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政策提言

2005/10/21

わが国の企業統治、会計監査制度等のさらなる強化に向けて

平成17年10月21日
自由民主党 政務調査会
金融調査会 企業会計に関する小委員会
法務部会 商法に関する小委員会

 先のカネボウ事件やその他IT企業等における監査をめぐる問題の表面化を契機に、改めてわが国の企業統治のあり方と公認会計士、監査法人、会計監査などの役割並びに責任が問い直されており、各々の社会的な信頼も大きく揺らいでいる。とりわけ、かかる事件の原因が、特定の企業、監査法人や公認会計士個人にとどまらず、わが国の企業風土や資本市場、投資家保護を使命とする公認会計士・監査制度の不十分さにあるのではないか、との根本的な疑問が提起されていることを重く受け止めなければならない。

 今回明らかになった諸事件は、昨年4月の改正公認会計士法施行前に既に発生していたといえども、こうした事案が相次ぐ現状は、日本の公認会計士・監査制度の新たな使命等を一層強固なものにしていく努力が必要であると考えられる。さらに、先の通常国会で成立した新会社法では、コーポレート・ガバナンスや内部統制の強化等の新たな規定が盛り込まれたが、グローバルな資本市場における投資家の信認に応えるという観点から、不断の会社法制の見直しも不可欠であることを示唆している。

 本合同小委員会では、こうした未来志向の観点から、これまで6回にわたり精力的に議論を重ねてきた結果、以下の諸点に関し、概ねの合意がみられた。政府及び関係各機関においては、以下の点を踏まえ、早急かつ適切に対応することを要請するとともに、本合同小委員会としては、今後、必要となる法改正等について速やかに結論を出していくこととしたい。


1. 企業のコーポレート・ガバナンスの強化

 会計不正や虚偽記載の第一義的な責任は企業の経営者にある。わが国の公開企業の経営者が、財務上の不正を行うことは割に合わないと考え、社会の信認に応えるよう一層万全の措置を講ずることが得策となる会社制度・監査制度を総合的に整備することが肝要である。具体的な方策は、以下の点が挙げられる。

1. 内部統制の確立と宣誓の法定化
経営者が財務情報に係る有効な内部統制システムの構築を行うとともに、経営者による内部統制の有効性の評価を会計監査人がチェックする仕組みについて、早急に具体化を進めること。経営者が有価証券報告書の提出に際し、財務情報の適正性について宣誓を行う仕組みの法定化を検討し、併せて罰則とリンクさせることについても検討すること。
2. 監査役・監査委員会機能の強化等
 経営のチェック機能を担う監査役・監査委員会の権限及び体制の強化、特に経営者からの独立性確保を図るため法改正を含めた諸方策を検討すること。社外取締役・社外監査役について、まず、それらの属性等に関する法務省令に基づく開示制度を充実させるとともに、その開示制度の実施状況等を踏まえ、例えば「独立性」に関する要件を加重する旨の法制化や証券取引所におけるルール化についても早急に検討すること。
3. 罰則の強化等
 虚偽の財務情報の開示等に係る経営者等の刑事上の責任の強化(刑罰の引き上げ及び時効の延長)について検討し、早急に結論を得ること。その際、虚偽の開示に加担した公認会計士及び監査法人の刑事上の責任の強化についても検討対象に含めること。
 また、監査法人社員の有限責任化についても検討すること。
 期中の会計帳簿虚偽記載の罰則化の可否を検討すること。
 なお、こうした罰則強化の実施に当っては、過去の膿を一掃するとの観点から、一定期間内において法的責任を軽減化する方策をとることが可能か否か検討すべきとの意見が出された。

2. 会計監査人の独立性の強化

 会計監査人は、本来、財務諸表のユーザーである投資家の立場を守るという極めて公益性の高い責任を負う立場にあるにもかかわらず、経営者から直接委任されているという点で、根本的なインセンティブのねじれがあるとされる。また、同一の監査法人や担当会計士が長期間に亘り会計監査を担うことによって、経営内部への親密度・理解度が増すことで効率的な監査の実施が行われるとのメリットがある反面、会計不正など問題発見の端緒の機会が失われるという点が大きな問題との指摘が多くなされた。実際に、今回のカネボウ事件でも、独立した立場である産業再生機構が関与することによって初めて長年の不正が明るみになっている。こうした観点から、あるべき方向性としては、会計監査人の監査対象企業からの独立性を制度として強めていくことが不可欠であると考えられる。
 また「官から民へ」「小さな政府」との考え方の下で、やみくもに規制当局の監督権限や陣容の強化に頼ることなく、まずは民間ベースでの規律を最大限に働かせるとの視点からも、会計監査人の職業専門家として独立した立場での公的な役割と責任を高めていくことが重要である。さらに、監査法人の間でのダンピングを防ぎ適正な価格で監査を行い、かつ優秀な人材を監査にあてていくことも長い目で見て必要である。具体的な方策は、以下の点である。

1. 監査人のローテーションルールの徹底
(1) 改正公認会計士法の趣旨を踏まえ、4大監査法人においては、法施行時期にかかわらず、既に継続監査期間が7年以上となっている関与社員について速やかにローテーションの実施を図ること。
(2) 継続監査期間7年、インターバル2年とされているローテーションルールについて、4大監査法人の主任会計士においては、継続監査期間5年、インターバル5年への見直しを早急に検討すること。なお、その他中小監査法人等における公開企業の監査ローテーションルールに関しては、独立性確保を担保する代替案を含め有効な手立てを引き続き検討すること。
(3) 監査人のローテーションの運用に際し、インターバル期間にある前任者や上席者等からの後任者等への直接的・間接的な圧力が排除されるよう、可及的速やかに自主規制ルール(制裁付き)の整備を行うこと。
 なお、不正を発見した場合に、監査人から当局に対する通報義務を設けることを検討すること。
2. 監査人の選任、報酬の決定のあり方の見直し
 監査人の選任、報酬決定については、監査役会および監査委員会が、経営陣から独立して決定し得る制度を設けるべきであるとの意見が多く出された。先の通常国会で成立した会社法では、このような意見に沿う形で会計監査人の報酬につき監査役会や監査委員会に同意権が新たに付与されたところであるが、その実施状況等を踏まえるとともに、監査役会および監査委員会のさらなる権限強化について早急に検討すべきである。
 また、監査人の報酬については、日本公認会計士協会などで標準的な報酬体系のあり方を検討すること。
 監査報酬の支払い形式については、例えば、証券取引所が株主から一旦徴収し直接監査法人に支払うことが可能か、など幅広い観点から検討を進めること。
3. 監査法人の交代制の導入
 監査法人の交代制の導入については、その画一的な導入にかかるコストや、企業活動の国際化の下での円滑な運用実施体制にかかる問題点も指摘されている。その一方で、(1) 同一監査法人内の前任者に対する問題点の指摘が人間関係等を損なう可能性が大きいことなどに鑑み、不正の表面化のためには最も有効な手立てではないか、また、(2) 企業が自らの企業価値向上のため監査の品質向上に向けてこれを行うことはむしろ奨励されるべきであり、さらに、(3) 国際的な動向に先駆けてこれを導入することは、わが国資本市場の国際的なアピールにも繋がるのではないか、との意見も多く示されたところ。
 こうした意見も踏まえ、国際的な動向や会計監査人の独立性強化と監査の品質の向上に向けた他の諸方策の進捗状況を注視し、証券取引所などの自主規制による導入も含め、引き続き幅広く検討すること。

3. 監査の品質確保と当局における体制整備等

 監査の品質確保については、日本公認会計士協会の行った品質管理レビューを公認会計士・監査審査会がモニタリングする制度が開始されてまもない時期である中、さらなる実効性を高めていくことが重要であるが、特に、早急に公認会計士・監査審査会の執行力の強化(いわゆる「マル査」機能の拡充)を図るべきとの指摘が多くなされた。また、公認会計士・監査審査会、証券取引等監視委員会や金融庁、東京証券取引所など関係する機関の連携ならびに体制強化さらには共同検査を行うべき等との指摘が多くなされた。具体的な方策は以下の通りである。

1. 品質管理基準の早期策定を通じた監査法人のガバナンスの強化
 現在企業会計審議会で作業が進められている品質管理基準の策定を早急に行い、監査法人はこれに沿って、来年3月までに品質管理システムの整備を行うこと。また、監査法人内の一次レビューの品質管理をいかに担保するかの方策を検討すること。
 さらに、監査法人の経営において独立性が担保された非公認会計士の関与のあり方など、地方事務所を含めた監査法人自体のガバナンス向上策を検討すること。
2. 品質管理レビュー及びモニタリングの強化
 日本公認会計士協会及び公認会計士・監査審査会は、目的条項の再検討を含めた品質管理レビュー及びそのモニタリングの充実強化策を速やかに検討すること。その際、各企業の決算が適切に監査されていることを確認するため、内部管理体制、組織的な品質管理といった監査事務所のプロセスについて検証を行うとともに、必要に応じて個々の監査内容まで踏み込んだ検証を行うこと。特に4大監査法人に対しては、監査の信頼性を確保するため、早急な対応を行うこと。
 また、品質管理レビュー及びモニタリングに係る制度的な枠組みのあり方、特に公認会計士・監査審査会の執行力を実質的に担保する方策については、これらの取組みの実効性等を踏まえ、同制度の使命等が明確になるような法改正を含め引き続き検討すること。

4. 小額投資家の保護の方策

 「貯蓄から投資へ」の流れの中で、小額投資家が増加している状況において、万が一にも会計不正等を契機として企業の上場が廃止される場合に、適切な情報であることを確認できる術のないまま損害を受けることとなる小額投資家などについて、適切な保護が図られることが必要との指摘がなされた。具体的には、例えば、米国におけるインサイダー取引や虚偽記載に対する私的訴権と同様に、新たな投資家保護訴訟制度の導入など集団訴訟の活用等も含めた方策を検討すべきであるとの意見が出された。

以上