンチャー企業を育て上げる、との観点からは、そもそも年金資金をベンチャーへ投資するに際しては、10年から15年のタイムスパンでのVCへの長期投資として考えるのが世界的な常識であって、2〜3年でのパフォーマンスで判断する拙速な投資評価は意味が薄い。

 GPIF のみならず、企業年金等国内のあらゆる年金運用者、更には大学の基金など準公的資金運用者には、"Invest in Japan"、すなわち自分達は自国産業の成長に大きな責務を負っており、育成の義務を果たさなければならないのだという、なかば公的な使命感を、しっかり持ってもらうことが必要だろう。

GPIFに資産運用のプロを

 さらに言えば、GPIFの運用や管理体制の見直しも不可欠だろう。100兆円を超す莫大な資産を、厚労省から出向した役人も交じった、ごく少数の人が行なっている現状を、すぐにでも改めなければならない。投資業務のプロの採用・育成を促進し、十分な専門性を確保しなければならない。

 日本では資産運用のプロが育っていないという指摘もある。資産の運用というと、銀行や生保等系列会社に偏っていて、それらはいずれもサラリーマン化してしまっており、欧米のような専門職的なプロが育っていないというのだ。もしいたとしても、そうしたプロは高い報酬制度が整った外資系に行ってしまう。そうしたプロと、役人のローテーション人事によるGPIFのマネージャーでは、運用成績を比較しても、その差は歴然だろう。

 そもそもわずか70余名で100兆円を超える資産を運用している実態は、諸外国と比較しても異例だ。例えばカナダの所得比例年金(CPP)では、14.6兆円の資金規模に対して職員数は811名、スウェーデン所得比例年金(AP基金)では、12.2兆円の資産規模に対して、職員数は243名だ。年金受給者のために運用の確実性かつリターンを確実に上げるために、投資のさらなるプロフェッショナル化が必要だ。

 そのためには、業績連動型報酬など成果報酬制度を導入して、受給者利益の最大化を追求するインセンティブを整備し、年金運用のプロフェッショナル育成に着手、人材の充実・専門性の高度化を図ることが大前提だ。

 また、プロの運用者を集めると同時に、プロに委託をするために、ファンドマネージャーへしっかりと報酬が払えるような仕組みにしなければならないだろう。そういう経費を出しつつ、トータルコストで見て、国民への還元が大きく増えれば、それが国民にとっての最大の利益だ。そのためには、短期で評価せず、長期的に運用を評価する環境も重要となるだろう。

Invest in Japan

 公的年金運用等の改革は、長期的な視点で年金受給者等、国民の利益を増大させることが目的であり、それが日本の成長にも資する。年金資金運用の時間軸は長期であることを活かす必要があるだろう。世界最大級の資産を有する年金基金が、その規模の優位性を活かして、世界で最も優れた運用体制を構築できれば、世界最高水準の運用水準をあげられる可能性がある。

 そのためには、年金基金のガバナンス体制、すなわち独立性・専門性の確保及び説明責任体制の確立の構築も必須だろう。その実現のためには、現在の「独立行政法人」や「理事会不在、理事長独任性」などを前提としていては無理で、組織形態の改革も不可欠だろう。

 世界最大の年金基金にふさわしい組織、ガバナンス体制を構築し、効率・多様性を重視した真の分散運用により、安全性や投資収益率を向上させ、国民の利益を更に増大、日本の成長にも資するものとしなければならない。言わば「Investin Japan」の精神が必要だろう。

 いずれにせよ、日本経済再生に向けて超えるべき壁はまだまだ多い。安倍総理が年頭の所信表明演説でも語った「次元の違う大胆な政策パッケージ」を、次々と編み出していくことこそ我々自民党議員の責務だ。聖域のない抜本改革に引き続き取り組んで参りたい。


http://gendai.ismedia.jp/articles/-/35455