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政策提言

2006/08/04 

第2回 東京-北京フォーラムにおける基調講演

2006年8月4日(金) 09:15-09:30、於:パレスホテル

1.はじめに

●昨日来、日中両国の各界の錚々たる方々が一堂に会して、民間同士の新しい対話チャネルを通じ、日中関係のあるべき姿を熱く語っておられる姿に身近に接し、こうした努力を積み重ねることこそが日中関係の明るい将来の為に重要だ、と改めて確信致しました。
●さて、昨日、わたくしも「アジアの大交流と日中協力」の分科会に出席いたしました。参加された方々から広い視点に立った鋭い問題提起が相次ぎ、非常に示唆に富むものだったと思います。このフォーラムは、それ自体が既に日中関係の将来を考える巨大なシンクタンクだと言えるでしょう。その一員として基調講演を行う機会を与えて下さった主催者の言論NPO、チャイナ・デイリー、北京大学をはじめ、関係の皆様に、まず、お礼を申し上げたいと思います。
●わたくしはこれまで外務副大臣として既に2回訪中し、中国の政府のみならず民間の有識者も含め、幅広い方々と意見交換を行う機会を得ることができました。こうした交流を通じて強く実感したことは、中国側は、一貫して対日関係を重視しているということであり、わたくしはこれを高く評価しています。5月にドーハで、7月にクアラルンプールで外相会談が行われ、日中関係が世界で最も重要な二国間関係の一つであることを確認したことは、今後の日中関係を進めていく上で大きな意義があると考えます。我が国としても、日中関係を重視するとの方針にいささかの揺るぎもありません。
●もちろん、ご出席の皆様もご承知のとおり、日中間には問題がないわけではありません。むしろ、歴史、東シナ海資源開発等々、懸案が多く存在しているのが現状です。歴史については、昨日の分科会でも突っ込んだ議論が行われたようですので、この後の分科会報告を傾聴したいと思いますが、一言だけ申し上げたいと思います。それは、戦後60年にわたる日本の平和国家としての歩みをよく見て頂きたい、小泉総理が昨年8月15日の談話で述べられているとおり「我が国の戦後の歴史は、まさに戦争への反省を行動で示した平和の60年」だということです。
●ご出席の皆様の中には、違った見方をされる方もいるかもしれません。しかし、異なる見方があるときこそ、一層対話と交流を深めていく必要があると思います。経済、科学技術、文化、青少年、政党、議会、安全保障等、あらゆる分野での協力には、日中関係の幅と深さを考えれば、まだまだ深める余地があると思います。そして、このような具体的な協力を積み重ね、両国国民にとり利益があるものとして、つまり両国の共通利益として、目に見える形で示していくことが重要です。
●本日の私の基調講演では、まずはアジア、さらには広く国際社会の中における日本と中国という視点から始めたいと思います。


2.アジアにおける日本と中国

●わたくしがまず強調したいのは、国交正常化以来30年余り、幾多の風雪を経験した日中関係は、冷戦後のグローバル市場の爆発を契機とする世界経済の急速なグローバル化の進展や、地域紛争の増大という21世紀の新たな現実のなかで、改めてその強靱さを試されているということです。
●日本と中国が大国、強国として並存した経験は、歴史上一度もなかった、とよく言われます。確かに、19世紀半ばのアヘン戦争以降の中国や、明治維新以降の日本をとる限りはその通りかもしれません。しかし、歴史をさかのぼると、近世では、江戸幕府と清国はちょうど同じ時期に成立し、日中とも国力としては17世紀には西欧列強国に匹敵する強国となっていたとも言われています。この時期の江戸幕府と清国は平和共存の維持につとめた結果、1680年代までには東アジア地域秩序は安定が得られたとされています。その背景としては、東アジアの近世国家は、江戸幕府の鎖国に代表されるような国内の社会秩序維持の優先や、経世済民に重点を置いたことなどが挙げられています。ある意味で、そうしたある種の殻に閉じこもることで、暗黙のうちにお互いの内政不干渉を保証したのでしょう。
●しかし、21世紀の現代は、ボーダレス化の時代です。ヒトも、モノも、カネも、殻に閉じこもることは許されない。アジアの中でも、中国、インド、ASEAN各国をはじめ、各国がしのぎを削って競争を繰り広げている現実の中で、安定的な日中関係をいかに構築していくべきかという課題に、我々は正面から挑まなければなりません。
●そのなかで、いま、日本も中国も共有すべき基本的な理念とは、世界が多極化、multi-polar化していくことが、基本的に我々の利益になるのだ、という決意ではないでしょうか。すなわち、グローバルな社会で、一極支配ではなく、むしろ分権的な意思決定を行っていくなかで、ある種の国際的な役割と責任を、日本も、中国も、そしてインドも、それぞれが担っていくことこそが、国際社会の利益なのであり、同時に我々自身の利益にもなるということです。これこそが、いわゆるプラスサムゲームを続けていく極意だと思います。日中両国が、こうした基本的な理念を共有していくうえで、次の3点のことを申し上げたいと思います。
●第一に、日中間での民主主義や法の支配、人権など、基本的な価値観の共有です。わたくしは、中国が今後、国際社会の中で積極的な役割を果たしていくことを、強く期待していますが、そうしたときに真の力となるのは、政治が、ひとりひとりの自由な意思に基づく民衆の支持を広く受けている、ということだと思います。また、経済面では、これまでの中国の高度成長は目覚しいものがありますが、将来にわたって、中国が、中長期的に安定的な経済的繁栄を続けていくためには、政治と経済との関係の整理も極めて重要ではないでしょうか。例えば、中国のマネーサプライ、銀行貸出や企業の設備投資の決まり方や国有企業のディスクロージャーのあり方には、一層の工夫が必要に思えます。また、報道されているような地方社会における不安定性、エネルギーや環境面でのリスクなど、中国が自らの持続可能な繁栄の明るい青写真を描いていくには、引き続き取り組むべき課題が多くあるようにも見えます。その最も根底にあるのが、民主主義、人権、報道の自由、法の支配といった基本的な価値の共有であり、それを政治的にいかに実現していくのか、ということだと思います。
●第二に、透明性とオープン、ということです。中国においては、まず経済政策面で、人民元の為替レジーム、銀行システムなどの透明性を高めていくことが重要だと思います。安全保障面でも同様に、国防費の透明性を高めていく、ということが挙げられます。こうした経済システム、安全保障システムの制度の透明性を高めていくことが、結果的に、アジア地域、ひいては国際社会における信頼の醸成に繋がるということを改めて強調したいと思います。この点は、わが国にも言えることです。日本も、同様に、透明性を高めてオープンな社会にしていくことで、相手方の信頼を得る努力を続けなければなりません。アジア地域の例をみれば、北朝鮮と韓国、ミャンマーとタイ、を比較すれば、国際的な孤立から得られるものはなく、オープンであることが、持続的な繁栄をもたらすことは明らかです。近年の中国の目覚しい経済成長についても、1992年の南巡講和以降、西側諸国の市場へのオープンなアクセスの結果としてもたらされたものなのです。
●第三に、アジア地域における協力の重要性です。アジアは民族、宗教、文化など多様な社会で構成されています。この点で、FTAやEPAのような二国間のみならず、日中韓のような三者間、また六者会合のようなマルティラテラルな枠組みなど、多層構造の協力関係があることが望ましいと考えます。多様性を大事にするアジアの家は、屋根と柱がたくさんある方が安定するのです。
●一例を挙げれば、急速な経済成長とグローバル化のもとで、東アジアの地域統合への動きがあります。昨年12月に、将来の共同体形成をも視野にいれて、ASEAN+3に加え、豪州、ニュージーランド、インドの参加も得た初の東アジア・サミットが開催されました。こうした地域統合に向けての取り組みが加速している中で、アジアの大国である日中両国が、地域のより良い将来を目指してどのように協力してくことができるのか、東アジアの諸国が注目しているところです。例えば、環境・エネルギー分野は、日本が相対的に多くの知見を有している分野であり、この経験を中国と分かち合うことが可能と思います。また、テロや海賊、感染症等の非伝統的な安全保障分野での協力でも日中が率先して地域をリードしていくことが重要です。
●このような地域共通の利益を日中両国が率先して引っ張っていくとともに、この地域が透明でオープンな形で、普遍的な価値に基づく地域統合を進めていくことが重要です。この点で、地域の経済連携のコアであるFTA・EPAや金融分野の協力については、すでに既存の枠組みがあるASEAN+3のみならず、豪州、ニュージーランド、インドの3カ国も加えたASEAN+6という形で、より開かれた東アジアFTAを構想していくことが、地域全体の利益に繋がると、わたくしは考えていますし、さらに、APECワイドなど、太平洋の対岸諸国との連携も視野に入れ、この地域をいつもオープンで、どの国でも関わることのできる地域にしていくことが重要です。これからも多面的・重層的な形で中国との協力を深めていきたいと思います。
●その一方で、この地域には、引き続き冷戦の残滓ともいうべき状況も見られます。その代表的な例の一つが北朝鮮情勢です。先般の北朝鮮によるミサイル発射をめぐり、日中両国が粘り強い協議を行った結果、国連安保理が適切なメッセージを発出できたこと、北朝鮮を六者会合の場に引き戻すために努力したことは、双方が評価すべきです。この点は、先月27日にクアラルンプールで行われた日中外相会談でも確認されたところです。地域の平和と安定は、日中両国のみならず、地域全体にとっても重要なことであり、今後とも日中が歩調を合わせて行動するべく努力して行かねばなりません。


3.相互理解の重要性と青少年交流

●ところで、一つ気になっていることがあります。日中の政府同士は、既に申し上げたように、日中関係重視の方針を共有していますし、個別の問題があっても、対話と協力を進めていく意思と能力があると思います。しかしながら、ここ最近の日中関係をめぐる状況により、両国国民の間では心が離れつつあるのではないかとの心配が頭を離れません。特に、日中関係の将来を担う青少年の世代でこのような状況が発生しているとすれば、それは由々しき事態です。
●そのためには、人と人の直接の交流により、相互理解を深めるのが、迂遠であるようでいて、実は、最も近い王道であると思います。特に、多感で、新しいもの、新しいこと、新しい感覚を吸収するのに一番いい年代である高校生同士の直接交流を活発化することが、日中双方にとっての「国家百年の計」だと思います。私自身、青少年交流には深い思い入れを持っており、外務副大臣に就任するよりもずっと前から一貫して青少年交流の促進に携わってきました。私自身も高校生のころ、米国で1年間ホームスティをし、米国の家庭と温かい交流を深めた経験がありますが、高校生の交流というものは、人と人の心をつなぐ非常に重要な交流であると考えてきました。
●このような交流を日本と中国との間でもっと行なうべきだと思ってきました。中国の高校生に日本の家庭に来てもらい、日本の高校生も中国の家庭に行って、お互いに相手の人々の心を感じ取り、中国人や日本人の父、母、兄弟姉妹をつくる、そんな人間関係を築き上げることは、人と人との交流の中でも、最も大きな意義のあるものと思います。このような私の信念は、麻生大臣をはじめとする関係者のご協力により、今や外務省の政策として実施されるようになりました。「21世紀交流事業」による高校生招聘プログラムがそれです。既に第一陣として中国の高校生200名が5月に来日しました。この高校生のために、我々は日本の伝統文化から科学技術まで、バラエティに富んだ硬軟いろいろなプログラムを組みましたが、なかでもハイライトはホームステイでした。同じ年代の高校生の家庭でホームステイを行い、日本の高校でともに高校生活、授業、クラブ活動を体験してもらったことで、日中それぞれの高校生は相当「熱い」思い出をつくったようです。「涙の別れをした」「日本人は歴史を否定し、書き直し、冷たい人たちと思っていたが、全然そうではなく、むしろ丁寧で温かく礼儀正しかった」などの感想を耳にすると、短期間でこれだけの感動を与えられるこのプログラムの更なる充実に尽くしたいとの気持ちがますます高まります。今月末にはこのプログラムの第二陣が来日しますし、この9月には、一年間の滞在予定の高校生が約40人、日本にやってきます。目下私たちは、それらの学生が地域や家庭で温かく迎えられるよう、鋭意準備中です。


4.総括

以上をまとめて申し上げれば、日中関係はアジア・国際社会の平和と繁栄のために極めて重要であり、その重要性は増すことはあっても減ることは決してありません。私達は、過去の成功ついても失敗についても、お互い真摯に学び合い、教訓を共有し、それぞれの将来の発展につなげていくべきだと思います。そしてその土台を築くためにも、日中の様々な分野で活躍している方々、とりわけ高校生を含む青少年の間の直接の交流を深めることが不可欠です。今回のフォーラムも、このような観点から極めて有意義な試みだと思います。日中関係を未来に向けて飛躍させていくために、私としても、これからも微力を尽くしていきたいと考えています。

ご静聴ありがとうございました。