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2011/08/14(日) NO.673号 

安全実現に不可欠な独立性、専門性確保

 政府は、原子力規制行政について原子力安全・保安院を経済産業省から分離し、内閣府の原子力安全委員会などと統合した「原子力安全庁」(仮称)を環境省の外局として新設する見直し案を、関係閣僚会合において一昨日決定した。原発担当の細野大臣が肝煎りで進めた改革、とのことだが、以前にも(8月4日付独り言参照)指摘した通り、改革の本質を大きく外しており、これでは安全確保はかえって遠のいた感すらある。

 最大の問題は、政府の「環境省外局案」では、安全性確保のために先進各国の原子力規制機関が共通して確保している「独立性」、すなわち(1)規制機関の長が許認可権を保有し、(2)同じく長が人事権、予算権を保有するとともに、(3)他の行政、政治から影響を受けない、という3つの要件をことごとく充たしていないことだ。そもそも民主党は、2009年の衆院選マニフェスト(政策INDEX)で、「国家行政組織法第3条による独立性の高い原子力安全規制委員会を創設する」としている。私もこの2年前の民主党提案に賛成だ。

 細野大臣はテレビで、「三条委員会方式も考えたが、責任の所在や意思決定プロセスが不明確で、危機管理の際には政治家が決断をしなければならないため、大臣庁とした」と、いとも簡単に経緯説明をしていた。

 事の本質を捉えていない。おそらく、独立性、中立性のある三条委員会を常に嫌う役人に、「危機管理上問題あり」という常套論理でうまく説得されたのだろう。三条委員会が決断できず、機能しない、というなら公正取引委員会や運輸安全委員会などは即刻改組しなければならなくなる。

 原子力規制の新組織に求められるのは政権の思惑や経済・エネルギー政策や与党の政治圧力などから完全に独立し、原子力の安全性に対し、科学的、客観的に責任を持つ体制だ。米国(NRC<原子力規制委員会>)、フランス(ASN<原子力安全機関>)、英国(HSE<安全衛生庁>)を見ても、どこも独立組織で、建設・運転の許認可や安全検査を自ら行いうる権限を有している。また、いずれも専門家パワー集団で、NRCのヤツコ委員長は素粒子論の博士号を持っており、更迭後の日本の原子力安全・保安院長が相変わらず文化系の官僚(経済学部卒)であることとはえらい違いだ。民主党政権が失敗の教訓を学んでいないことが現れている。

 さらに「危機管理と独立性」に関して言うと、例えば船舶の運転を想像してみれば分かることだが、大量人員輸送中の船舶の航行中に非常事態が発生した場合、大臣という政治家のような操縦資格のない人間が舵を握ることは考えられない。多くの人命に関わる問題であり、そこに政治決断の余地はない。原子炉の運転も同様に、危機時に規制機関の長が、大臣ら政治家などの部外者に運転方法の相談をしたり、運転そのものの責任を門外漢の政治家に求めることはあり得ないし、またあってはならないことだ。しかし、今回の福島原子力発電所事故のベントを巡る混乱や、浜岡原発停止、玄海原発等の再起動問題、ストレステスト導入経緯を見ても、そのあってはならないことが起こってしまったのだ。

 環境省の外局となれば、一義的責任者は「原子力安全庁長官」だろうが、最終責任者は政治家である環境大臣。閣僚として政権を支える政治家が規制の最終責任を負うくらいならば、委員長以下委員が国会同意人事で決められるが、勧告しかできない現行の安全委員会のほうがまだマシかもしれない。

 今回の事故で原子力安全・保安院が東電に対して適切な指示が出来なかったのは、原子力災害発生時の保安院の役割分担、権限付与が不十分、不明確であった事によるところが大きかったことと、原子炉の運転、特に事故時の運転に関する専門的な管理能力が保安院に欠けていたためであり、これらの根本原因を是正することが組織改革の最も重要な目的のはずだ。すなわち、「独立性」と「専門性」だ。根本原因を是正しない限り、最高責任者を経産大臣から環境大臣に変えたところで、本質的には何ら変化がない。

 失墜した国民からの信頼を取り戻すには、パワフルな専門家を結集した独立行政委員会(三条委員会)方式しかないはずだ。民主党はマニフェストで国民に約束したこのことに、今一度忠実に立ち返るべきではないか。今こそ正しい政治主導を発揮して欲しい。

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