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やすひさの独り言 Yasuhisa's Soliloquy 今一番伝えたい考えや想いをお伝えいたします

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2010/08/29(日) NO.613号 

歴史と運命の重さを実感する訪問を終えて(8月29日)

 オーストリア、セルビア、ハンガリーを訪問してきた。各地で頑張っている友人たちと旧交を温め、国々の歴史をたどり、政府要人から市場で野菜を売る人々まで、様々な人々とふれあい、それぞれの街並みや史跡などを見て、歴史と人間の運命の重さを思う訪問となった。

 ハプスブルグ家の下、帝国として広範に君臨し、500年の興亡の歴史に彩られたオーストリア。近隣諸国に蹂躙されたあげく、いまだに民族や宗教紛争の絶えない歴史のただなかにいるセルビアはじめ旧ユーゴスラビア諸国。オスマン・トルコはじめ周辺の外国勢力に幾度となく征服され、今では領土もかつての三分の一にまで縮小しながら独自の言語・文化を守り続けるハンガリー。

 日本から遠く離れた東欧の地で民族や宗教、戦争と平和について深く考えた。人間、世界のどこで、いつ、一回限りの命を授かり、一生を送るかによって、その運命や家族との幸せがかくも変わるものか、としみじみ感じる。

 EUとの関係を見ても、早くからEUの一部として経済発展を目指してきたオーストリア。2004年にEU加盟を果たしたものの、いまだIMF・EUから支援を受け、財政再建中で単一通貨ユーロが許されないハンガリー。コソボ問題を抱えつつも国民生活の飛躍のためにもEU加盟が悲願のセルビア、と隣同士ながら
各国の事情は大きく異なる。

 旅の初日はウィーンで、国際原子力機関(IAEA)の天野事務局長、中根在ウィーン国連代表部大使、そして、国連機関UNIDOで活躍する旧友の浦元氏らと懇談。核問題も含め、日本の世界貢献の在り方について夜更けまで語り合う。IAEAが原発に伴う核開発などの分野でのみならず、がんに対する先端的放射線治療などでも、実は平和貢献への大きな努力を傾けている、という大変興味深い話を天野局長から聞く。

 ウィーンから汽車で2時間半のザルツブルグは、モーツアルトの生まれ故郷。現地の音楽大学でピアノの講師を務める私の従姉妹が音楽の町を案内してくれ、夜はザルツブルグ音楽祭のハイライト、オペラ「エレクトラ」を鑑賞。ドイツ語はさっぱりわからなかったが、正装した熟年男女の観衆に混じり、妻ともども雰囲気を堪能して感激。もっとも私は、いつものようにときおり爆睡、隣からつつかれ起こされることしばしばだった。

 セルビアでは、大使を務める義兄宅でジェーリッチ副首相、ドラグチノビッチ財務大臣と会談。何が何でもセルビアを豊かにしよう、そのためにEUに加盟するぞ、という強い意気込みを肌で感じる。しかし、EU加盟の条件として、既にセルビアからの独立宣言をしてしまい、国際司法裁判所もその宣言の有効性を認めたコソボ地域の独立問題に関しては、独立を認める妥協の意志は全く感じ取れなかった。

 ハンガリーでは、友人の伊藤大使から、侵略と征服の苦難の歴史を潜り抜けてきたこの国の事情を詳しく学んだ。カルバリチ国立銀行副総裁との会談では、EU単独通貨参加の前提である財政再建を巡り、IMFと敵対する政権交代直後の政府・与党への強い違和感が示される。総裁の更迭の噂すらある緊張感の中、率直な意見交換ができた。

 小国ながら常に高い矜持を誇り、他国との厳しい緊張関係の中で自国を守り発展させるために知恵と努力を続けるヨーロッパの国々。翻って外国から日本を眺めると、我が国は、ほぼ単一民族で、海という自然の要塞に守られ、外国からの侵略や支配を受けることもなく独立を享受し、独自の文化を発展させてくることができた。政治的にも、内向きの争いに終始することが許されてきた、極めて珍しい国であり、それは今の日本の政治を見ても変わっていない。責任感の欠如した「平和ぼけ」ぶりは何としたことか。

 経済政策でも、複雑で、激しく変わり続ける国際社会の中で、構造改革を中途半端で投げ出したがゆえに、いまだ競争力回復の道筋は見えていない。欧米経済の先行き不透明感が増すなかで進む円高に、何ら有効な手を打てずにいる。危機感薄き菅民主党内閣に、「国民の生活が第一」と言う資格はない。

 民主党の代表選挙を巡り、内向きテンションが高まる日本。選挙の洗礼なしに一年ごとに総理を替えるのはけしからん、と厳しく自民党政権を批判し続けてきた民主党自身、一年に三人の総理を登場させかねない状況だ。国家観を欠くまま政争に明け暮れる間に、韓国や中国など新興国に追いつかれ、追い越され、先進国にはリードを広げられかねない。すべてのツケは国民に回ってしまうという自覚と、国家のためにすべてを賭ける覚悟を持たない政治に、国を任せるわけにはいかない。