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やすひさの独り言 Yasuhisa's Soliloquy 今一番伝えたい考えや想いをお伝えいたします

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2008/03/24(月) NO.463号 

修正協議の先送りは許されない(3月24日)

 一昨日、松山市の隣町の東温市(旧重信町)見奈良にある常設劇場「坊ちゃん劇場」で、名誉館長のジェームス三木作・演出ミュージカル「龍馬」の初日公演を観る。この劇場は、私の支援者である総合食品会社ビージョイ・グループ創業者、宮内政三氏が2006年4月にオープンさせた、西日本初の地域文化発信の常設劇場だ。快晴の空。東にはまだ雪の石鎚山系を眺望し、劇場の南側には一面黄色の菜の花畑が広がる。初日とあって愛媛県の加戸知事や大勢の地元名士に加え、安倍内閣当時、下村官房副長官の秘書官だった高知県の尾崎知事も並んで観劇。藩利藩略を超えて日本という国を力強く脱皮させるべく、一途に天下国家を論じ続けた国士、坂本龍馬の熱い心にあらためて触れる。

 一方、国会では龍馬が聞いたらびっくりするような国益を無視した政局政治が続いている。道路特定財源関連法案の修正に関し、総理からの5項目の指示を受け、先週末、与党政調会長が修正骨子案を野党に提示した。民主党は、与党提案は暫定税率撤廃に触れていない、一般財源化については判断の先送りをしている、など事実上のゼロ回答で、修正協議には応じられない、という。昨日の朝の各種TV政治討論番組でも、基本的にそうしたスタンスだった。

 「暫定税率撤廃の是非」と「全額一般財源化の是非」こそ、政府、民主党にとってお互い最も譲り難い論点である。政府の修正案では少なくとも一般財源化について、時期はともかく見直す、と妥協の姿勢を示しているのに対し、民主党は二つの争点に関し、いずれも「ゼロ回答」で、全く譲る気配はない。どこまでも自らのスタンスを全く変えない、丸飲みせよ、というのでは、話し合いをはじめから拒否しているに等しい。このまま4月1日を迎えれば、ガソリンスタンドでの混乱、事前買い控え、買い溜め等、国民生活の混乱は計り知れない。直接の話し合いをせずに自らの主張は一切変えず、3月末までに一定の結論を得よ、との衆参両院議長裁定をも無視して国民生活の混乱には無頓着、というのは、いかにも破壊的な政治手法ではないか。

 ではどうすべきか?官房長官として一昨年の道路特定財源改革案の取りまとめを行うに当たり、安倍内閣としての共通認識は、@地球温暖化対策の観点から、ガソリン等の価格引き下げに繋がる暫定税率の撤廃ないし引き下げはCO2排出増になるため、あり得ない。また、A国・地方の財政を考えると、暫定税率の撤廃等は、いずれその税収の減収分の回復のために、将来の消費税等の増税幅を拡大せざるを得なくなる、国民負担の軽減には必ずしもつながらない、ということだった。つまり、国民からガソリンへの課税で納税してもらうか、消費税で納税してもらうかの差なのだ。もちろん特定財源、一般財源の違いはあり、ここは「新しい納税者の理解」が必須だ。

 となれば、ここは暫定税率に関しては、地球温暖化の観点からガソリン価格の引き下げにつながる措置は取れず、暫定税率は維持する以外はないだろう。とりわけ地球温暖化が主要議題となるサミットの議長国である日本が率先して温室効果ガス排出の増加をもたらす政策変更をする訳にはいかない。バイオ燃料やプラグイン電気自動車などの開発投資意欲を削ぐようなこともできない。この点は環境問題への取り組みの熱心さを強調する民主党の良識ある議員は良く理解しているはずだ。

 問題は「一般財源化」の中味だ。ここは既に総理も「道路特定財源は全額一般財源化も視野に入れて検討する」と述べている。そもそも民主党も、地方のニーズと負担には配慮しながら必要な道路は造ることを明確にしているのであるから、いくらでも交渉のしようがあるはずであり、金融国会の時のような実務者協議の場を早急に立ち上げ、詰めの作業をさせればよい。その際のポイントは、今国会審議の過程で明らかになった数々の「道路のムダ」を廃しながら、本当に必要な道路とは何かを国民に明らかにする仕組みを作り、同時に県や市町村が道路建設に必要な予算確保ができる新たな配慮をすることだろう。この点については、与党としても総理の強い意気を汲んで、更に踏み込んだ修正提案を検討する余地があろう。

 今月7日にロンドンで開催された GLOBE (地球環境国際議員連盟)の企業CEOとの対話の際、呼びかけ人である英国石油メジャーのBP(ブリティッシュ・ペトロリアム)のCEOとの会話の中で、日本でガソリン価格の10数%引き下げに繋がる税制変更が議論されている、と言うと、彼は「信じられない。英国は温暖化対策として昨年の秋、今年、来年とガソリン税を3回引き上げ、再来年も新たに上げるかもしれない。日本は温暖化対策が最重要議題であるサミット議長国ではないか」と呆れ顔だった。実際、つい先日発表された英国予算書では、再来年のガソリン税引き上げ計画を新たに公表している。

 どうも今の日本の政治は、世界の流れと全く異なる論理で、全く異なる方向に進む可能性がいよいよ現実しつつある。世界でリーダーシップを発揮しながら日本の生き残りを目指すなら、政治の基本姿勢を正さねばなるまい。内向きになる理由を「ねじれ現象」に求めるのは間違えだ。米国もホワイトハウスと議会は完全にねじれているし、豪州では、1981年から2005年まで24年間、一貫して与党は上院での過半数を持っておらず、今またラッド政権も上院では過半数割れしているが、これまで豪州政治が停滞している、という話しは聞いたことはない。ねじれていても、政治は前進していた、ということだろう。国の礎を築いた先達の志を思い返し、今こそ、大局的観点から堂々と国益を論じなければならない。