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やすひさの独り言 Yasuhisa's Soliloquy 今一番伝えたい考えや想いをお伝えいたします

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2008/11/08(土) NO.491号 

オバマ新大統領と日本の挑戦(11月8日)

 米国歴史上初のアフリカ系アメリカ人大統領として圧勝したオバマ氏が初の記者会見を行ない、最優先課題が経済問題であることを改めて明らかにした。「政権移行経済顧問委員会」の初会合後、その17人の蒼々たるメンバー達を後ろに従えての会見だった。その中には、日米欧委員会などで度々議論を交わしてきたボルカー氏とサマーズ元財務長官、ハーバード留学時の恩師で、「アメリカの挑戦」という著書を私達が日本語に翻訳出版させてもらったロバート・ライシュ元労働長官、FRBを訪れる度に毎回意見交換してきた黒人のファーガソン元副議長など、私の旧知の知己もかなり含まれている。

 中でも、ロバート・ライシュ教授には学生時代に色々お世話になった。時は1981年、まだ日本型社会経済モデルが世界の注目を集めていたころ。エズラ・ボーゲル教授とロバート・ライシュ教授の授業で「日本の産業政策の優秀さを講義してみろ」と指名され、大勢の学生たちの前で冷や汗をかきながら1時間のプレゼンテーションをなんとかやり遂げたのを思い出す。今また、世界的な金融危機に直面したアメリカが、バブル崩壊後の日本の再生手法を熱心に研究している。ライシュ教授との不思議な縁を感じずにはいられない。

 オバマ新大統領にとっての経済課題は、バブル崩壊に伴う金融・経済危機克服と、グローバリゼーションなどに起因する国内経済社会の疲弊解消、の二正面作戦。米国発の金融危機は報道されている以上に深刻のようで、欧州の危機と相まって、既に日本の優良大企業の資金繰りにも影響が出るほど、世界中の金融・資本市場が極めて神経質になっている。国際的協調による危機管理がまず重要だ。

 しかし、金融の機能不全が米国のみならず、世界の実体経済の悪化を招くことは必至だろう。「国際版ニューディール政策」が必要になる可能性が大きい。こういう事態では、発想を平時モードから非常時モードに早めに切り替えることが必要で、政治の冷静かつ機を失わない決断こそが不可欠だ。

 米国内経済では、我が国と同様、所得格差が大きな問題となっており、オバマ選挙公約の中でも高所得者層向けの増税、中所得者層向けの減税など、分配政策に力点が置かれている。自民党でも、来週11日から党税調の議論が始まるが、我が国でも所得税に関しては中低所得者層への減税、高所得層への課税強化と言う税率構造改革の方向性を打ち出すべきだろう。日本のここ10年間の所得階級別世帯分布の推移を見ると、ここに来て年収500万円以下の世帯がかなり増加しており、平均所得金額は、平成8年の661万円から平成18年には567万円にまで、約100万円も減少している。非正規雇用などで当面しのぐ企業経営のしわ寄せがここに来ているのだろう。相続税に関しても見直しが必要だろう。

 日米ともに重要なことは、国内社会の歪みを解消すると同時に、あくまでも将来投資を怠らないことによって、経済社会の活力は絶えず維持、向上させていくこと、すなわち、成長戦略を欠かさないことだ。オバマ戦略を見る限り、基礎研究や技術開発予算の倍増やエネルギー・環境分野への重点投資など、この基本線は外していないように見える。しかし、総選挙を控えた我が国では、与野党とも政治が余りにも近視眼に陥っていないか。選挙のための政治を行ってはならず、国家百年の計を忘れた政治は、国家を誤った方向に導くことになる。

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