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やすひさの独り言 Yasuhisa's Soliloquy 今一番伝えたい考えや想いをお伝えいたします

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2003/10/16(木) NO.330号 

日本の科学技術は大丈夫か?

 中国が、初の有人宇宙船「神舟5号」の打ち上げに成功し、翌朝、同宇宙船は無事帰還した。ソ連、米国に次いで、中国は世界で3番目の宇宙大国となったことになる。

 真っ先に思ったことは、「あーっ。日本は科学技術で中国に追い越されたのか」ということだ。今回の成功の軍事的、政治的、外交的意味合いはさまざまあるが、ひとつはっきりしている点は、人間を乗せた宇宙船を打ち上げ、無事回収するというプロジェクトの裏側では、広範な科学技術のバックグラウンドが必要なことだ。少なくとも、日本では試したことのない分野を含め、かなり幅広い分野の自前の科学技術がこの成功を支えているはずである。もちろん、ベースとなる技術は旧ソ連のものだろうが、昨日の打ち上げの際には、おそらく外国人は誰も関わっていなかったのではないか。

 日本国内では「技術的には日本も打ち上げ可能」とか「日本は独自の道を目指せばよい」との論調が多い。そのとおりかもしれない。また、中国国内の貧富の格差を放置したまま、ここ10年間で2500億円もの巨費を宇宙開発に投ずる国策について批判する解説も見られる。それも一面の真理だ。確かに米ソも今回の中国も、軍事技術と一体で宇宙開発を行ってきた。しかし、インターネットが軍事技術からのスピンオフであるように、利用目的とは関係なく民生に役立つ技術が誕生することは多いのは周知の事実である。何よりも、今回は、宇宙開発という極めて高度な分野での成功であり、これが、中国の科学技術のレベルアップの度合いを端的に示した、ということではないか。

 早速、旧科学技術庁の友人に電話をしてみた。結論は「日本はこの分野では負けた」だった。

 これを聞いて、日本のある製薬メーカーの経営者が「製薬産業が成り立つには多くの要素が整わなければならず、中国はあと10年は日本に追いつかないだろう。もちろん、追い上げは激しさを増しているが」と、ある勉強会で述べておられたのを思い出した。もちろん分野は異なるが、今回の打ち上げ成功後でも、彼は「あと10年は大丈夫」とおっしゃるだろうか、と思い、電話をして問うてみた。案の定「その『10年』は確実に短縮されるでしょうね」と率直に述べられていた。

 今回の有人宇宙船打ち上げ成功は、単に宇宙開発分野に限らず、中国における科学技術発展に必要なさまざまな体制が予想以上のペースで整いつつある、ということを意味している。例えば、研究開発型の製薬産業が成り立つには、高等教育全般、とりわけ医学、薬学、生物学等のライフサイエンス関連学問の底上げが不可欠なことは言うまでもなく、製薬マシン製造を支える工学、さらには知的財産権保護の制度整備も必要になる。また、医療を支える保険制度、薬品安全のための治験制度や動物実験の供給体制も整っていないといけない。まさに幅広い基礎があってこそ、科学技術は花開くのである。

 20日から、バンコクでAPEC首脳会議が開催されるが、これまで同様、中国の積極的な外交姿勢がみられるだろう。だが、中国の国際的な舞台での積極的な立ち振る舞いは、経済や技術など、国内での着実な地固めに裏打ちされてきているだけに、いよいよ手ごわい存在になりつつある。中国が自前で先端技術も開発可能、ということになるならば、今後は「単なる世界の製造工場」に止まらず、質・量ともに世界の経済大国となり、名実ともにわが国の経済的ライバルとなりうる訳だ。

 日本のとるべき戦略ははっきりしている。まずは産業、金融の構造改革をさらに徹底的に進めるとともに、これまでも掲げてきた「科学技術立国」への道を、中身を伴いながらより本格的に早めることだ。わが国の生き残りがかかっている。