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やすひさの独り言 Yasuhisa's Soliloquy 今一番伝えたい考えや想いをお伝えいたします

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2002/08/23(金) NO.290号 

カンボジアの地雷原で考える

 地雷原で地雷除去作業を実際に見る。朝、AARが契約をして、地雷除去を行なっている英国・スコットランドベースのNGO "The HALO Trust" の Country Director をやっている Matthew Hovell が、カンボジア・シェムリアップのホテルに迎えに来てくれる。
 当初は、我が同級生の坂本龍一氏のCD "ZERO LANDMINE" の販売収益金などでやっている「TBS地雷ゼロキャンペーン」対象地雷除去現場に行く予定であったが、雨季入りで大変な悪路のようで、タイ国境近くの現場まで片道6時間で行くかどうか、というので方針転換をし、アンコールワット近郊にあるThe HALO Trust のベース事務所から車で約2時間のトラフィエン・クランという村の地雷原に行った。
 まずベース事務所で一通り説明を受ける。HALO は、現在世界9ヶ国で地雷除去を行なっており、カンボジアでの活動は9団体からの寄付で成り立っている。EU、オランダ、米国、オーストラリア、アイルランド、フィンランドそれに日本(「草の根」)7政府に加え、日本の民間であるAAR/TBS、池袋ロータリークラブだ。ここカンボジアでは、約 1,000 人の現地職員を使いこの10年間で、約 28,000 の地雷と 30,000 の不発弾を処理してきている。
 
 2台の英国製ランドローバーに分乗し、いざ出発。半分くらいは舗装なしでもまずまずの道だったが、後半は、デコボコの上、車の床くらいまでつかる水溜りの連続。地雷原に近づくにしたがって緊張感が高まる。
 トラフィエン・クラン到着後、地図を見ながらこれまでの除去状況と今後の活動予定を聞き、早速プロテクターを体と顔に付ける。ダイアナ妃が着けていた物と同じだ。
 ここの除去作業員は全員で約40人。朝8時から午後3時まで30分間作業をし、10分間休みながら、1日1人平均34平方メートルを処理している。もともとジャングルのため、植物を刈りながらの炎天下の作業で、顔のプロテクターを着けると息がしづらいほど暑い。聞けば、除去作業員の給料は1ヶ月150ドル。公務員が平均20ドルから30ドル程度なので、かなり高給ではあるが、このきつい作業だ。人材確保は地雷原でもあるタイとの国境の村に行って、最も貧困な家庭から選んでいるという。実直に黙々と作業をする精神力がないとダメで、日本など先進国からのボランティアはお断りだそうだ。
 おっかなびっくり地雷原を歩き、説明を聞きながら作業を見る。暑い!1メートル余りの白い棒を置き、その20センチ程度先をセンサーで探り、進んでいく。金属感知があれば、手前20センチからゆっくり掘るが、たいていは爆弾の破片とか薬きょうだ。極めて地道な作業だ。そして、処理済の土地は二人の上司が別々に確認をする事によって、初めて「安全」ということになる。
 視察後、ほんの10分程前に発見され、地中でほんのちょっと顔を見せる「PMN2」という旧ソ連製の地雷を発見現場で見、センサーで試してみた。これらは1日の最後に爆破処理するそうだ。
 
 地雷原には既に20家族ほどが戻ってきており子供達があどけなく遊び、鶏や豚が平和そうにしている。高床式で椰子葺きの簡単な家にいる人たちを見るとのどかであるが、ポル・ポト派、ベトナム軍、カンボジア政府軍、その他諸々のグループがそれぞれのやり方で埋めてしまった地雷は、どこにあるかすら分かりづらく、この村人達も危険と背中合わせのままだ。必ずしも人を殺さず、足などを失う事によって肉体的、精神的に人間を痛めつける対人地雷。人間とはとんでもないものを考え出すものだ。対人地雷は全世界にまだ一億個はあると聞く。The HALO Trust のマシューは、彼らの活動は後約10年、地雷被害がなくなるまでやる、と言っていた。人間の知恵とエネルギーは、もっと別な目的に使うためにあるはずだ。