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やすひさの独り言 Yasuhisa's Soliloquy 今一番伝えたい考えや想いをお伝えいたします

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2003/01/24(金) NO.310号 

「おろおろ」政策は止めよう

 昨日、生保予定利率引下げ問題に関し、自民党の生命保険問題小委員会の幹部会があった。秘密会であるはずなのに今朝の新聞各紙にはその内容や今後の方針らしきものが昨日の議論と関係なく出ている。内容報道が不正確であるし、この問題は日本の「経済文化」を変節させる重要な曲がり角にもなりかねないことなので、問題の本質だけは国民の皆さんに知って頂きたいと思うので、あえて書こう。
 
 生命保険会社が契約者に約束した運用利回りを予定利率、と言うが、現在は、一種の倒産法制である「更正特例法」によって破綻後にのみ引き下げが可能になっている。それを今回は破綻前に引き下げるように法改正をする、という動きだ。実は、昭和14年に制定され、平成7年改正まで使われてきた旧保険業法では、会社自身が破綻前の引き下げ実施に関する定款をあらかじめ設けることを許していたし、主務大臣の命令や認可によっても引き下げが可能であったが、憲法上の財産権の侵害のおそれなどから判断して制度を廃止した。
 
 もちろん、今も世界広しといえども、破綻前に予定利率の引き下げを許している国はどこにもない。世界のどの国もやっていないことを今回日本がやろう、と言うわけだ。昨年、私たちが強く反対したにもかかわらず冷静さを失って強引に成立させた「流動性預金の完全保護」という制度も、恒久的に行っているのは日本以外にはチリしかない。チリのワインがうまい、と言う人はいるが、チリの金融から学ぶべきものが多い、と言う話は聞いたことがなかった。だが、今回、そのチリですらやっていないことをやろう、と言うのだ。ましてや、一方で、インフレ目標などで将来の物価を上げようとさえ言いだしている政府が、他方で将来にわたって利率が高すぎるから引き下げろ、というのは、国民生活の安定を預かるものとして責任ある態度とはいえない。
 
 一度約束したことは守る、と言うのが我々が子供のときに親や学校から叩き込まれた最低限の道徳のはずだ。もし守れないなら、それなりの手続き、すなわち生保なら一旦破綻という明確なけじめをつけた後にのみ、法的手続きに則って実施させてもらう、というのが人の道であり筋だろう。要は、今回やろうとしていることは、日本の企業経営倫理、経営者責任の根本に関わる重要な変更になるのだ。
 
 「経済環境が変わったからしょうがないじゃないか」などという安易な論理が企業経営や一般国民との契約関係に通用するはずはない。バブル期といえども、高い利率を約束した、という事実は厳然として残る。当時の経営者の責任はどうなるのか?「既に高額の退職金をもらったかつての経営者は、俺たち契約者に犠牲を強いる前にその退職金を返せ!」という声が噴出しても全くおかしくない。「破綻するよりまし」という論があるが、破綻処理ではない限り、既契約のままで継続する契約上の権利を持つ善意の契約者に対し負担を強いる事に変わりはない。おまけに生保の「株主」である「基金拠出者」にはさして傷がつかないままに、一般債権者たる契約者が不利益をこうむることは、会社法、倒産処理法の根本原理に反する。
 
 そもそもこのような「禁じ手」を使わざるを得ないような生命保険会社は破綻寸前であろうし、適用されれば、国民はそう思うはず。契約停止期間終了後に解約が集中し、信用を失ったその会社は、スポンサーなし生きてはいけまい。ならば姑息な手段に訴えるのではなく、初めから正式に更正特例法で、公正な手続きを踏むべきだ。そもそも金融庁がこれまで言ってきた「日本の生命保険会社のソルベンシー・マージンは、最も低い会社でも351%あり、超えなければならない200%を優に超えているので、問題はない」との論はどうなるのか。
 
 銀行と生保は相互に株式・基金を持ち合っているから生保破綻は銀行破綻につながる、という論理も問題の本質をすり替えている。仮に銀行に問題が起きても、ペイオフを2年延期している限り、少なくとも流動性預金で預金者に迷惑をかけることはない。困るのは銀行で、国民ではない。
 
 一見大きく見える問題に目がくらみ、最低限の道徳や倫理、責任の大本を崩し、日本を「何でもありの国」をして良いはずはない。ここはバタバタせず、構造改革後の日本の論理を見据え、その論理で今の問題を処理しなければならない。国民生活の混乱回避は、また別のレベルで丁寧にやるべきだ。いずれにしても、責任の所在は明らかにしなければならない。それもできないような国は、他国から尊敬されるはずはない。今日、財務省が円の国際化に関する提言を持ってきたが、今回のようなことをやればやるほど、アジア諸国は尊敬できない日本の円を使うことはないだろう。アジアのリーダーになりたいなら、彼らの模範とならなければ無理だ。
 
 山よりでかい猪は出てこない事を忘れてはならない。

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