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現代ビジネス-2012年8月14日掲載記事

自民党がJAL再上場に反対する理由。従来型の業者行政を脱し、EU並みの国家補助ルールを導入して公正で魅力的な市場形成を!(現代ビジネス)

「日本航空の再上場は見合わせるべき旨決議する」

 新聞でも報道されている通り、自民党国土交通部会は7月13日、日本航空(JAL)再上場反対の決議を採択した。自民党が再上場に反対する主な理由を決議文に見ると、以下の通りだ。

「日本航空は公的支援の恩恵を受けながら、公共性の高い地方路線から撤退」

「黒字会社がこれからも巨額の法人税の免除等の恩恵を受け続け事業拡大することは、到底国民の納得が得られるものではない」

「そもそも本件は航空政策に関する明確なビジョンが欠如している」

 何故これほどまでにJALの再生が物議を醸しているのか。

 ご存じの通り、JALは一昨年、債務超過に陥り経営破たんした。民主党内閣は企業再生支援機構の下での再生を試み、会社更生法も適用しながら、5,215億円の債務免除、3,500億円の公的資本の注入などの財政的支援を行った。

 一方で、羽田-パリ線、羽田-サンフランシスコ線、成田-ボストン線など国際線の新規路線を次々に開設、格安航空会社(LCC)への出資も実現するなど、国交省の後ろ盾なくしてあり得ない「救済策」が矢継ぎ早に打たれた。政府の莫大な支援を受けて再生したわけである。

法的更正手続きと公的資本の「二重恩恵」

 地元の松山と東京をしばしば往復する私自身、JALも全日本空輸(ANA)も利用する。複数の航空会社がサービスや料金で競争し、切磋琢磨することが、いかに利用者に利益をもたらすか、身を持って感じている。だから、JALの再生それ自体を否定するわけではない。一生懸命職務に取り組んでいる職員の姿を、私はいつも見ている。

 私が問題視しているのは、JALの再上場ケースをきっかけに、日本には、政府の業者行政はあっても、他の同業者もいる市場における公正な競争を確保する政策が不在であることが、誰の目にも明らかになってきたことだ。

 私が地元でJAL問題の受け止めを若手経営者などに聞くと、異口同音に「何か変だ。おかしい。経営破綻した企業が民事再生法でむしろ以前より身軽になって蘇り、安値受注に走り出して我々同業者を圧迫し始めるのと良く似ている」と言う。

 なぜゾンビ企業が健全な同業他社の足を引っ張るような事態になるのか。それは、破綻した企業を国が公的資金などを使って救済する場合の明確なルール、ガイドラインが日本には存在しないからである。

 国が民間企業を救済したり、支援したりすると、当然ながら、その業界の競争状態を大きく歪めることになる。JALを国の手厚い支援で再生させた結果、破綻していない競合企業を含む市場全体の競争条件がいびつになった。自助努力でギリギリの経営をしてきた会社よりも、経営に失敗し、破綻した会社の方が有利になるとすれば、こんな不公正はないだろう。

 具体的にみてみよう。今回JALは会社更生法の適用によって欠損金の繰越が認められること等により、9年間で少なくとも3,110億円もの法人税が免除されるという。私も8月7日の衆議院国土交通委員会でこの問題を取り上げたが、こうした破綻に際して法的更正手続きの恩恵を受けながら、更に公的資本も上乗せして受け取る、言うなれば「二重恩恵」を民間企業が享受したケースは、世界を見渡してもJAL以外にはない、ということを羽田雄一郎・国交相は率直に認めた。

 国交省は、注入した公的資本3,500億円は上場によって市場から回収できると言っている。だが、それだけでは投入した国民の税金をすべて回収できたことにはならない。注入から再上場までの約2年半の利息を考えただけでも、仮に1%としても約90億円になる。

 また、過剰かつ二重の恩恵を与えてJALが競争上優位に立ったことで、同業他社の収益が圧迫され、納税額が減少したと考えられる分も、形を変えた国民の負担である。これらは再上場しても永遠に返ってこない「国民負担」なのだ。国会でも私の質問に対し羽田国交相は「(返ってこない)国民負担はある」と認めている。

EUには公正な市場を守るための覚悟がある

 これらに対し、欧州連合(EU)は、国家が民間企業に公的資金支援を行うに際して守るべき哲学を持っている。まず、EU機能条約の第107条には以下のような、公的資金支援を原則違法とする定めがある。

条約に特段の定めがない限り、国家の補助金または国家の資金から交付される補助金であって、特定の企業もしくは生産部門の優遇によって競争を歪めるもの、またはその恐れのあるものは、種類のいかんを問わず、加盟国間の貿易を害する限り、域内市場で認められない。

 つまり、国家による財政的支援は競争を歪めるので、民間企業には原則として与えてはいけない、としているのだ。

 さらにこのEU機能条約第107条の下には、例外的に適用除外される場合に関する、厳格かつより具体的なガイドラインの詳細が定められている。直近では2004年に改訂されたガイドラインがあり、その第31条には、「公的資金による再生支援は、競争相手に不公平な負担と社会的・経済的犠牲を強いる」とまで明記されている。それだけのリスクを認識しており、その負の政策効果をどう扱って公正な市場を守るのか、との覚悟を感じる。

 公的支援が受けられる条件として、そのガイドラインの第25条には、

(1)融資や融資保証の形で行われ、6ヵ月以内に終了すること
(2)重大な社会的危機に基づくものであること
(3)企業の経営維持に必要最小限の金額に限定されること
(4)最初で最後の1回きりであること

 などが掲げられている。すなわち、民間の企業経営が破綻した場合に、国家、政府の財政的支援は、社会的に重大な影響を与えかねない場合以外は認めないとしているわけだ。

 加えて、仮に国家支援を受ける際には、同業他社等、市場への悪影響を減殺するための「補償措置」を実施する必要があるとしている。

 その「補償措置」とは以下のようなものだ。

(1)資産の売却、生産能力または市場シェアの引き下げ、および当該市場への参入障壁の削減を行なうこと(第39条)
(2)不要な不採算部門の償却および閉鎖は、補償措置とみなされない(第40条)
(3)長期にわたる構造的供給過剰状態にある市場においては、生産能力またはシェアの削減は最大100%にまで至る(第42条)
(4)公的支援による資産の購入は承認されない(第77条)

 などが挙げられる。JALのケースであれば、その殆どの要件に不合格という結果は必至だ。

 実際、欧米では公的資本注入が許されるのは、本当に限定的な、金融全体の決済システムを担う銀行破綻のようなシステミックリスクを伴うケースと、雇用等の社会的影響が甚大な企業破綻(too big to fail)のようなケースのみ、ということだろう。

「官僚統制」「社会主義経済国家」を脱するために

 では一体、日本では国が救済すべき民間企業の範囲をどう考えてきたのか。残念ながら、EUのような明確な基準は存在しないままできてしまった。

 国交省は、今回のJALへの公的資本注入の理由について「ネットワーク維持のため」と強弁してきた。ネットワークを持つ企業ならばどこでも救済され、公的資本を入れることができるのか。その程度の理由ならば、今後殆どあらゆる企業が公的資本注入を受けられることになってしまう。

 政府がこのように経済哲学も、産業の将来グランドビジョンもなく、いささか無節操なJAL再生を強行してきた背景には、縦割りの「業者行政」があるのではないか。日本ではこれまで、官庁が自らの監督先企業を救済するために無原則に国民の税金を使うような事がまかり通ってきたのだ。

 こうした「業者行政」は自民党政権時代からの「負の遺産」ともいえるが、これを撤廃し、「市場のルール」と「競争政策」という横串を通した、全体としてのあるべき原則論を打ち立てる必要があるのではないか。

 国交委員会には、公正な競争市場の番人である公正取引委員会の竹島一郎委員長を招いた。私が「日本でもEUのような、市場をゆがめる国家補助の原則禁止法規と、市場原則に見合った適用除外を規定したガイドライン的な指針が必要だと思わないか」と質したところ、竹島氏はこう答えた。

「国家補助というのは個別(民間)企業にしてはいけないというのが、これは常識だと思います。したがって、それを覆す例外としては、よほど大きな公益上の要請がある(必要がある)。その程度はともかくとして、(国家補助が)競争をゆがめることは当然であります」

 さらにEU型のガイドラインについても、

「今の公正取引委員会には、このJALの救済の中身について物を申す権限はございませんけれども、EU(機能条約)の107条に基づく国家補助規制、それに基づく具体的な航空会社の(救済条件)、そういうところで示されている考え方というのは日本においても共有されてしかるべきだと私は思っております」

 省庁縦割りの業者行政がまかり通ってきた日本。各省庁が競争を歪めかねないような救済措置や補助金を決めた場合でも、公正取引委員会がストップをかける権限は、今まではなかった。こうした状態を解消するために政府が動かないならば、われわれ野党が議員立法によってEU型の国家補助規制やガイドラインを新設すべきではないかと考えている。竹島委員長からは「公正取引委員会としては、そういう制度ができ上がれば、当然、責任を持って仕事をさせていただきます」という言質を国会の場でいただいた。

「公正競争かくあるべし」という明確な哲学を、国会主導で打ち立てたいと思う。これが、国家と民間企業の関係を根本から変えるきっかけにもなり、日本がこれまでの「官僚統制」「社会主義経済国家」を脱することも可能になると考える。

 欧米諸国は国家と民間企業との関係やそれぞれの役割を厳格に考え、そうした考えの下に経済や市場運営を国家として行っている。欧米企業が日本市場に参加する際に、国家と民間企業が想像を超える緊密、一体的関係で競争条件を歪めることがあり得る、と考えるとすれば、日本はリスク市場だ、と見られているはずだ。

 となれば、民主党政権が、一方で「新成長戦略」「日本再生戦略」などと、いくら「成長」を唱えてみても、JAL救済のような無原則な市場運営を現実に行う国家としての姿を見せてしまえば、日本市場へ投資しよう、参画しよう、という気持ちにはなかなかなれないのではないか。

 この際、EU並みの国家補助ルールを導入することによって公正競争市場を確立し、不確実性を減らすことによって市場の魅力を増し、そのことによって海外からの投資を積極的に呼び込むべきだ。

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/33255