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やすひさの独り言 Yasuhisa's Soliloquy 今一番伝えたい考えや想いをお伝えいたします

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2011/05/22(日) NO.662号 

原発賠償問題は資本主義の原理原則に則って

 東電が3月期決算を発表し、1兆2500億円の大幅赤字を計上した。これには、事故の賠償負担は含まれていない。一方、13日に政府が決定し、今後の東電の行方を左右する原発事故賠償スキームは問題点だらけだ。16日の衆・予算委で、私から徹底追求したが、菅総理、海江田大臣は満足に応えられないことばかりで、その日のうちに「関連法案は次期臨時国会に提出」と国会提出先送り報道をされるなど、与党内のバラバラ感を反映してか、政府の腰も全く据わっていない。そもそも今回のスキームは、閣議決定もせず、関係閣僚会合決定という法的根拠の弱い、おっかなびっくり出してきた極めて不安定な決定だ。

 政府の賠償スキームの問題点の主なものは、以下の通りだ。
(1)最大の問題点は、株主、銀行、社債権者が責任を取らない中、大半の負担が電気料金を通じて長期間にわたって国民につけ回しされる事。
(2)新機構への重い返済負担により、東電、そして昔懐かしい「護送船団方式」による「奉加帳」を回されて負担を押しつけられる他の電力会社も活力を失い、イノベーションも起きない、疲れ切った電力業界となること。
(3)上場会社でありながら東電は、株主責任を取らせない、債務超過にはさせない、という仕組みの下、規律の効かない「国営電力会社」化してしまうこと。
(4)そうした「生命維持装置つき国営会社」のような会社の上場を継続させれば、「日本は資本市場のルールをないがしろにする社会主義国家」との国際的批判は避けられないこと。
(5)加えて政府は、エネルギー政策の抜本見直しなど、基本的な議論もないまま、今回のスキームを福島原発事故賠償に限らず、原子力損害賠償法(原賠法)第16条にある「政府による支援」に相当する恒久制度として決めてしまったこと。

 こうした数多くの問題点を抱えた今回の政府案は、拙速かつ無原則な国民軽視の賠償スキームと言わざるを得ない。

 リーマンショックの教訓に学ぶなら、こうした危機への対応において大事なことは原理原則である。今回、原発被害者への賠償スキームを考えるにあたって最も大事な視点は、(1)被災者への迅速かつ完全な賠償の実現、(2)電力の安定供給、そして(3)真の国民負担の最小化、の三点だ。政府案も「国民負担の極小化」を名目上は掲げているが、上述のとおり株主や銀行への配慮から、国民に過大な負担がつけ回しされている実態は「極小化」からは程遠い。

 資本主義の原理原則に従い国民負担を最小化しつつ、被災者への迅速な賠償を実現しようとするなら、やはり法的整理が主要な選択肢になってくるだろう。事実上の破綻宣告を自らした東電は、JAL同様に「企業再生支援機構」の下で、法的手続きを取りながら再生を図るべきだ。法的手続きにより、株主責任分で約3兆円、銀行の債権カットで約2兆円、合計5兆円は国民負担を減らすことができる。ちなみに、企業再生支援機構への申請期間終了時期は本年10月ないし来年4月で、まだ間に合う。

 政府案の抱える多くの矛盾が露呈した今、自民党としてもしっかりした対案を示して、被災者の救済と国民負担の最小化への道筋を示していく責任があるだろう。その際には、原発を含めたエネルギー政策の抜本見直しを含めた長期的な視野も持ちながら、あるべき取り組みの全体像を考える必要がある。