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やすひさの独り言 Yasuhisa's Soliloquy 今一番伝えたい考えや想いをお伝えいたします

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2014/08/07(木) NO.794号 

資産運用改革を通じた経済再生

 一昨日、ブルームバーグ主催の「GPIF改革と日本経済の未来」と題する緊急特別セミナーにて、基調講演を行った。

 私たちは、昨年の自民党・日本経済再生本部による成長戦略「中間提言」において、120兆円余りの資産を運用している、世界最大の年金資金運用機関である、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の改革に関し、資産の6割以上も国債に投資するという、返って大きな金利リスクを負うこれまでの運用方針を改め、分散投資を進め、運用やリスク管理等の高度化を図り、よって公的年金の被保険者である国民の利益の増進を実現することを提唱した。とりわけGPIF改革が、その投資先企業との建設的対話や議決権行使を通じてコーポレートガバナンスや企業業績に大きな影響を与え得ること、さらに、必然的に行われることになる運用委託機関改革を通じて、わが国の金融・資本市場の活性化にもつながる、広がりの大きな、重要な改革であることを強調した。それを受け、政府も第三の矢である「日本再興戦略」で、かかる改革を閣議決定し、政府内に有識者会議(座長:伊藤隆敏政策研究大学院大学教授)を設け、その具体的な改革の進め方に関する提言を昨年11月に公表した。

 運用面での改革は、カナダでのインフラ投資開始や新株式指数JPX日経400の採用、運用委員会メンバーの更新、5月の「日本版スチュワードシップ・コード」受け入れとその責任を果たす方針決定、さらには秋にも基本ポートフォリオを見直すことを決定するなど、運用面での改革は着実に進んできている。ここで大事なことは、分散投資を進めることで、単に株式投資を増やすことではないし、ましてや短期的な株価引き上げを目的としているわけでは決してない。

 しかし、問題は、本来「車の両輪」として「運用面の改革」とともに、「ガバナンス面の改革」、すなわち、GPIFの組織形態、理事会設置など意思決定の仕組みと責任の所在の明確化、など、ガバナンスの議論が大幅に遅れていることだ。有識者会議報告が出てから、半年以上経っても、政府内の議論が始まった、と聞かない。そこで、本年5月の自民党「日本再生ビジョン」で、そして6月の政府の「日本再興戦略改訂版」も我々が修正し、その議論と法改正を含む方針決定の「加速化」を政府に促したところだ。

 昨日の基調講演における私のボトムラインメッセージは、一刻も早く厚労省において社会保障審議会年金部会でのGPIF改革論議を開始し、基本ポートフォリオの前倒し変更を行う秋のタイミングまでに、臨時国会において、厚労省等や政治から独立し、透明性のある、説明責任を果たせる新しい組織・ガバナンス体制等を定める「新GPIF法」の改正案を成立させるべきだ、ということだ。また、そこに至る議論を官邸がモニタリングし、望まれる方向とペースで進むよう、改革をリードすべきだ。

 臨時国会での法案成立の理由は、基本ポートフォリオの大胆な変更を現体制下で行えば、そのリスクは究極的には「独任性」の下で現理事長が全面的に負うこととなるが、その任期は来年3月まで。ということになれば、仮に来年4月以降、株価が万が一暴落した時の責任は一体だれが取るのか?運用方針変更時の理事長は、退職して、その時にはいない。となれば、責任の所在が分かりにくくなり、結局、政権自体に批判の目が向けられかねない。

 常勤理事によって構成され、合議、すなわち連帯責任の下で運用方針の基本的事項を審議・決定し、さらに運用執行を独立して監督する機能を持つ理事会を、1日も早く設置する事が大事だ。さらに、投資委員会、リスク管理委員会、ガバナンス委員会など、役割分担とチェック機能を担う、優秀な専門人材によって構成される新組織を早期に構築することも大事だ。

 さらに重要な事は、新たな組織となったGPIFや厚労省、あるいは改革断行をする現政権は、国民に対し、新GPIFによる年金資金運用の基本理念は、決して株価変動等による運用損益実績に短期的に一喜一憂するものではなく、「10年タームで均してみて、より高いリターンを得る」との考え方こそが重要である事を、絶えず国民に理解してもらっている事が決定的に重要だ。

 この間、厚労省は新GPIFの報酬体系の在り方でも悩んでいるようだが、これまでとは全く趣を異にする組織を作るのだから、ここは思い切った、柔軟かつ単一な報酬体系を導入し、優秀な人材を大勢集めてほしいものだ。

 3週間ほど前にロンドン、ニューヨークを2泊5日で回り、50人余の投資家達と対話をしてきた。そこで共通に提示された疑問は、今年の第3の矢は真っ当な政策提言となっているが、過去の経験からすれば、本当に改革を実行できるのか、すなわち、やはり日本は本当には変われないのではないか、との点だった。私からは、「心配はご無用。安倍総理の決意は固く、閣議決定もしている。私達党側にあっても、これまで以上に強い決意での臨む姿勢だから」、と説明し、概ね納得を頂けたように思う。