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やすひさの独り言 Yasuhisa's Soliloquy 今一番伝えたい考えや想いをお伝えいたします

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2009/04/19(日) NO.519号 

唄を忘れたカナリアになってはいけない(4月19日)

 一昨日の金曜日、既に国会に内閣から提出されている公務員制度改革関連法案を補完、強化するための議員立法である「幹部公務員法<仮称>」などを議論するため、「士気の高い霞ヶ関の再構築を実現するための研究会」の第一回会合を開催、賛同議員79名のうち40名が本人出席、14人の代理出席と合わせ、54名が集まった。参加議員は私達の提案する議員立法案を自民党行革推進本部で早急に議論すべきことで意見が一致、午後の本会議中に中馬本部長、石原公務員制度改革委員長にその旨申し入れた(議員立法のポイントは、4月14日付「独り言」参照)。

 残念ながら、お二人は「内閣の改正法案を既に国会に提出済みであり、議員立法は受けられない」と拒否。さらに、約80人の党所属国会議員が、少なくとも行革本部において本件を取り上げて議論をすべき、との要望に対しても、「政府案を出したのに議員立法を出すことは組織論としておかしい。そのことは、官房長官経験者なら分かるはず。従って行革本部では取り上げない」と、いささか根拠の薄い、表層的な理由で断られた。議論すら行わない、という姿勢には多少、驚かざるをえなかった。結論がどうなろうと議論は行う、というのが自民党の良き伝統だったはずだが、それも行わないという。

 私は、公務員制度改革を本格的に始めた安倍内閣の官房長官として、政府に限界があるなら議員立法で政府提出法案を補完し、政府・与党が一体となって改革の大きな全体像を国民に提示し、前進させるべきだ、と昨年末から一貫して主張して来たし、仮に私が今の官房長官であったら、むしろ政府でできないことを自民党から提案してもらえれば、歓迎していただろう。自民党行革本部も、かねてから議員立法を提出することは止めない、と繰り返し明言してきたところだ。

 このまま政府提出法案だけの国会審議となれば、野党から「政府・与党は、総理が止めると約束した天下りをヤミで維持するか、幹部を定年まで高給で保護するか、のいずれかで、高級官僚の既得権温存だ」と非難され、挙げ句の果てに公務員制度改革基本法が求める「新たな幹部職制度」の野党案を修正協議で飲まされる可能性大だ。そして、その野党案は、我々が今回提案している内容とそう違わないものになる可能性も大。しかし、「結局、自民党にはできなかった」という結果だけが残ることになる。

 今回、行革幹部の言う「政府案を先に出したら議員立法を出すべきではない」との古い論理は通らない。これは長い間霞ヶ関による支配のために使われていた、霞ヶ関に都合がよい論理だ。そもそも立法府は立法行為こそ本源的使命であり、「政府提出法案が原則で、議員立法は例外」などという原則があるはずもなく、むしろ本来の姿はその逆だろう。立法府が立法活動を放棄する、すなわちカナリアが唄を歌わなくなってはおしまいだ。元来、行政府は立法府の作った法律に従って執行するのがその役割であって、行政府の都合で立法府が本来業務の立法と改革を止めることはあってはならない。

 ましてや、今回の改革は、その対象が行政府の官僚制度という、近代日本の根幹を支えてきた制度を新たな時代に相応しいものに大転換することだ。その中で営々として続けられてきた慣行を積極的に変えるよう、官僚機構自らが進んで考えるはずもない。今回は立法府、すなわち政治こそが改革をリードしなくてはならないのだ。

 98年の金融危機に際し政府は、自ら提出した「ブリッジバンク法案」策定過程では、大蔵政務次官であった私が強く主張する「破綻銀行の即時一時国有化」条項を入れ込むことを、財産権の侵害による憲法違反との指摘を受けることを恐れて拒否した。しかし金融国会になって野党からの議員立法で改めて即時一時国有化が提案され、「政策新人類」と呼ばれた我々実務者間の与野党協議の末、議員同士は一時国有化方式を取り上げることとし、政府案と我々が合意した案とをドッキングした「金融再生法」が議員立法として成立、これによって98年以降の金融危機は克服可能となったのだ。

 あのときの「憲法違反の恐れ」を盾に慎重だった政府の限界を超えたのは、与野党による立法府での合意であった。今回、政府は「労働基本権の制約」を盾に、新たな制度に踏み込むことに慎重だ。つまり、「幹部もあくまで一般職であり、本来有するはずの協約締結権などを制約されているのだから、性急な改革はできない」という理屈で、たしかに、"現行法制度を前提にせざるを得ない政府"としては、やむを得ないかもしれない。しかし、事柄は約33万人の公務員のうちの600人の幹部職を対象にする新たな人事管理制度だ。民間企業ならば取締役と末端社員が別制度であることは当たり前だし、取締役は協約交渉やストライキなどやらない。"法制度を作り変える立場の立法府"ならば、乗り越えられる壁だ。今回こそ、野党からの議員修正を待つことなく、与党が議員立法を政府提出法案と同時に提出し、改革を推進すべきだと私は思う。そしてそのためにも、まずは自民党行革本部で、早急に正面から我々の提案を議論してもらいたい。

 また、我々の議員立法について、「倒閣運動」とか「政局」とか言って騒いでいる官僚たちがいる。一部マスコミも騙されて、とんでもない記事を書いているが、国民が騙されないようにしないといけない。ましてや、自民党の中でそんな懸念がもたれているとしたら、改革を止めようとする守旧派官僚たちの思う壺だ。

 「30歳で課長、40歳で局長、45歳で次官」が可能となる、官民間を含め風通しの良い、頑張る人が正しく評価される霞ヶ関を実現し、士気が高く、活力に満ちた優秀な官僚に、国家、国民のためにしっかり働いてもらう。そして同時に、天下りを根絶し、よって税金のムダ遣いをなくす。これこそが公務員制度改革の目的であることを、改めて確認したい。