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政策提言

2001/05/15 

資本市場に関する会計小委報告

資本市場にかかる行政のあり方について

平成13年5月15日
自民党金融調査会 ・企業会計に関する小委員会

1.基本的な考え方

日本経済の再生のためには、株式市場など資本市場の機能を強化し、従来の銀行を中心とする間接金融中心の金融構造から、資本市場を通じた直接金融中心の金融構造に転換し、リスクマネーをこれまで以上に創出することが喫緊の課題となっている。先の「緊急経済対策」(4・6)や小泉新首相の所信表明演説に盛り込まれた通り、こうした考え方は、国民的な合意となっている。


2.議論の経過

当小委員会では、市場インフラとしての情報開示のルールである「企業会計」を基本的視点に据えながら、わが国資本市場の機能強化のために望まれる市場関連行政の体制につき、1年以上に亘って議論を進めてきた。その結果、資本市場関連行政の体制およびその機能を格段に強化することが不可欠であり、それにより、

(1)家計などより幅広い主体が、投資教育などを通じて、株式等の証券をより身近な資産運用の対象として捉えることができるように国民の理解を深めること

(2)いかなる投資家も安心して市場に参加できるように、会計情報を中心とするディスクロージャーのもとに、資本市場における公正な競争が保証されること

を、施策として推進することが重要であるとの点で認識の一致をみた。

3.今後対応すべき事項

当小委員会ではかかる認識の下、資本市場関連行政の具体的な強化策に関し、今後以下のような対応をすべきではないか、との議論が行われた。

(1)資本市場担当部局の集約化

資本市場に関する規制や監督行政は、市場の育成、投資教育、ディスクロージャーや市場取引のルールの設定、ルール遵守の審査・監視・摘発等が一体・総合的に行われてはじめて有効に機能する。そのためには、現在金融庁内の各局、証券取引等監視委員会、財務省関東財務局(有価証券報告書の受付・審査)に分散してしまっている資本市場担当部局を1箇所に集約させるべきであり、その形態については、銀行・保険監督検査行政とは分離し、独立行政委員会(3条委員会)として「日本版SEC」ともいうべき強力な組織とする考えが多く示された。
 なお、銀行、証券、保険等金融サービスの総合化が進む中、資本市場行政を分離・独立せず、証券取引等監視委員会を解消の上金融庁の一部局(たとえば「総合資本市場局」)へ集約する考えも示された。

(2)準司法的権限付与の検討

わが国では、資本市場担当部局に対して、金融庁による証券業者の検査や、証券取引等監視委員会による株価操作等にかかる特別調査など狭い範囲での監視権限、告発権限しか与えられておらず、資本市場をトータルに監視するための準司法的機能にかかる諸権限が与えられていない。このため、わが国の法体系の下で機動的かつ効率的な資本市場の包括的監視体制を構築するために、訴追権限、差止請求権限、民事制裁を課する権限、審決権限などの中から、いかなる準司法的権限を付与するべきかを早急に検討すべきとの意見が出された。

(3)人員増強の必要性

インサイダー取引、風説の流布、株価操作等の不公正な取引に対する資本市場の監視は、銀行監督のようにリスク管理体制のチェックに重点を置くよりも、取引毎の違法行為の有無にかかるチェックが中心となる。こうした観点から、資本市場の監視体制の陣容について、人員数および人材の質の両面で抜本的な増強を図る。また、国家公務員離職後の2年間の再就職制限など民間の専門家を登用する場合に妨げとなっている規制の見直しを行う。

4.今後の課題

なお、当小委員会は、99年8月発足と同時に、会計基準のグローバル化を踏まえながら会計基準設定主体のあり方の議論を開始し、従来の審議会形式から、常勤スタッフにサポートされた常勤委員中心の民間常設機関の創設を提起した。これを受けて、本年7月を目途に新たに「財団法人財務会計基準機構」(仮称)が新たな基準設定主体としてスタートすることとなリ、こうした会計基準の整備を含めた会計インフラ強化を背景に、IASCにわが国から理事一名を送る事ともなった。
今後は、1948年以来骨格が変わらず、新たな時代の要請に応えられなくなりつつある公認会計士法の全面改正を視野に入れながら、監査や公認会計士のあり方について議論を深めていく方針である。


以上

(参考)

  • 資本市場担当部局の集約化については、下記の意見が出された。
    ・【3条委員会化】証券市場の監視機関は強力な独立性を備えるべきであり、現行の証券取引等監視委員会(8条委員会)に資本市場担当部局を集約化した上で、これを3条委員会とすることによって独立性を強化すべきとの意見が出された。その一方で、わが国の3条委員会は過去にも政治の介入で決定が覆される例があるなど、必ずしも独立性の点で安定的でないうえ、行政委員会は委員報酬の点でコストが高くなる難点から、独立の省庁のような形態がむしろ望ましいとの意見が出された。

    ・【検査の分離】金融庁から資本市場担当部局を切り離すことについては、近年、各種金融サービスの総合化が進む中、資本市場担当部局を分離すれば縦割り行政の弊害が生じかねないことを背景として消極的な意見が出された。その一方で、銀行検査(リスク管理体制やラインシート査定が中心)と証券検査(取引明細書のチェックが中心)では質的な違いがあり、そもそも一人の検査官が両方に精通することは期待できないことから、異なる業態を担当する検査官が検査時に同行すれば足り、必ずしも異なる業態を担当する検査部署が同一局内にある必要はなく、証券検査部署を資本市場担当部局として切り離すことの弊害は少ないとの意見も出された。

  • 準司法的権限の付与の検討については、わが国の資本市場担当部局には、金融庁による証券業者の検査や、証券取引等監視委員会による株価操作等にかかる特別調査など狭い範囲での監視権限、告発権限等が付与されている。

    ・米国の証券取引委員会(SEC)では、強制調査を伴う刑事告発権限、差止請求権限、民事制裁を課する権限、審決権限(「行政内部での裁判」を行う権限)等の準司法的機能があるが、わが国ではこのような資本市場をトータルに監視するための準司法的機能にかかる諸権限が与えられていない。インサイダー規制違反や株価操作等の違法行為は、その立証が難しい場合が多いために、米国では、上記の準司法的権限を持つことで、より機動的な不正摘発が可能となっている。

  • 人員増強の必要性については、これまでにも徐々に改善をみてきているが、絶対数でなお不足しているのが現状である。

    ・証券取引等監視委員会の職員は平成12年度定員で250名。実際に証券市場監視に従事する証券取引等監視委員会、地方財務局、金融庁証券関連部局の職員を合わせると約510名。米国の証券取引委員会(SEC)の職員数とは対象とする業務の範囲や証券市場の規模などが異なるため単純比較はできないが、約3000名となっている。なお、証券取引等監視委員会による刑事告発件数は年間6〜7件である。

    ・都内の経済犯罪に対処する警視庁捜査2課の職員は約360名。全国のインサイダー取引や株価操作等の犯則事件調査に対処する証券取引等監視委員会の職員は地方を含め約70名。

    ・証券取引等監視委員会において上場企業や店頭公開企業(3,400社)の株価動向の監視に従事している職員は約30名(SECと同程度)。

    ・なお、弁護士など民間の専門家からの増員を妨げることのないように、これらの専門家を期限付きで任用した場合等における退職後の再就職制限、利益相反行為の禁止、守秘義務などの規制を明確にすることが必要である。