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やすひさの独り言 Yasuhisa's Soliloquy 今一番伝えたい考えや想いをお伝えいたします

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2009/04/03(金) NO.517号 

若手育成は「雑種交配」で(4月3日)

 自民党「科学技術創造立国推進調査会」に、MITの利根川教授が久し振りに来られ、「日本と世界の脳研究の現状と展望」と題して小一時間、講演をされた。理化学研究所の「脳化学総合研究センター長」として、40数年ぶりに日本でも仕事をすることになったばかりだそうだ。夢があり、楽しい話しから、エネルギーを頂いた。

 利根川教授によれば、脳は宇宙と並び、人類最大で最終のミステリー。また、脳科学は人文・社会科学に通じる唯一の自然科学であり、その応用範囲は医療、教育、政治・経済、社会、技術など、広範。しかし、日本での脳科学予算は低迷したままで、米国などに比べ十分の一以下だという。漸く日本でも仕事をしてくれるようになった利根川先生には、是非この分野で頑張ってもらい、我々もしっかり応援したい。

 講演の最後に「若くて優秀な研究者をどうやって育てるか?」との、船田元調査会長からの事前質問に、手書きメモに基づき、日本ではなぜ優秀な研究者が育たないか、自らの経験を踏まえて熱く語ってくれた。いわば、なぜご自分が日本に戻らず、海外に行った切りだったかを語ってくれたようなものだ。

 改善ポイントは、@大学入試制度、A大学院生などのへの経済支援、B教授からの独立、Cキャリアパスの多様化(「雑種交配」)の4点だそうだ。

まず、 @大学入試は筆記試験は共通一次試験的なものだけにし、あとはエッセーと面接のみとすべきとのこと。大賛成だ。そして、A大学院生、ポス・ドクの学費と生活費は、上位20校くらいの学生は全員に全額支給すべき。中途半端なバイトに時間を浪費するのは、確かにもったいない。また、B助教授、準教授は教授から完全独立すべき。日本はそうなっている、と言うだろうが、実態はそうなっていない、という。そして、Cキャリアパスは「純種交配」ではなく「雑種交配」、すなわち多様な人々と交われ、と言うわけだ。確かにこれは社会全体の労働移動の問題でもある。

 特に、「人間の発想は環境によって影響を受け、新しい環境に出会うことにより新しい発想が出てくる」と利根川教授は強調されていた。「同じ人と5年間付き合ったら、もう新しい発想や学びは出てこない」という。ちなみに「学部→大学院→ポス・ドク→助・準教授→教授」というキャリアパスを見ると、利根川教授の「京大→米・加州大→米・加州ソーク研究所→スイス・バーゼル研究所→MIT」や彼の同僚研究者の一人の「スタンフォード大→ハーバード大→MIT→ロックフェラー大→独・マックスプランク研究所」といったように転々としているが、さしずめ日本の大物研究者なら、「東大→東大→ハーバード大→東大→東大」と言った「単線型」で、こういう環境では新しい発想は出てこない、と言う。米国では、野心ある若い人ほどドンドン大学などを移っていくそうだ。米国の大学の階層は、いわば「台形」で、上に行っても移動自由だが、日本は「ピラミッド型」で、トップクラスは身動きが取れない。日本でも研究する場を移れば有利になる仕組みを作るべきだ、との提案だった。

 やはり人材育成を通じた日本の明るい未来構築のためには、安倍内閣で動かし始めていた「大学・大学院改革」をしっかり推進しなければならない、と改めて思った。