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やすひさの独り言 Yasuhisa's Soliloquy 今一番伝えたい考えや想いをお伝えいたします

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2009/06/19(金) NO.532号 

命を救いたい!〜臓器移植法改正への思い(6月19日)

 昨日、賛成263票、反対167票で、臓器移植法改正案4案のうち、いわゆる「A案」が衆議院本会議で可決された。鳴りやまぬ拍手に、胸が熱くなった。振り返ると、提案者の中山太郎代議士が最後列で起立して深々と頭を下げられていたが、その目には涙があった。ご子息の肝臓を生体移植して命を守られ、今期限りで政界を引退される予定の河野議長も、まさに感無量の表情をしておられた。
 私の財布には、一枚のあせかけの黄色の「臓器提供意思表示カード」が入っている。カードの裏面には三つの選択肢が表示され、私のは一番目の「私は脳死の判定に従い、脳死後、移植のために○で囲んだ臓器を提供します。」の項目に○がしてあり、全ての臓器に○がしてある。署名日は、1999年2月22日で、私自身と家族として妻の署名がある。上京する飛行機の中で、お互いの意思表示カードに署名した。「献眼登録もしたし、みんなあげちゃえば」と妻がやけに嬉しそうに僕のカードにサインしていたのを覚えている。
 私が臓器移植法案にかかわることになったきっかけは、15年ほど前、父の大変親しかった友人の方との付き合いにさかのぼる。彼は、長らく腎臓病に苦しみ腎臓透析を受けていたのだが、医学の進歩でようやく血液型が異なる奥様の腎臓の提供を受けることができ、一時はお元気になられたが、既に長年の透析で血管が弱っていたのだろう、ついに亡くなってしまった。その後、奥様や大親友でもある彼の息子から移植にまつわる様々な現状の制度不備や苦労を教えてもらい、もっと早く移植が実現していたらとの思いを共にした。
 また、個人的にも極めて親しく、東チモールやアフガニスタンなどにも一緒に行った河野太郎代議士は、ご父君のために、相当のリスクを負いつつ自らの肝臓を提供され、その話を感動して聞いた。河野代議士は、麻酔が余り効かない体質のため、手術の晩は、それこそベッドの上で七転八倒の苦しみを経験したそうだ。法改正により臓器移植の可能性を広げいくことができれば、リスクや苦しみを背負わなければならない人を少しでも減らしていくことができるのではないか。
 今から丁度12年前に現行法が成立したものの、これまでの移植例はたった81例。移植が広がらない最大の問題は本人による生前の書面での臓器提供意思表示が義務づけられている点だ。「3年目の見直し条項」がありながら12年も改正できなかったのは、「個人の死生観」に深く関わるからではあるが、この間、日本人の外国での移植に対してはなぜか世論も応援することが多かった。しかし、ここに来て世界保健機関(WHO)などは海外渡航移植に厳しい姿勢を打ち出すようになってきていた。自国民の命は自国民が助けるべきだ、というのが世界の潮流になりつつある。
 もしA案が否決されたら、少しでも事態の改善を図るため、子どもからの臓器提供だけを新たに認めるD案に賛成すべき、との意見もあった。しかし、患者団体などからは、移植を必要とする患者の9割が15歳以上であり、D案が成立すると、こうした大人の移植がこれまで通り困難な状況が固定化されてしまうので困るという要望を聞いていた。
 今回、主要政党は党議拘束をかけずに採決に臨んだ。臓器移植問題は生命倫理と深く関わり、悩ましい課題が多いが、しかし私は、人の命を救うことができるなら、ぎりぎりの選択を、信念を持って貫くしかない、との思いでこの問題にずっと向き合ってきた。今回、とりあえず衆議院は通過し、これから参議院の審議が始まるが、これからの行方はまだ不透明だ。そして成立前に解散があれば、廃案になってしまう。国民への説明や議論もまだまだこれから尽くしていかなければならないが、何とかこの法改正が成就し、失われなくて良い、大切な命が救われるようになってもらいたいと切に思う。