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やすひさの独り言 Yasuhisa's Soliloquy 今一番伝えたい考えや想いをお伝えいたします

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2002/05/10(金) NO.280号 

やはり必要な冷静かつ一本筋の通った外交の司令塔

 朝8時から自民党本部にて、瀋陽総領事館での亡命者連行事件に関し外交関係合同会議が開催される。私も昨晩からテレビニュースで繰り返し流された生々しいビデオが頭にこびりついたまま参加する。
 総領事館へ駆け込もうとして警備の中国公安につかまり、必死に叫びながら抵抗をする女性2人、そして最後は呆然と立ちすくむ幼児、館内から出てきた領事館職員は警官の帽子などをのんびり拾うだけで、一向に女性達を助け、保護しようとしない。このビデオを見た人は皆共通に憤りと同情を感じたはずだ。おまけに中国公安は、ビザ発給待合室に入った男性2人まで後刻公安が館内まで入った上で連行してしまったという。
 外務省の担当局長から経緯説明がある。政府としても、「今回の中国公安当局の領事館内立ち入りは、ウィーン条約第31条の『公館への不可侵』の侵害は明らか。強く抗議し、5人の速やかな引渡しと、本件に関する事実関係と中国側の対応についての中国からの誠意ある回答要求をした」とのこと。議員側からは皆かなり興奮気味に外務省の対応の鈍さと遅さについて細かな事を含め非難に近い批判を展開する。日本独自で在外公館武装警備隊を結成せよ、との勇ましいがいささか非現実的な意見まで出る。
 私からもいくつか指摘。結論は「外交は外務省のものではなく、内閣、政権全体のものであり、何時も冷静に中長期的視点を持ちながら、しかし首相を中心に筋の通った司令塔がなければならないし、あくまでも国民に向かい合った外交姿勢が大事だ」という事。
 第一に、政府の対応は遅すぎる。政府のスタンスがここまではっきりしているなら、8日の当日中に、政府特使を中国に送るべきだった。何のために副大臣や政務官を作ったのか。
 第二に、外務大臣の顔が見えない。この時点でも外務大臣は記者会見すら行なっていない。すなわち国民に対する直接のメッセージがないのだ。国会の委員会での答弁は、あくまで聞かれたから答えているだけだが、国民の期待する外交は、国民に正面から向かい合った能動的でアカウンタビリティの高い外交だ。
 第三に、同じ意味で、首相と官邸も国民へ向かっての対応がない。官房長官の記者会見もなく、首相も外務省からの情報不足ゆえか、ややずれたコメントをした程度だ。遅い。そもそも外交は内閣の責任であり、外務省の考えを聞きながらでよいが、やはり最終判断は首相を中心に官邸が行なわなければならない。結局これも「政治システム」の問題だ。
 これは平場では言わなかったが、外務省には別途、在中国の日本公館に対する北朝鮮亡命希望者侵入の際の、亡命者としての扱いのマニュアルはしっかり作り、人権国家、平和国家日本の姿勢を明確に行動で表わすべし、と提言しておいた。
 午後の衆議院本会議で、やっと川口外務大臣がこの問題に毅然として対処する旨の異例の「報告」を反省と共に行なった。これは良かった。が、ほぼ丸二日後の政府の正式アッピールでは遅い。あの強烈な印象を与えるビデオ映像を世界中が見ていることを考慮し、官邸が、国民と世界に向けて明確な日本政府としてのメッセージを一刻も早く発するべきだった。