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やすひさの独り言 Yasuhisa's Soliloquy 今一番伝えたい考えや想いをお伝えいたします

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2011/12/25(日) NO.693号 

ロボットも使う攻めの農業

 TPP論議で日本の農業強化に焦点が当たる今日この頃だが、このところ私の地元で、いろいろな意味で「攻めの農業」に挑戦しておられる方々に触れる機会に恵まれ、力強く感じている。

 2週間前の10日(土)には、耕作放棄地を借り受け、青森の「奇跡のリンゴ」で知られる木村秋則氏が進めている、農薬・肥料・除草剤を全く使わない「自然農法」でコメや野菜を作っている友人達の、松山市の南端にある農地と販売所を訪問。「農地が荒れると、近隣地域住民の心も荒れる」と友人が言うように、草ぼうぼうの隣の田んぼに比べ、彼らの刈り取り後の田んぼは、温もりを感じさせる。

 田畑で働くのは12人、うち10人はその友人が運営する就労継続支援事業B型に通っている精神障害者、身体障害者、発達障害者などだ。土がストレス、しんどさ、を吸い取ってくれるそうだ。自立支援法では、B型作業所自体が農業をやるとなると、農地にトイレや休憩所、相談室などの設置が義務づけられているので、きわめて不便。そこで農業生産法人を立ち上げ、そこがB型作業所に「施設外就労」として作業委託する形を取っているそうだ。驚いたのは、ここの障害者の工賃が、全国平均13,000円程度なのに比べ、今年は7〜8万円になりそうだ、という。昨年も愛媛県内で断トツトップだったそうだ。ブログを見て東京から「自然農法で作った米を欲しい」といったリクエストが来るそうで、コメが良い値段で売れるがゆえに、工賃も高く出せるようだ。

 11日(日)には、東温市ではだか麦、もち麦、アワ、ヒエなど、100ヘクタールほどの先進農業を実践している、親しい農業者の農園に、10人余りの若手農業者などを集めてくれた。生産している作物は、柑橘、キャベツ、トマト、きゅうり、米麦、などバラバラだが、共通項は、それぞれ工夫を重ねて差別化に概ね成功しているところだ。TPPについても、情報が足りないとの指摘はあれども反対はなく、開放後に自信すら持つ青年もいた。勉強会の途中に携帯電話を何度となく取って、黙って聞いておられる酪農家の方がいて、何をしているのか尋ねてみると、「搾乳ロボット」からの故障通知電話だとのこと。すごい。

 昨日、この酪農家の牧場を、西条(旧東予市)に訪ねる。明らかに雪が降っている石鎚山から吹き降ろすみぞれ交じりの寒風に震えながら牛舎に入ると、柵の向こう側には、搾乳を行列を作って待ち、順次搾乳機に自発的に、目的意識すら持っていそうに歩いて行く牛たちが見える。一頭ごとに識別番号でコンピュータ管理されており、搾乳量・時間間隔、飼料摂取量・時間、など全てが記録されている。

 圧巻は搾乳ロボット。誘導路から搾乳ロボットの前に自らの意思で入ってくるように見えるが、よく聞くと、配合飼料がコンピューター管理の下で落ちてくるエサ入れがあり、主にそれめがけて来るようだ。まずロボットが、洗浄機をアームで運び、赤外線で乳首を探し4つの乳首を洗う。なかなか乳首を探せない場合は、一旦あきらめ、外についている機械で顔を洗うように赤外線発射部部に水を噴霧しスポンジで拭き、再度トライ。顔を洗って出直してくる感じで、かわいい。次は、搾乳器を乳首に運び、4本同時に搾乳開始。搾る量は全てコントロールパネルに表示される。

 このロボット、スウェーデン製。日本メーカーは「動かない牛」を前提にし、スウェーデンとオランダは「動く牛」を前提にロボット開発し、日本は牛の行動モデルで負けたそうだ。同機種は目下四国には3台しか入っておらず、そのうち2台がこの牧場にあリ、約100頭の牛から毎日ミルクを搾っている。価格は3千万円。ちなみに従業員はゼロ。コストを確実に引き下げている。

 このように、それぞれ工夫をして差別化し、コストダウンを大幅に図るしか日本の農業の生き残る道はないだろう。TPPに関しては、野田内閣は参加に向け交渉開始を決定しているのであるから、賛否に関係なく、自民党も、政府も、一日も早く、日本の農業の飛躍的競争力強化策のパッケージを出すしかない。交渉上守るべき国益を特定することは大事だが、手続き論や他のFTAへの転換に拘るだけでは、解決にならない。