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2012/07/25(水) NO.723号 

がん対策を加速せよ

 「水無月の夏越の祓えする人は、千歳のいのち延ぶというなり」。これは6月の晦日から7月にかけて行われる夏越神事の「茅の輪くぐり」で唱える言葉だ。罪穢れを祓い、健康と幸せを願うのだ。

 残念ながら最近、私の身近で、ごく親しい方ががんを患うケースが顕著に増えていて、気が重い。中には施す手が尽き、掛け替えのない友を何人か失った。これだけ科学技術が発達した日本や世界で、なぜなのだ、と考えさせられる事しばしばだ。

 平成18年6月、故山本孝史参議院議員などの努力により、全会一致で成立した「がん対策基本法」。それに基づき、国は「がん対策推進基本計画」を作り、全国397箇所の「がん診療連携拠点病院」(以下、拠点病院)が厚労省によって指定され、わが愛媛県でも、四国がんセンターなど7施設が拠点病院指定を受けているなど、徐々ながらも、がん治療のインフラは整いつつある。

 ところが昨今、生活保護費の一兆円増大、高校無償化4000億円など大胆なバラマキが常態化する民主党政権の下で、金額的にさして大きくもないのに、がん対策の重要施策が、財源制約と目される理由により危機に瀕している例が出ており、見逃せない。

 今年の5月20日、一通のメールが私に届いた。親交のある愛媛県におけるがん患者会・家族会のリーダーの一人で、国や全国レベルでも活躍されている、あるがん患者当事者からだった。愛媛県の拠点病院に設置されている「がん相談支援センター」が、存亡の危機だ、という。聞けば、「がん診療連携拠点病院機能強化事業費」の中の、「がん相談支援事業」の交付基準額が、5月11日付けの「厚生労働省健康局がん対策・健康増進課長」名の一本の通知、それも、恐らく財務省からの財源捻出圧力から変更を余儀なくされたであろう通知により、「年間がん相談件数に上限額を定め、1500件以下は400万円」とされてしまった。これでは、愛媛県では松山市にある愛媛がんセンター以外、相談支援事業の存続が無理だ、という。なぜならば、400万円以下では2名以上の専従・専任の相談員の配置は到底難しく、実質的に相談業務ができなくなるという。

 そこで私は早速、厚労省健康局長に直談判、地域の実情とニーズに応じ、がん患者にとって「命綱」でもある相談支援センターが崩壊しないように工夫できないか、再考方を要望した。その翌週、その局長が私の事務所を来訪、何と、件の通知を廃止する通知を5月28日付けで既に発出し、より実態に合致したメルクマールを作る事をこれから検討したい、という。とりあえず、相談事業が続けられることとなり、良かった。

 今後について、どうやら厚労省は、拠点病院のあり方研究会のような勉強会を立ち上げ、相談事業に止まらず、拠点病院の役割に関して再検討しようと言う事ではないか、との情報を聞く。

 がん対策推進の「敵」は財源不足だけでなく、政府の不作為、政治の不作為もある。

 我が国は先進各国に比べ、がん患者の情報把握が進んでおらず、治療法の確立も遅れがちだ。その解決には、がん患者情報を集める「がん登録」の法定化が必要だ。がんには多くの種類があり、それぞれ患者数、治療法、経過などが異なることから、正確な把握には全数登録が必要で、特に患者数の少ない希少がんに関しては、サンプリング調査では正確な実態把握すら困難だ。

 現在、健康増進法による努力義務でしかない「地域がん登録」では、全てのがん患者が登録されておらず、都道府県によっても登録体制はバラバラ。最新の全国の罹患率は、全都道府県の約半数の21府県の2007年の登録情報によって推計され、最新の「5年生存率」データに至っては、かなり古い1999〜2002年の、それもたった6府県の登録情報から作られているありさまだ。信じがたい情報過疎の中で、がん治療が行われているのだ。

 かつて、がん登録の法定化が具体化しそうになった際、問題となったのは、患者団体側などから指摘された、個人情報の保護だった。しかし、今年になって開かれた、がん対策充実のための超党派議員連盟の「国会がん患者と家族の会」の席上、参加されていた患者団体の皆さん全員から、是非がん登録の法定化を急いでほしい、との強い意志が示された。そして同議連では、この個人情報保護問題も解決して法定化を実現しなければならない、との共通認識を得た。

 最近は、欧米先進国のみならず、お隣の韓国でも2006年、がん登録を国の事業とする一方、個人情報保護法の適用除外とする法改正を行っている。

 これまで法定化に向けて動こうとしなかった政府・厚生労働省も、さすがに6月にとりまとめた「医療イノベーション5カ年戦略」に来年度中の法制化方針を盛り込んだ。しかし、先月開催された超党派議連の幹部の集まりでの共通認識は、がん登録について、政府による法定化は困難であり、やはり議員立法で実現するほかない、というのが結論だった、と聞く。

 6月末のある日、私は同議連の尾辻代表世話人を、参議院副議長室に訪ね、「政治の不作為の罪を克服するためにも、議員立法を急ぎましょう。私もお手伝いします」と申し上げた。「いのち軽視」は、政府も政治も大いに反省し、行動あるのみだ。

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