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週刊金融財政事情 2014年8月4日(夏季合併号)掲載記事

銀行振込制度抜本改革の狙いは労働生産性・利便性向上、円の国際化

決済システム高度化の焦点

自民党政務調査会長代理
衆議院議員 塩崎恭久

銀行振込制度抜本改革の狙いは労働生産性・利便性向上、円の国際化
国際標準の銀行システム構築はスピードが求められる

銀行振込制度の抜本改革を自民党「日本再生ビジョン」に盛り込んだ目的は、労働生産性と利便性の向上、そして円の国際化にある。各国が次々と便利な銀行振込制度を導入しつつあるなかで、日本の決済システムがスピード感をもって国際標準化に対応することは国民経済的に大きなプラスをもたらすと考えている。


煩雑な消込作業による労働生産性の低下

Q 自民党の「日本再生ビジョン」(再生ビジョン)で銀行振込制度の改善を盛り込んだ理由は何か

A 再生ビジョンで銀行振込制度の改善を盛り込んだ背景には、労働生産性の問題がある。経産省作成資料によれば、2003〜06年の平均でアメリカの労働生産性を100としたとき、大半の業種で日本は100を下回っており、この状態だといくら労働者数を増やしても企業収益は向上する見込みがない。なかでも卸・小売、飲食・宿泊業、運輸・倉庫業等、非製造業では軒並み50を下回っている。なぜこんなに生産性が低いのか。
 ある企業では月間1800時間の決済関連作業時間のうち、800時間が商取引と振り込まれた資金を突き合わせる作業に費やされている。これまで企業の商流情報については、発注、出荷、受領、請求、支払案内にいたるまで情報を標準化するシステムを経産省が補助金を出して推進してきた(06〜08年流通システム標準化事業)。しかし、商流情報は支払案内までで、その後の振込依頼、売掛金消込みなどの決済情報は銀行の範疇であり、二つは分断されてしまっている。銀行振込時に添付できる文字情報は20文字だけであり、これでは振り込まれた資金が、何に対する振り込みであるのかを特定できないため、相手方に電話するなどして、「この振込金がどの売掛金に対応するか」を、突き合わせる作業をしなければいけない状況が生まれている。
 また、大手企業であれば商流情報の標準化ができるが、中小企業が多くを占める卸・小売、飲食・宿泊業、運輸・倉庫業などは標準化がなかなか進まない。先日松山で地元経済界と西村康稔・内閣府副大臣との話合いの場がもたれて、われわれも立ち会った。中小企業団体中央会の会長が「中小企業のICT化の遅れが顕著。請求書を手書きの複写紙で発行している」という。中小企業でいかにシステム化・IT化が遅れているかの証左だ。
 中小企業における商流情報のIT化の推進、そして商流情報と決済情報の有機的リンクはきわめて重要だ。それを推し進めることが日本経済全体の生産性を上げることになるのではないか。卸・小売、飲食・宿泊、運輸・倉庫業などは就業者数の割合が高い業種であり、しかも地方に多い。地方の中小企業は銀行借入れへの依存度が高いことを考えると、その業務効率化と生産性向上を主導できるのは金融機関だと考える。


モンゴルでもリアルタイム決済

Q 企業ニーズが銀行振込制度改善を盛り込んだ理由ということか

A もちろん個人の利便性向上も大きな目的である。たとえば、政治家がパーティー券の代金を振り込んでもらうとき、振込人の名義人名が「自由民主党○○県○○市○○区○○支部」のように長いと「○○支部」という部分が切れていて、どこから振り込まれたのかわからない。それを確認するために銀行にいくと、三週間かかった、ということがあったと聞いている。政治家のみならず、どんな国民にも同じことが起こっているはずだ。

Q 24時間365日即時入金は国民、あるいは日本経済のために必要なことなのか

A われわれは、24時間365日、小口・大口、個人・企業を問わず即時入金ができるシステムをつくっていきましょう、と主張している。
 イギリス、スウェーデン、シンガポールではすでに24時間365日の即時入金を実現しているし、オーストラリアでも導入見込みだ。先日モンゴルへいったが、驚くべきことにモンゴルでも小口の決済は24時間365日のリアルタイムになったという。日本はこの点で、モンゴルよりも遅れている。日本は平日7時間であればリアルタイムで決済できるが、それ以外の時間帯では決済できない。
 金曜の夕方4時に送金すると、自分の口座からは即時に引き落とされるが、相手に着金するのは週明けというのはおかしい、という不満はよく聞く。諸外国の標準をみれば、「日本人だけがなぜこんな不便を被らないといけないのか」と国民は思うだろう。即時入金はグローバルスタンダードからいっても、国民経済の観点からいってもやらねばならないことだ。
 利便性の向上に加えて、もう一つ重要な視点は円の国際化だ。諸外国が24時間365日の即時入金、あるいは商流情報と決済情報の紐付けを実現するなか、日本だけ実現していないとなれば、自然と円は決済通貨として選ばれなくなる。国際的な円の利用を広めるためにも、銀行振込制度の改善は必要だ。このことは日本の企業や銀行のビジネスに大いにプラスになるはずだ。

Q 再生ビジョンには「銀行振込制度の改革には、企業や銀行のIT投資を促していく施策が欠かせない」とある。なんらかの後押しを考えているのか

A 一義的には民間がやるべきことと考えている。イギリスでも、05年に財務省の意向を受けて設立された協議体で即時入金できるシステム構築につき合意があり、08年から即時入金を可能とする決済システムであるファスター・ペイメントが稼働を開始した。国の意向を受けた民間銀行の選択で、24時間365日のシステムができたということだ。われわれも民間である全銀協を説得する立場にある。
 ファスター・ペイメントの構築につき、イギリス政府が補助金を出しているわけではない。日本でも当初から、国がコストを負担するという考え方はない。諸外国の情勢をみると早くしなければいけないが、やるのは民間なので、そう簡単ではない。現状、即時入金のシステム構築のためにどんな方法があり、どれだけの手間・コストがかかるか、という見積りを早く出してください、と働きかけている。場合によっては、経産省が商流情報の標準化システムを推進したときのように、中小、零細企業のシステム高度化について国が応援することがあるかもしれない。
 イギリスにはBacsとファスター・ペイメントという二つの決済システムがある。日本には全銀ネットの一つしかない。国民が決済システムを選べない現状があるということだ。即時入金を実現するために、現状をふまえたうえで、どの方法がベストなのか、一つしかない決済システムをさらに高度化するのか、もう一つ新たに決済システムをつくるのか、実務者で十分に議論してほしい。


円の国際化は本邦銀行にもメリット

Q 金融機関へのメッセージはあるか

A システム投資はコストがかかるが、利用者からみれば相当メリットがあることだし、経済全体としてもプラスが大きい。お金の循環を早める施策は、コストダウン・生産性アップにつながる。
 諸外国の決済の利便性向上が想像以上に速いスピードで進んでいる。金融界は国民のためにぜひとも急いで検討していただきたい。
 ドルは中国その他アジアの国でも使えるし、日本国内でも預金としての需要がある。これに対し、円で受け取ってくれない外国の人はいまだに多くいる。外国人にとって円をもつことの魅力が高ければ、たとえば、ある日本企業がベトナム工場の取引先に代金を支払うとき、円で受け取ってもらえることになり、その企業の為替リスクが軽減される。
 また、日本の銀行は、円が諸外国で使われることによって恩恵を受ける可能性が高い。タイ人のAさんがインドネシア人Bさんに円建てで送金するということがあれば、Aさんは本邦銀行Xのバンコク支店から本邦銀行Yのジャカルタ支店のBさん口座に送ることになる。タイからインドネシアへの送金のための送金手数料が日本の銀行の収益になる、ということだ。顧客の利便性の向上は明らかに銀行の収益につながる。
 通貨の使い勝手を支えるのは銀行のシステムだ。利便性の高い銀行のシステムが円の魅力を高める。少なくとも国際標準を満たす銀行のシステムは、円の国際化という観点からも求められている。
 銀行振込制度の抜本改革は、国民生活の利便性と企業の生産性の向上、国際的な円資金の利用、ひいては本邦企業や銀行のビジネス展開に大きな役割を果たすと考えている。
(聞き手・本誌 厚治英一)