講談社「現代ビジネス」インタビュー VOL.1-2011年4月22日
福島原発の米軍情報を活かせなかった官邸の機能不全
◆現代ビジネスのインタビューページはこちらから → http://bit.ly/dS5PBA
--- 今回の東日本大震災で首相官邸の機能不全が指摘されています。安倍晋三内閣の官房長官だったご経験から、菅直人首相や枝野幸男官房長官の動きをどうご覧になっていますか。
塩崎: 震災以降、テレビを通じて流れる枝野さんの説明に、国民は良い印象を持っているでしょう。私も枝野さんは良く頑張っていると思います。
しかし、内閣官房長官は首相と共に、国家の司令塔としての役割を果たさなければなりません。本来は菅さんがもっと前面に出るべきだと思います。
記者会見も不十分だしメディア対応もきちんとしていない。菅さんがやらない分、枝野さんがすべてやらざるを得なくなっているのでしょう。
原子力発電所が水蒸気爆発した時も、一般から見ればかなり高レベルの汚染水を海に放出した時も、国家としての一大危機だったわけです。それを完全に掌握しているように感じさせることができませんでした。それが内閣として機能不全と国民から指弾される最大の要因でしょう。
日本の原発事故の直後に、米国のオバマ大統領は演説して「米国の原発は安全で、今後も原発を建設する方針に変わりはない」と明言しました。国家としての意思を明確に示したわけです。
一国のリーダーとしては、国民の心の中にアンカー(錨)を打ち込むことで、それが国民に安心感を与えるわけです。ところが菅さんはまったくそれができていません。
■全体を把握している、という安心感を示せ
--- 官房長官の役割としてはどうですか
塩崎: 菅さんがやらない分、枝野さんが全体を把握しているという姿を本来見せなければならないのですが、「枝野は原発問題」という感じになってしまっています。
被災者対策は誰が司令塔なのか、松本龍防災担当大臣なのかも、はっきり見えません。事態をトータルに把握している内閣の頭脳がどこにあるのかが分からないから、国民はみな不安になるのです。
私も被災地に入って話を聞きましたが、「政府は誰も全体を把握していないのではないか」と多くの被災者の方から質されました。
--- 首相の女房役であり官邸の中枢を差配するのが官房長官の役割だと思うのですが、情報はきちんと集まっているのでしょうか。
米軍は震災直後から無人偵察機「グローバルホーク」を飛ばし、福島第1原発上空からの写真などを撮影していました。その情報は米軍から日本政府に提供されていたが、官邸から原子力・安全保安院に中々その情報が提供されず、事態の把握が遅れたと指摘されています。
塩崎: 「もちろん首相や官房長官のところにはあらゆる情報が集まってきます。官房長官が知ることができない情報など基本的にはありません。日米間では提供された軍事情報の取り扱いを細かく決めています。違反して情報漏洩すれば懲役10年に処されるといった罰則もある。
今回指摘されているのは、軍事情報を見ることができるリストに保安院や東京電力が入っていなかったため、情報提供ができず、事態把握ができなかったという話です。私も霞が関の幹部から直接そう聞きました。法律上出せなかったのだ、という弁明です。
ですが、これはおかしな話でしょう。首相はもちろん官房長官のところにも、その情報は間違いなく来ていた。首相なり官房長官が、緊急事態なので情報を提供すると決断すればそれで済んだはずです。
■原発問題は官房副長官に専念させるべきだった
--- もともと官房長官が司令塔になる様に設計されているとすると、今の菅内閣の運用方法に問題がある、ということでしょうか。
塩崎: 全体を把握しなければいけない官房長官として、枝野さんは細かいところに入り込み過ぎですね。
本来、原発問題は官房副長官のひとりを担当にして専念させるべきでした。
首相補佐官にたくさんの政治家を登用していますが、私はそれが間違いだと思います。補佐官には法律上の権限がなく、官僚を直接使うことができません。政治家の補佐官の言うことを役人は聞かないし、補佐官も選挙があればさっさと地元に帰ってしまいます。
官房副長官を増員すべきだというのが、私の長年の持論です。副長官に就いた政治家が個別の問題を担当し、補佐官は政治家ではなく専門家を置く方がいい。
菅内閣には内閣参与もたくさんいますが、多くが霞が関と共同歩調がとれない人たちです。それでは官僚組織をフル稼働させることなどできません。
--- 危機の時の指揮命令系統が混線しているようにも見えます。
塩崎: もちろん平時の時から指揮命令系統が整っていることは大事なのですが、危機の時にこそその真価が問われます。
現地で被災者の方に聞くと、ほんの三分の違いが生死を分けたという話がたくさんあります。危機を想定して組織のヒエラルキーをきちんとしておくことが重要なのだと痛感しました。
残念ながら、民主党政権は平時の時からバラバラで、閣僚も党の幹部も皆が好き勝手な事を言うから物事がなかなか決まらなかった。そんな悪い面が大震災という国家の危機に露呈してしまったということでしょう。
以降 vol.2 へ。(近日公開予定)
--- 今回の東日本大震災で首相官邸の機能不全が指摘されています。安倍晋三内閣の官房長官だったご経験から、菅直人首相や枝野幸男官房長官の動きをどうご覧になっていますか。
塩崎: 震災以降、テレビを通じて流れる枝野さんの説明に、国民は良い印象を持っているでしょう。私も枝野さんは良く頑張っていると思います。
しかし、内閣官房長官は首相と共に、国家の司令塔としての役割を果たさなければなりません。本来は菅さんがもっと前面に出るべきだと思います。
記者会見も不十分だしメディア対応もきちんとしていない。菅さんがやらない分、枝野さんがすべてやらざるを得なくなっているのでしょう。
原子力発電所が水蒸気爆発した時も、一般から見ればかなり高レベルの汚染水を海に放出した時も、国家としての一大危機だったわけです。それを完全に掌握しているように感じさせることができませんでした。それが内閣として機能不全と国民から指弾される最大の要因でしょう。
日本の原発事故の直後に、米国のオバマ大統領は演説して「米国の原発は安全で、今後も原発を建設する方針に変わりはない」と明言しました。国家としての意思を明確に示したわけです。
一国のリーダーとしては、国民の心の中にアンカー(錨)を打ち込むことで、それが国民に安心感を与えるわけです。ところが菅さんはまったくそれができていません。
■全体を把握している、という安心感を示せ
--- 官房長官の役割としてはどうですか
塩崎: 菅さんがやらない分、枝野さんが全体を把握しているという姿を本来見せなければならないのですが、「枝野は原発問題」という感じになってしまっています。
被災者対策は誰が司令塔なのか、松本龍防災担当大臣なのかも、はっきり見えません。事態をトータルに把握している内閣の頭脳がどこにあるのかが分からないから、国民はみな不安になるのです。
私も被災地に入って話を聞きましたが、「政府は誰も全体を把握していないのではないか」と多くの被災者の方から質されました。
--- 首相の女房役であり官邸の中枢を差配するのが官房長官の役割だと思うのですが、情報はきちんと集まっているのでしょうか。
米軍は震災直後から無人偵察機「グローバルホーク」を飛ばし、福島第1原発上空からの写真などを撮影していました。その情報は米軍から日本政府に提供されていたが、官邸から原子力・安全保安院に中々その情報が提供されず、事態の把握が遅れたと指摘されています。
塩崎: 「もちろん首相や官房長官のところにはあらゆる情報が集まってきます。官房長官が知ることができない情報など基本的にはありません。日米間では提供された軍事情報の取り扱いを細かく決めています。違反して情報漏洩すれば懲役10年に処されるといった罰則もある。
今回指摘されているのは、軍事情報を見ることができるリストに保安院や東京電力が入っていなかったため、情報提供ができず、事態把握ができなかったという話です。私も霞が関の幹部から直接そう聞きました。法律上出せなかったのだ、という弁明です。
ですが、これはおかしな話でしょう。首相はもちろん官房長官のところにも、その情報は間違いなく来ていた。首相なり官房長官が、緊急事態なので情報を提供すると決断すればそれで済んだはずです。
■原発問題は官房副長官に専念させるべきだった
--- もともと官房長官が司令塔になる様に設計されているとすると、今の菅内閣の運用方法に問題がある、ということでしょうか。
塩崎: 全体を把握しなければいけない官房長官として、枝野さんは細かいところに入り込み過ぎですね。
本来、原発問題は官房副長官のひとりを担当にして専念させるべきでした。
首相補佐官にたくさんの政治家を登用していますが、私はそれが間違いだと思います。補佐官には法律上の権限がなく、官僚を直接使うことができません。政治家の補佐官の言うことを役人は聞かないし、補佐官も選挙があればさっさと地元に帰ってしまいます。
官房副長官を増員すべきだというのが、私の長年の持論です。副長官に就いた政治家が個別の問題を担当し、補佐官は政治家ではなく専門家を置く方がいい。
菅内閣には内閣参与もたくさんいますが、多くが霞が関と共同歩調がとれない人たちです。それでは官僚組織をフル稼働させることなどできません。
--- 危機の時の指揮命令系統が混線しているようにも見えます。
塩崎: もちろん平時の時から指揮命令系統が整っていることは大事なのですが、危機の時にこそその真価が問われます。
現地で被災者の方に聞くと、ほんの三分の違いが生死を分けたという話がたくさんあります。危機を想定して組織のヒエラルキーをきちんとしておくことが重要なのだと痛感しました。
残念ながら、民主党政権は平時の時からバラバラで、閣僚も党の幹部も皆が好き勝手な事を言うから物事がなかなか決まらなかった。そんな悪い面が大震災という国家の危機に露呈してしまったということでしょう。
以降 vol.2 へ。(近日公開予定)
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- JAPANECHO.net-2011年5月2日掲載記事
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元内閣官房長官 塩崎恭久&元法務副大臣 河野太郎 - 週刊文春-2011年4月28日号掲載記事