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政策提言

2004/09/03

「行政法制度等改革推進本部」設置を求める緊急提言

国民と行政の関係を考える若手の会
代表 林 芳正(参議院議員)
事務局長 世耕弘成(参議院議員)

本年6月、私達「国民と行政を考える若手の会」の意見が反映された、行政事件訴訟法の改正が実現しましたが、同法の改正作業にあたってきた政府の司法制度改革推進本部は本年11月にその設置期限を迎えます。しかし、今後とも民と官の信頼を深化させ、行政の本来あるべき姿を実現するため、行政事件訴訟法にとどまらず、より広い視野から行政法制全般とその運用のあり方を引き続き見直すことが必要、との判断に至り、今後の諸課題についての提言をまとめました。また、そのエンジンとなる組織として、「行政法制度等改革推進本部」を政府に設置することも提言しています。

骨子

自民党所属議員、民間有識者で構成する研究会「国民と行政の関係を考える若手の会」(代表・参議院議員林芳正)は、国民の期待により応える透明で公正なルールに基づいて運営される開かれた政府の実現を目指し、行政のあり方を規律する現行諸制度とその運用を改善する組織として「行政法制度等改革推進本部」を政府に設置することを提言する。

提言理由


一、はじめに
21世紀の日本社会の健全な発展を目指すには、国民一人一人の活動の自主性、創造性を尊重して、公正なルールに基づいて伸び伸びと活動できるような基盤を確立することが必要である。

政府には、このような民間の活動を透明なルールに基づく「市場監視者」として毅然と見守ることが期待されている。また、民間が真に作り出すことができないサービスを適正な手続きで国民に提供することも求められている。

我々「国民と行政の関係を考える若手の会」は、こうした役割を強く自覚した行政府と、自由と規律ある国民との補完的パートナーシップが今後の日本社会発展には必要不可欠であると考え、この基本的視座から、平成14年9月以来、16回に渡り研究会を開催、これまで精力的な政策提言活動を展開してきた。

政府職員が国民の期待に応えることにやりがいを日々感じられるよう環境を整備することは政治の役割であり、このためには民・官の間に適切な緊張関係を保持しつつも、相互の分業と補完に基づく緊密な連携を一層強めていくことが欠かせない。

本年6月、行政事件訴訟法が改正され、同法の改正準備作業を進めてきた政府の司法制度改革推進本部は本年11月にその設置期限を迎える。民と官の信頼を深化させるため、行政事件訴訟法にとどまらず、より広い視野から行政のあり方を引き続き見直すことが必要ではないだろうか。このエンジンとなる組織として、我々は「行政法制度等改革推進本部」(以下、「推進本部」という。)を設置することを政府に求めるものである。

二、行政事件訴訟法の改正と附帯決議
平成16年6月に行政事件訴訟法が改正され、機能不全に陥って久しい行政訴訟制度の改善が期待されているが、今次の改正は時間的な制約の中でなされた必要最低限度の改革であり、なお多数の重要課題が山積している。

衆議院法務委員会附帯決議5項は、「政府は、個別行政実体法、行政手続及び司法審査に関する改革など行政訴訟制度を実質的に機能させるために必要な改革について、所要の体制の下に、国民の視点に立った改革を継続するよう努めること。」とされている。

また、参議院法務委員会附帯決議6項は、「政府は、適正な行政活動を確保して国民の権利利益を救済する観点から、行政訴訟制度を実質的に機能させるために、個別行政実体法や行政手続、行政による裁判外の紛争解決・権利救済手続も視野に入れつつ、所要の体制の下で、必要な改革を継続すること。」としているところである。

国民と行政の新たな関係を築くための改革の継続が強く求められているのである。

三、早急に検討すべき改革諸課題
1.さらなる行政訴訟制度の改革

行政訴訟制度については、次のような多数の重要課題が残されており、早急な検討を開始しなければならない。

  • 団体訴訟・クラスアクションの導入
  • 取消訴訟の排他性(公定力)を認めるべき範囲の見直
  • 行政立法・行政計画に対する訴訟制度の創設
  • 本案審理の改善(行政裁量の審理手法、自己の利益に関わらない違法事由主張の制限の廃止ないし見直し)
  • 仮の救済における内閣総理大臣の異議制度の見直し
  • 行政訴訟における和解の制度化
  • 訴え提起手数料の合理化、弁護士費用の片面的敗訴者負担制度の導入
  • 行政訴訟への参陪審ないし裁判員制度の導入
  • 行政裁判所の設置についての検討
  • 国民訴訟の導入
  • 行政上の義務の強制執行における行政的強制執行の整備、または裁判所の活用
    (「執行の欠缺」の改善)
  • 裁判所における人事制度の改善(調査官制度の運用を含む)
  • 法科大学院・裁判所・弁護士会における人材の養成のあり方の検討
    なお、行政訴訟制度のさらなる改革については、その必要性について異論がないものの、現段階では、改革のための検討を行う組織は必ずしも定まっていない。


2.行政手続の改革
行政過程における「法の支配」を充実させるためには、行政過程で生じた紛争をなるべく行政過程で解決すべく、行政過程における紛争解決機能を充実させることが必要である。行政過程における紛争解決機能の充実は、行政と司法の適切な役割分担を図りつつ、紛争のより適切な選別を通じて裁判所の負担を軽減するともに、より充実した訴訟資料の形成を通じて行政訴訟制度の紛争解決機能を高める意味でも重要である。行政手続の改革は、行政活動の透明化及び行政裁量の適切なコントロール手法としても重要である。

事前及び事後の行政手続の改革として、次のような課題を検討する必要がある。

1. 事前の行政手続の改革
  • 行政手続法の整備(行政立法手続、行政計画手続、公共事業手続、行政調査手続、行政契約手続)
2. 事後の行政手続の改革
  • 行政不服審査法の見直し(不服前置主義の見直し、不服審査手続の準司法手続化の検討、行政審判官制度導入の検討)
  • 行政審判庁及び行政審判官(ALJ)制度の設置による不服申立て制度の強化
  • 不服審査制度の多様化・柔軟化
  • 行政型ADRの総点検と充実化
  • 準司法手続の充実・拡大の検討
なお、現在、総務省において行政立法手続の検討が行われているが、基本的には既に所与となっているパブリック・コメント手続の法制化を主たる内容とするものであって、今後更に行政手続全般の改革も進めるべきである。

3.個別行政実体法の恒常的チェックと改善
ユーザーの意見を聞きながら技術者が商品に改善を加えて細かくバージョンアップしてくように、法が複雑高度化し、すべての国民の日常に深く関わる現代においては、「法制度のバージョンアップのためのエンジニアリング組織」が恒常的に必要である。

諸外国においては、法制度について、国民からの問題提起を受けつけ、微調整のための法改正提案を行う恒常的な組織を政府内に設置することが、かなり一般的に見られる傾向である。

複雑高度化した現代の法制度は、不断のメンテナンスを必要としており、個別行政実体法の恒常的な見直しが不可欠である。

また、行政裁量に対する立法統制のあり方を見直すとともに、行政法制度の運用として不適切な裁量行政のあり方をもチェックし改善していくことが不可欠である。

四、諸課題の総検討と恒常的改革機関の設置
行政法が国民のための法律として立案され、運用され、必要に応じて改善されなければ、21世紀における国民のための行政を確立することはできない。

国民と行政の関係を考える若手の会は、行政を国民の手に取り戻し、また、行政に対する国民の信頼を醸成するために、法の支配を確立し、国民のための行政を作るための制度的出発点として、推進本部を設置することを提言するものである。

この推進本部は、国民の代表、有識者、学者、法曹、行政官僚から構成される。

また、機能として行政法制度(個別行政法、行政手続及び行政訴訟制度)とその運用の諸課題について、省庁毎の縦割りではなく、横断的かつ継続的にチェックし改善していくことを任務とする恒常的な改革機関の役割を担うものである。

推進本部の最初の任務は、わが国がこれまで長年にわたり取り組んできた行政改革の総仕上げとして、短期間で、行政手続、行政訴訟制度及び法運用のあり方について総点検し、法改正・運用改善の方策を講じることである。

なお、これらの改革が実現した後も、推進本部は国民のための行政を推進する恒常的チェック機関として存続すべきである。
以上

国民と行政の関係を考える若手の会

塩崎 恭久 衆議院議員
柴山 昌彦 衆議院議員
下村 博文 衆議院議員
世耕 弘成 参議院議員
棚橋 泰文 衆議院議員
根本  匠 衆議院議員
早川 忠孝 衆議院議員
林  芳正 参議院議員
茂木 敏充 衆議院議員
渡辺 喜美 衆議院議員
安念 潤司 成蹊大学法学部教授
古城  誠 上智大学法学部教授
玉井 克哉 東京大学先端科学技術研究センター教授
福井 秀夫 政策研究大学院大学教授
斎藤  浩 弁護士・大阪弁護士会
東松 文雄 弁護士・第二東京弁護士会
水野 武夫 弁護士・大阪弁護士会
小林 元治 弁護士・東京弁護士会