週刊東洋経済「視点」-1999/04/10 号
為替相場は誰のもの?

日本のGDPの需要項目の中で、為替相場から直接影響を受ける輸出入のウエイトの合計は約2割。経済のグローバル化の下、輸出入の増減にとどまらず他の需要項目や企業収益等へ影響するため、為替相場の動きの重みは明らかに増しつつある。
各需要項目に影響を与える経済政策はたくさんあるが、最近いずれもその立案プロセスは透明性を高めつつあるし、国民の意向がより強く反映される方向だ。例えば、財政支出は予算編成過程での政治の役割が増しつつあり、国会で成立しなければならない。また、設備、住宅投資等を左右する金利政策に関しては、孤立性を増した日本銀行の政策委員会で決められ、その議事要旨も速やかに公表されるようになった。随所で透明性とチェック機能が高まりつつあるといえる。
それに比べ為替政策の決定プロセスは極めて不透明であり、国民の声が反映される正式ルートは無いに等しい。今日でも為替介入はまさに「秘め事」で、実績が正式に公表されることも無い。経済のグローバル化やビッグバンが進む中で、為替相場の動きが国民経済の浮沈を決定し得ることを考えれば、他のプロセスと同様、透明性とチェック機能の向上は不可欠ではないか。
米国での為替介入はかねてより、財務省とFRB(米中銀)が合意の上実行し、介入額を両者で折半するのが通常だが、両者の方針が一致しない場合はそれぞれ独自の判断で行動し、いずれにおいてもその事実や理由を事後的に速やかに公表している。また、かつて大蔵省だけに介入権限があった英国でも、ブレア政権になってから金融政策目的でのBOE(英中銀)独自の介入を認めた。金融政策への無理なシワ寄せを回避する知恵ではないか。
バブルの失敗などから、「どんな優秀な人間や組織でも無誤謬ではあり得ない」との前提で、透明かつチェック機能のきく新しい国家統治(ガバナンス)のかたちを模索しつつある今日、国民に対しきちんと説明できる為替政策を持つことは大変重要だと思う。もちろんこの問題を大蔵省叩きの材料や大蔵・日銀の権限争いに矮小化すべきではない。ことの本質は、国民の総意を体して、関係者が相協力しながら国民にも国際的にも分かり易く、経済発展に役立つ為替政策を立案できる仕組みを持つことだと思う。このことは、政・官・財の古きトライアングルの崩壊後、政治家と官僚と民間人、そして政府内など各所で「新たなスクラム」を組むことが求められている今、とりわけ大切だと思う。
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